平穏な午前
超絶久しぶりな投稿です、待ってくださっていた読者の皆さん、ありがとうございます!
広いこの学園では、寮に所属しているはずの食堂でさえ、急いでも部屋から2分はかかる。
というわけで、俺が着いたのは食事が始まる6分前。ソルドが着いたのは4分前だった。
幸い、教員用入り口・テーブルと、生徒用のは違ったため、生徒の列に乱入することは避けられた。よかった…
アシーナとイシュハは俺たちよりだいぶ前の方にいた。急いだせいで息が上がっている俺たちに気づくと、余裕のある笑顔を浮かべて手を振った。
少し息を整えて周りを見る余裕ができたとたん、なんか視線を感じる。
誰かと思って視線の出元を探ると、どうやら四方八方から見られているようだ。
主に、生徒の方から。
そりゃそうだ、見たことがない大人が先生たちにまぎれて並んでいたら好奇の視線を集めるだろう。
そんなことを考えていたら、どうやら時間になったらしい。食堂の扉が開いた。
雪崩のように生徒が流れこむ。
数年前は、俺もあんな感じのところに巻き込まれてたのか…。とんでもないな…
先生の列も、かなりのスピードで進む。さすがに食い尽くされるのは避けたいからしょうがない。
横を見る余裕がないほどスピードが上がった。俺はきょろきょろするのをあきらめ、おとなしく列に従った。
「はぁ、美味かった…」
「なあニーケ、飯食った後すぐ寝ると牛になるらしいぞ、気をつけろ」
たらふく食べ、無造作にベッドに転がる俺に、にやにやしながらソルドがそう言った。
「知らない知らない、今までそれで牛になったことないし」
上を向いたまま、適当に俺はそう返す。
「それもそうだな、じゃあ俺も…」
コンコン
ソルドが寝転がろうとしたその時、ドアをノックする音が聞こえた。
「誰だろ?」
「ニーケ、僕が出るからいいよ」
応じるために立ち上がろうとした俺をソルドが制し、彼はそっとドアを開けた。
にこにこ顔のディアさんが、そこにいた。
「あ、よかった。部屋にいなかったらどうしようかと思っていたんです」
表情を崩さず、朗らかにそういうディアさん。
「ディアさん、何かご用ですか?」
軽く首を傾げ、優しい口調でソルドが問う。
ディアさんは、小脇に抱えていた資料をソルドに手渡した。
「学園長が、あなた方を生徒に紹介するための会を今から行う、と言っていたので、ご連絡に来たんです」
「なるほど」
ソルドが頷く。俺もベッドに座って、一人で勝手に頷いた。
「詳しいことはこの資料に書いてあるので、と言ってももうあまり時間もありませんが。あまり硬い会ではないので、服装は緩くても大丈夫ですよ。では」
それだけ言い、もう一度にこりと笑いなおすと、ディアさんは一礼と共にいなくなった。
もらった資料を眺めながら、ソルドがベッドに座る。
そこそこ重い扉が、音をたてて勝手に閉まった。
「ふぅん、僕たちの紹介パーティーか。別にそんなもの開いてくれなくてもよかったんだけどな。授業中に説明すれば問題ないだろうに」
ちょっと意外そうな顔でソルドが呟く。
俺は頭を掻いた。
「いやぁ、あの学園長がそんな地味なので許してくれると思うか? 特に俺たちは、まあ自分で言うのもなんだけど、もともとかなりの成績上位者であるOBだろ?
だから、先生としての紹介もかねて、ちゃっかり学園の宣伝もしそうじゃないか?」
「…確かに、それもそうだな」
苦笑を浮かべるソルド。容易に想像できたんだろうな、学園長の顔が。
「で、場所はどこなんだ?」
「講堂だ。入学式が行われたところだね」
資料に目を通しながら彼が言う。
あのめちゃくちゃ広いところか。全校生徒が集まるのなら、それも致し方ないか。
「で、服装は緩くていいんだろ? これでいいと思うか、ソルド?」
朝食の時に適当に選んだ服を指して、俺が聞く。
「うーん、王家の紋章が入ってるところを除けば、だな。まあでもニーケは国のお偉方だからな、一応。ならいいんじゃないか? ついでに国の権威を見せつけてこい」
平然となかなかにすごいことを言ってのけるソルド。いや待てよ、確かに俺、国のお偉方さんじゃん。きれいさっぱり忘れてた。
「ありがと、ソルド」
「ん。僕はもう何でもいいよな」
俺に向けてひらひらと手を振り、彼は自分の姿を鏡に映して見始めた。
「お前はもう何でも似合うよ。カッコいいし、俺と違ってセンスもあるしな」
ソルドが置いた資料を拾い上げながら、何気なく俺は言った。
突然、ソルドの動きが止まった。ゆっくりとこちらを向く。
数回、口がぱくぱく動いた。
「いや、今の天然なんだよなこいつな。うん、天然って怖えな。僕が女子だったら好感度かなり上がってた気がするぞ、うん」
視線をずらして意味が分からないことをぶつぶつとつぶやくと、再び彼は鏡を向いた。
天然…? 俺は別に天然じゃないと思うんだがな…?
「そんなことよりニーケ。アシーナたちにもこれ伝えてこい」
鏡を向いたまま、ソルドが言う。
「わかった、ちょっと行ってくるね」
資料を小脇に抱え、俺は立ち上がった。
「おう、早めにな。もう時間があんまりないから」
その言葉を背に、俺は廊下へと出た。




