報告
さて、全てのグループの模擬戦を俺たちは順番に見て回った。
俺が見た通り、どのグループも戦闘力はほとんど同じようだ。
勝敗が決まりそうもない、互角の戦いを繰り広げているグループが半数以上ある。
だが、とあるグループを見て回った時だった。
誰だかわからないレベルの速さで、壮絶な打ち合いが繰り広げられていたのだ。見た感じだと、片方は防戦一方だ。レベル差が大きいのだろう。
そして、一際鋭い攻撃が手首に入った。攻撃しようと剣を軽く上げた、そのわずかな瞬間を狙ったのだ。
間一髪でそれを防ぐも、衝撃が強すぎて勢いが逃がしきれていない。打たれた方の手の力が刹那、緩んだ。
その瞬間だった。風のようなスピードで、一瞬で間合いを詰める。そのまま勢いよく、下から剣を弾き上げた。
慌てて剣を握るが間に合わない。握り方が緩くなっていたその剣は、回転しながら宙を舞った。
勢いよく木の剣が落ちる音が響く。
全員の能力がほぼ平行線の中で、その音は圧倒的に異質だった。
「一本! 勝負あり!」
そのグループの審判担当の手が、まっすぐに上がる。周りの戦いの音が一瞬止まり、わずかにどよめきが起こった。
「すげぇな、これだけかなり高い平均の中で、木剣が吹っ飛ぶ音がするなんてかなりの実力者だ」
ソルドが、感心したような声を上げた。
「そうね。私たちが学生のときの実力と大差ないわ」
アシーナも言う。俺も傍らで頷いた。
「で、誰だろう。一回模擬戦やってみたいんだけど…」
大差ないなら、自分が学生の時からどれくらい成長しているかわかるだろう。それに、その彼もこのままでは物足りないと思うし。
一人で勝手にいろいろ考えていたら、アシーナが声を上げた。
「あら、噂をすれば、ね。ニーケ、報告に来たわよ」
お、やった。
「ありがとう、アシーナ」
「お疲れ様。結果は?」
やってきた審判の子に、俺は尋ねた。
ちょっと緊張しているのだろう、強張った顔に硬い声で彼は答えた。
「ライ・ランドルフ・シグナルと、ロジャー・キャンベル・フェルムの勝負、ライ・ランドルフ・シグナルの勝利です」
「了解。時間はわかるかな?」
「…わかりません。ですが、あまり長くはなかったです。三分は経っていないと思います」
聞いていた感じ、三分どころか一分も危うかっただろう。ていうかライすごいな、フェルムに勝つとか。
「わかった、ありがとう。戻っていいよ」
「はい…」
強張った顔を少しほぐし、安心したように息を吐きだすと、彼は一礼して戻っていった。
なんか、緊張されるのってちょっと傷つくな…。
その後も、時間いっぱいまで彼らの模擬戦は続いた。おかげで、時間が終わった瞬間に大量の生徒が報告のために来て参った。
聞いた感じだと、勝敗が決さないところも多かった。まぁ、体力が足りずに途中で負けちゃった人とかいたけど、その人に関しても技術面では問題なさそうだ。
ようやく全員の報告をさばくと、俺は声を張った。
「さて、今日の授業はここまで。お疲れ様」
もう次の授業まで五分余りしかない。いろいろ言いたいことはあったけど、遅刻させるわけにもいかないからなぁ。
「ありがとうございました!」
全員が頭を下げ、わらわらといなくなった。
ふぅ、疲れた…。
思わずその場にへたり込んだ俺の上から、ソルドが顔を突き出した。
「ニーケ、お疲れ。でも次の時間もあるぜ?」
「…嘘だろ、人に教えたり大量の人の前に出たりすんのあんまり得意じゃないんだよ俺…」
ため息交じりに呟くと、ソルドが両眉を下げた。
「王族なんだしそういうの多いだろ? がんばれよ…ま、それはいいんだよ、次は二年の緑と黄だ。よかったな、教えるのが多いぜ」
良くない…。もう疲れた…。魔物と戦ってた方がいい気すらしてきた…。
「大丈夫よニーケ。彼らなら私たち二人だけでも対応できるわ。あなたは気になったところを軽くアドバイスするくらいでいいわよ」
そっと肩に手を置き、アシーナがフォローしてくれる。
「ありがと…」
「おいおいアシーナ、そりゃあないぜ。僕だって頑張ったんだぜ?」
ソルドの声が俺に割り込んだ。拗ねたような声を取り繕ってるがこいつ、面白がってんな…。
「あなたはこういうの得意でしょ? 大丈夫よ」
アシーナが雑な返答をする。ちゃんと面白がってるのがわかっている声音だ。
「なんだその投げやりな感じ!」
「それは仕方ないだろう。彼女らはお前との関係とは違うのだからな。お前だってわかっているだろう、ソルド?」
不意に、後ろから声が飛んできた。俺たちは一斉に振り返る。
そこには、後ろに生徒を率いたイシュハが立っていた。姿形、大きさが完全に人間のそれになっているスタイルだ。さすがに生徒の前で魔物スタイルは出せないからなぁ。
「おう、イシュハじゃないか! 話は終わったのか?」
ソルドが嬉しそうに言う。それに対し、イシュハは肩を竦めた。
「終わったも何も、私が魔法を使えるのはニーケの姉上に教わったからだろう? 人間のモノと大差ない。彼の期待には沿えなかったな」
「ふぅん、そうだったのか。で、後ろの奴らは?」
「お前らが教える生徒だ。お前ら、教室も何も連絡していなかったようではないか。教師たるもの、生徒への伝達はちゃんとしろ」
尖ったセリフで俺たちのライフを削るイシュハ。結構痛い。
何も言えずに固まっている俺たちを尻目に、彼女は振り返って生徒たちを見た。
「さて、もう時間だ。お前ら、早く入って並べ」
「は、はい」
先ほどの赤に比べ、だいぶ小さな返事が聞こえた。うぅん、何を教えればいいのかわからん。そもそもどのレベルなんだ、どのレベルまで教えてあるんだ?
いろいろなレベルとそれに対応する教え方を考えているうちに、生徒たちが並んでこちらを見た。準備はできたらしい。
一つ咳ばらいをすると、俺は声を張った。




