紹介
「全員揃ったと連絡が入りました。では、これから、先生方の歓迎会を始めたいと思います。全員、起立」
ドアの向こうから、ディアさんのきびきびした声が聞こえてくる。そして、椅子を動かすガタガタッという音。
俺たちの前に立っていた学園長が、合図されたかのようにくるりと振り向き、囁き声で(それでもそこそこ大きい)俺たちに指示を出した。
「おう、お前らも準備いいな? そしたら、俺の後について壇上の椅子に座れ。いいな?」
「「「「はい」」」」
一斉に頷き、俺たちも囁き声で返した。
思いっきり走ったおかげで、俺とソルドは開始15分前に到着した。
こんなに急ぐ必要なかったなぁ、とか思いながら講堂を覗いたら、生徒が既にたくさんいてびっくりしたのは別の話だ。
まぁそのあとどうしていいかわからず、講堂のドアの前でたむろしていたら、アシーナとイシュハが学園長を引き連れて来た。
そこからは、軽く説明を受けて、今に至る。
先頭の学園長が、いつになく真面目な顔でドアを開ける。
次の瞬間、わぁっと波が押し寄せるように、拍手の音が俺たちを襲った。
うわっ、びっくりした。
俺は思わず仰け反る。後ろで、アシーナが軽く驚いて息をのんだ音が聞こえた。
対して学園長は、怯む仕草も驚いた素振りも見せず、きびきびした動作で歩き始めた。
慣れの問題なのかな? だとしたら、慣れってすごいな…。
まぁ、拍手で出迎えられてるんだし出て行かないわけにもいかない。
俺は姿勢を正し、大人しく学園長の後について歩いた。
後ろのアシーナたちの声が聞こえないほどの拍手の嵐の中、まっすぐ前だけを見て進む。
生徒の視線が肌に突き刺さる。結構緊張するもんなんだな。
姉さんや母さんが中心になって行われたイベントは結構出てたけど、自分が中心になって注目されるのには慣れない。末っ子だしね。
頭の中でそんなことをぐるぐる考えているうちに、いつの間にか壇上に上がっていた。すぐ左手には、折り畳み式の椅子が一つある。後ろを振り向けば、あと三つ。
学園長の声を反芻し、体を90度回して、そっと座った。
前を見れば、幾数もの目がこちらを見ている。ちょっと、というかかなり怖い。思わず、膝に乗せた拳を握り直した。
俺たち全員が椅子に座ると、波が引いて行くように拍手の音が消えた。
数秒間、講堂から音が消える。
それを破ったのは、ディアさんの声だった。
「まず、先生方の紹介をしたいと思います」
そう言って、彼女の手が壇上を指す。
方々に散っていた視線が、一斉にこちらに集中する。
さっきよりずっと怖い。姉さんも母さんもこれを一人で耐えてたわけでしょ? ほんとすごいわ…。
「こちらの四人が、これから一週間皆さんを特別指導してくださる先生方です。
右から、ニーケ・ラドニクス・アイテル先生、アシーナ・ハイロジェン・ヘーメラ先生、ソルド・ライオネル・フェルム先生、イシュハ先生です。
ラドニクス先生、ハイロジェン先生、ライオネル先生は、このニウム学園の卒業生で、全員が学年トップ、いや、学校トップレベルの成績を取っています。
そして、レアネ殲滅戦で、十五柱獣を破ったのもこの方たちです」
ディアさんがそう言った次の瞬間、生徒たちが一斉にざわつき始めた。
流石に遠すぎて会話の内容までは聞こえないけど、大方予想はできる。それからディアさん、俺たちの紹介そこまでしなくていいのに。恥ずかしいから。
ざわめいた講堂を「静かに」という一言で静めると、彼女は遠目からでもわかるくらいはっきりした笑顔を浮かべた。
「今の紹介でわかったと思いますが、この方たちは若いですが恐ろしく強い、いや、世界トップレベルで強いです。変に喧嘩を吹っ掛けたりしないように!」
いや、笑顔で言うことじゃないだろ! それから先生に喧嘩吹っ掛けたりするやついるのか!?
心の中でめちゃくちゃ突っ込みを入れていると、ディアさんが再び口を開いた。
「さて、最後にライオネル先生から一言いただきましょう。お願いします!」
唐突にソルドに話が振られた。思わずそちらを見る。
彼は驚いたように目を見開いていたが、マイクを届けに来たディアさんを見て、にっこりと人当たりの良い笑顔を浮かべた。
あいつなら大丈夫だろうな。ともかく、俺じゃなくてよかった…!
胸をなでおろしていると、彼はすっと立ち上がり、口元にマイクを持って行った。
「さて、僕たちはこれから一週間、あなた方の武術指導を行います。というわけで、僕たちもあなた方生徒と仲良くなりたいので、何でもいいです。
この一週間の間のどこかで、僕たちのうちだれか一人に質問してください!
勉強に関することでも、好きな物でも、もちろん僕たちの経験談を聞いてもかまいません。
では、一週間、よろしくお願いします!」
程よく響く、心地よい声で言うと、彼はぺこりと頭を下げ、優雅に椅子に座った。
ワンテンポ置いて、生徒から拍手が送られた。
あいつのコミュニケーション力はほんとにすごいよな、俺、そんなの唐突に振られたら必ず噛むし焦るし…。
拍手が収まったころ、ディアさんが予備のマイクを使い、生徒に告げた。
「では、紹介は以上になります。各々のクラスに戻り、時間割通りに動いてください。解散!」
残響が消え、たくさんの生徒が一斉に動き出す騒音が戻った。
いつの間にか俺たちの後ろに立っていた学園長が、ぽんと俺の肩に手をのせた。
「お疲れ。じゃ、時間になったら道場行けよ? 別に一日中そこで訓練しててもいいが、くれぐれも部屋は壊さないでくれよ!」
「さすがに壊しませんよ、たぶん。じゃあ、お言葉に甘えてそこで訓練してますね」
俺は首を回し、あくまで冷静にそう返した。
学園長は深く二回頷き、顔を上げてイシュハを呼んだ。
「おーいイシュハ先生! あんた、魔法が使えるんだろ? だったら、アールム担当の先生と話してくるといい!
あいつも魔物が使う魔法がどんな感じなのか気になってたらしいしな!」
お気楽な感じで勧める、というか押し進める学園長。相変わらず強い。
イシュハは突然声をかけられて狼狽えた。
恐る恐る、といった風情でソルドを見る。
イシュハの視線に気づき、ソルドは薄く笑って頷いた。
それでようやく踏ん切りがついたらしい。彼女はぺこりと学園長に頭を下げ、ふわりと浮き上がって講堂を後にした。
「さて。お前らは、第四道場に行ってこい。そこがお前らの担当だ。よろしく頼むぜ!」
「「「わかりました」」」
全員で頷き、俺たちは講堂から出て行った。




