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神々の選んだ錬金術師  作者: すいな
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模擬戦

「気を付け、礼」

「お願いします」

ばらばらと声が聞こえてきた。うーん、やっぱりフェルムとかよりは返事が弱い。ま、しょうがないか…。

気を取り直して、大きく息を吸う。

「さて、今日は実力チェックをしようと思います。皆さんがどのくらい強いのかわかりませんから…」

「あの、先生」

俺の言葉を遮り、生徒の一人が手を挙げた。俺は言葉を切り、彼女の方を見た。

「はい、何ですか?」

「私たち、実力を測れるほど練習してません! そもそも、剣とか持ったこともほとんどなくて…」

…嘘だろ。いやでもまぁ、別に自己防衛程度だし、最悪やらなくても平気な職業の人たちだ。そう考えたら妥当なのかもしれない。

いやでもそしたら、今日は何をすれば…。

少し前のソルドの言葉を思い出す。けど。

俺は首をねじり、ソルドとアシーナを見た。

今度は、ソルドもすぐに気が付いた。もう諦めたような様子。アシーナに軽く肩を叩かれ、大人しく俺の隣に並ぶ。

「さてと。じゃあ今日は、剣の持ち方とかの復習から…」

「えぇ、せっかくですし手本でも見せてくださいよ」

ソルドの言葉も遮られる。このクラスの礼儀どうかしてんな。思わず顔をしかめながら、俺は声の主を探した。

彼はすぐに見つかった。手を組んで頭の後ろに回し、顎を上げて足を組んでいる。

「えぇと、それはどういうことですか?」

しかめた顔を無理矢理直しながら、俺は聞いた。

「いやぁ、どういうことも何もないっすよ? センセイ方が戦えばいいんです。俺たちはそれ見て学びますんで。なぁ?」

そう言って彼は後ろの奴に同意を求める。後ろの奴はどうやら彼の取り巻き的な感じらしく、ニヤニヤ笑いながら頷いた。

「って訳なんでセンセ、模擬戦やってみてくださいよ」

うえぇ、面倒なタイプだ。『中途半端な時期に来たお前らなんか知らねえよ』とでも言いたいのかな。まぁ、俺たちの歳はだいぶ生徒と近いからしょうがないのか…。

さて、彼らが俺たちの戦いを見たとて何もわからないだろう。まず動体視力が追い付かないだろうし、仮に見えたとして初心者が実際に何を学べるのか。戦い方に癖出ちゃってるからね。

そう考えると別にやる必要ないんだよな。

…でもなぁ、あいつほっといたら授業妨害するよなきっと。


「…おい、ニーケ。やるぞ」

俺の気持ちを汲んだかの如く、ソルドが俺に囁いた。顔を見れば、軽くゆがんでいる。

「実力的には、お前とアシーナがやった方が試合は成り立つ。だが、僕とやった方があいつらには見えやすいだろ。ただし、手加減はしてくれよ」

「…わかった、指導しながらやるからスピードは落とせよ」

俺の言葉に軽く頷き、ソルドは剣を抜いた。よく磨がれた刃がきらりと光る。息をのむ音。真剣なんて、フェルム以外の職種には見る機会がないからだろうか。

全員の視線が自分の剣に集中したことを確認すると、ソルドは剣を軽く持ち上げた。

「さて、見えますか? 剣は、右手で柄の上の方を握るように持ちます。この時、親指と他の指は重なりません。親指は、柄の横側を抑えるようにしてあって、握るわけではありません。たまに人差し指を鍔より刃側に出して握る方法も見ますが、刃で指を斬る可能性があるのでお勧めしません。ここまでいいですか?」

返事はない。うーん、剣に圧倒されてるのかもしれないなぁ。

どうやらソルドもそう思ったらしく、目を軽く伏せて息を吐いた。

「…はい、わからなかったら後で聞きに来るなりしてください。それでは、模擬戦をやろうと思います。危ないのでちょっと離れててくださいね」

剣を再び鞘に仕舞い、彼は生徒の列に向かって手を広げた。それに従い、列全体がわらわらと後ろに下がる。

それを見て、俺は自分の腰から刀を抜いた。長い刀身の横を指で伝う。金属の、冷たい感覚が指を撫でる。刃は緩やかに湾曲を描き、白っぽく輝く。刃こぼれ一つない。よし、コンディション完璧。

気が付けば、ソルドが俺のすぐ隣に立っていた。少し視線をずらせば、紅白の旗を持ってアシーナが俺たちを見ている。準備は整った。

互いに軽く頷き、範囲の外に立った。


「両者前へ」

音もなく、俺たちは開始線に立つ。

視線を合わせ、浅く礼をする。

「始めっ」

アシーナの声が、聞こえた。


次の瞬間、キィィンという甲高い音が響いた。刀で強くおさえる先には、闘志を宿した青い瞳。ギリギリと言う音が聞こえそうなほど、刃がぶつかる。

刹那、ソルドが素早く剣を振った。

刀の力が外側に逃がされ、一瞬体勢が崩れる。

その瞬間、彼の刃が頭上から振り下ろされた。地を転がり、間一髪のところで避ける。腕の力を使って跳ね上がり、勢いを活かして下から刀を振り上げる。体を反らしてソルドが避ける。彼の鼻を、刃が掠める。

その隙に、胴に向かって刀を叩きこんだ。体をひねって躱すも避けきれず、彼は呻く。

間髪入れずに首筋を狙い、まっすぐに突きこんだ。が、剣に強く弾き上げられ、筋が乱れる。うねる音と共に、右から首に向かって刃が迫る。咄嗟に頭を下げる。強く曲げた膝を活かして飛び上がり、彼の後ろに回り込んだ。

視界から俺が消えたことで、ソルドの動きが僅かに止まった。その瞬間、俺は後ろから彼の首にひたりと刃を当てた。

あと少し力を加えれば、俺は彼の首を飛ばすことができる。その力加減であることに気づいたのだろう、ソルドは剣を離し、軽く両手を上げた。


「勝負あり!」

アシーナの声が響く。緊迫した空気がほぐれ、生徒がホッと息をつく音が聞こえた。

「さて、こんな感じですね。何か学べたことはありましたか?」

締めはアシーナの笑顔。勿論目は笑っていない。怖…。

その圧は、どうやらあの生徒たちにも効果的だったらしい。引き攣った顔をしている。

「あら、返事がありませんね。こういう時には返事をするものですよ?」

「はいっ!」

怯えた声音ではあるが、今までにないくらい大きい返事が聞こえる。

アシーナすげえ…。

「はい、それでは何を学べたか聞いてみましょうか。そうですねぇ、じゃあそこの貴方。さっき、私たちに模擬戦を要求していましたね? さて、何を学びましたか?」

そう言ってさされたのは、さっきの男子生徒だった。狼狽え半分、怯え半分みたいな顔をしている。しばらくさされたことにすら気づいていなかった。やがて、後ろの奴が彼をつつき、我に返ったようで彼は息をのんだ。

「えっ、と、え…」

「あらいけませんねぇ、先生の話はちゃんと聞いておかないと。何か学んだことはありますか、と私は聞いたんですよ?」

笑顔の追い打ち。

彼はしばらく無言で焦った顔をしていたがやがて、目から光が失せた。

「…先生の話はちゃんと聞こうと思いました。あと、先生方が強いことも分かりました」

「あら、それだけですか? わかりました。それでは、皆さんには基礎から教えたいと思います。異議がある人は今、しっかり教えてください?」

「…ありません」

最後の一言までしっかり生徒から引き出し、アシーナはにっこり笑った。

…とりあえず、授業はひと段落着いたようだ。

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