表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々の選んだ錬金術師  作者: すいな
85/95

「ふぅん、よかったな」


足が沈み込みそうな絨毯を少し歩き、俺はすぐに隣の部屋に着いた。

重厚感のあるドアを、手の甲で数回叩く。

コンコンという軽い音がした。しかし、中からは何も聞こえてこない。

中まで聞こえたかな…?

再び、さっきよりも強くドアを叩いた。

それでも、中からは音が聞こえてこない。声くらい聞こえてもいいはずなんだけどなぁ。

耳を澄ませたまま、俺はしばらくドアの前で立ち往生する。

が、結局何の音もしないし、誰かが出てくる気配もない。

後で来ようかな。

そう思って、踵を返そうとしたその時。

ぱたぱたっと軽い足音がして、勢いよくドアが開いた。

風圧が俺を襲い、そのすぐ後にひょっこりアシーナが顔を出した。

「ごめんなさい、少しお風呂に入っていて…、ってなんだ、ニーケだったの。敬語使う必要なかったね」

そう言って、口元に笑みを浮かべるアシーナ。頬が少し上気し、艶やかな黒髪がしっとりとまとまっている。

…こういう時に、ソルドだったらなんかいいセリフ言えるんだろうなぁ。俺には無理だけど。

自分の顔が熱くなるのを制しようと必死で頑張りながら、俺は小脇に抱えていた資料を取り出した。

「これ。ディアさんから。もう貰ってるかもだけど」

細く白い指でそれを受け取り、パラパラと目を通す。

「ありがとう、初耳。もう時間ないのかぁ、急がないと」

緊張感の薄い声で、のんびりと言う。

「急がないと、って言ってる割にはのんびりしてるみたいだけど?」

思わずうっすらと笑みを浮かべ、からかうように軽く言った。

「だって、服装はもう決まってるし、場所も把握してるから。大丈夫なの」

「服、もう決めたの?」

驚いて、俺は目を見開いた。

少し俺から視線をずらし、手を後ろで組んで小声でつぶやく。

「うん。ニーケと一緒に買いに行ったあの服にしようかなぁ、って」

そして、遠慮がちに下から俺を見た。

一刷毛彼女の頬が赤くなったような気がするのは気のせいだろうか。

俺の努力が、その一連の動作で水泡に帰した。

頭から湯気が出るんじゃないかと思うくらい、顔が熱くなるのが分かる。

せめて声だけは平然を保とうと努力しながら、俺は笑った。

「着てくれてるんだ。よかった。…じゃあ、またあとでね」

「うん。あとでね」

アシーナも、俺ににっこりと笑いかけた。

軽く手を振り、俺は踵を返した。


ドアを開けると、椅子にどっかりと座ったソルドが俺を出迎えた。

「ちゃんと間に合ったか?」

「うん、資料も渡してきた」

軽く頷き、俺はまっすぐクローゼットに向かった。

勢いよく扉を開け、アシーナが選んだ服を探した。

「そうか、よかった…って、なんでお前クローゼット漁ってるんだ?」

不思議そうな声が背中側から聞こえた。

一連の会話を思い出し、頭が再び沸騰する。

「服、変えようと思って」

平静を装った、精一杯の声を出して答えた。

「ふぅん、よかったな」

何かを察したのか、茶化すような口調でソルドが一言。

俺はそれを受け流し、服を一式引っ張り出した。

真っ白いTシャツの上に黒いパーカー。裏地に使われているのは、ダークグレーのチェック柄。下は、ジーンズ。

昨日選んだあの服だ。

今着ている服をさっと脱ぎ、籠に軽く放り込む。

さっさと着替え、鏡を見た。

うん、問題ないだろう。

「ねえソルド、これでいいかな?」

くるりと回り、彼の方を向いて手を軽く広げた。

手元の本から目を上げ、彼は俺を一瞥した。

俺の服を見て人の悪い笑顔をちょっと浮かべたが、すぐにその笑顔が凍り付く。

無言でぱたんと本を閉じ、彼は俺の目の前に無言で立った。

…なんかまずかったかな?

自分の格好を見直すが、特にダメなところがわからない。

悩んでいる間に、ソルドが俺のパーカーのファスナーを勢いよく下げる。

「お前なぁ、パーカーの前を閉じるなよ…。開けたほうがメリハリついていいだろ…?」

思いっきり呆れた声で、ソルドがため息交じりに呟く。

ふらりと椅子に戻ると、どっかりと座りなおした。

俺は再び自分の格好を見直した。

…うん、違いが判らない。でも、ソルドがそうだって言ってるならそっちのが良いんだろう。俺にファッションはわからない。

「ありがとう」

「おう、選んでもらった服はそのまま着た方がいいぞ。慣れないうちは特にな」

本を手に取って眺めたまま、彼はひらひらと手を振った。

…ん?

首をぐるんと回して時計を見る。

七時十五分。会が始まるのが、七時四十分。ホームルームの二十分前だ。

そして、ここから講堂までは、俺たちの足なら十五分ほど。ただ、そこまでにいろいろと話があることを考えると、そろそろ出たほうがいいはずだ。

「それからソルド、もう時間ないよ、あと二十五分。本読んでていいの?」

顔を上げ、時計を一瞥するソルド。次の瞬間、椅子からすごいスピードで立ち上がった。

「嘘だろ、もうこんな時間なのかよ」

「そうだよ、行こう!」

ドアを勢いよく開け、俺たちは廊下へと飛び出した。

カクヨムでも公開させていただきました!

こちらでも更新していきますので、今後ともよろしくおねがいします!

URL:https://kakuyomu.jp/works/16816700426319741385

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ