学園
門の前までやってくると、俺たちは近くのひもを引っ張った。呼び鈴だ。
初めて来たときはこれを知らなかったから大声で叫んだなぁ…。
感慨に浸っていると、いつの間にかディアさんが俺たちの前にやってきた。
「あら! アシーナさんにニーケ君じゃないですか! 久しぶりですね、今日はなにか御用が?」
昔と変わらず笑顔が優しい。
「いえ、たまたま近くに来たのでせっかくなら寄って行こうかっていう話になったので来ました。ソルドも来ると思います」
「ソルド君! 懐かしいメンバーね。ずば抜けて優秀だった生徒たちだったわ…」
ディアさんが目を細める。こちらまで懐かしい気持ちになってくるような表情。
数秒間、俺たちは日の光のやさしさに浸った。
やがて、ディアさんが再び俺たちを見て、にっこり笑った。
「学園長もきっと二人に会いたがっていますし、どうぞ入ってください」
そして、彼女は俺たちの後ろにも目を向けた。
「ソルドさんと、その彼女さんも」
えっ、ソルド来てたの?
驚いて振り向くと、確かにソルドとイシュハが立っている。
イシュハが狼狽えているのが俺にもわかる。彼女って言われたからかな?
「ええ先生、喜んで」
雰囲気と口調が学生時代のまんまのソルドが、穏やかな笑顔を浮かべる。うん、男の俺でも見惚れるレベルだ。
ディアさんは、手で奥を指し示しながら、俺たちを誘導していった。
「おお! ソルドにニーケにアシーナ! …と、新しいパーティーメンバーだな。ソルド、お前の彼女か?」
学園長室に入ると、いつものごとくドレクタ―学園長が大声で俺たちを迎えた。
彼もイシュハをソルドの彼女だと思っている。さすが夫婦といったところか?
ソルドは微笑んで、ノーコメントを貫いた。否定はしないんだね。
「久しぶりですね、学園長。ところで、私たちがパーティーだとどうしてわかったのですか? もしかしたら、偶然会っただけかもしれないではないですか」
アシーナが聞く。言われれば確かに。
「ん? ああ、お前らの話はよく聞くからな。いろんな戦場に行っては数々の敵を圧倒的な実力で切り伏せる4人組って具合だ。
それから、その中にはしばらくハオランが入っていないことも知ってるぞ。その代わりに入ったのが、人間じゃない女だってことも」
こともなげに言ってのける学園長。でも、ハオラン、と口に出すとき、ちょっと声が沈んだのを俺は聞いた。
微妙に間が空いた。
気まずさが場を支配しかけたが、そこで声を上げたのは再び学園長だった。
「そうだそうだ、せっかくだしお前らに頼み事がある。
ハオランが討伐隊に入ってからな、武術訓練の質がちょっと落ちたんだ。あいつほどに強いやつはなかなか出ないからな。
というわけで、だ。一週間でいい。特別講師として、生徒の指導を手伝ってはくれないか?」
音をたてて手を合わせ、軽く頭を下げる。
俺たちは、顔を見合わせた。
一週間。少し体が鈍ってしまう可能性は否定できない。だが、せっかくの休みだ。後輩の指導をするくらいなら罰はあたらないのではないだろうか。
ここからまた魔王軍との争いが激化することだって十二分にありうる。強い戦闘員が増えることはいいことだ。
「…俺は賛成だ」
小声で俺は言う。アシーナも頷いた。
「ええ、私もよ。後進を育てるって意味でもいいんじゃないかしら」
ソルドは少し躊躇した様子を見せたが、やがて顔を上げると軽く首を縦に振った。
イシュハは、「私に武術指導は無理だからな」とでも言わんばかりの表情だ。異はなさそう。
俺は学園長に向き直ると、真剣な表情で頷いた。
「その指導、やらせていただきます」
その後、俺たちは懐かしの特別寮の一角に案内された。
学生時代の部屋より少し広い。聞けば、客人や特別講師用の部屋だそうだ。
生憎、部屋数は足りないため、2部屋しか取れていないが。
翌日。
起きてみると、西の空はまだ朝焼けの気配を残していた。
時計を見れば、朝6時だ。
うーん、もう一回寝ようかな…
そう思いつつも、ベッドから起き上がって伸びをする。
ぼーっとしている頭と体を強制的に動かし、立ち上がった時に見えたのは、学園の時間割だった。
そういえば昨日、行かなきゃいけない時間とかを教えてもらうためにもらったな。朝ごはん何時だっけ…
しばし凝視し、俺の眠気は一気に消えた。
まずい、飯の時間まであと10分だ。
この学園では、教師と学生が同じ空間で同じご飯を食べる。
学生の食欲を侮るなかれ、バイキング形式である食堂の飯は、容赦なく、あっという間になくなっていくのだ。
慌ててクローゼットの前に走り、ぱっと着れそうな服を探し出す。
着慣れている戦闘服を引っ張り出すと、適当に羽織って前を閉めた。
手で髪を撫でつけながら、同室のソルドを叩き起こす。
「おいソルド! 飯食いそびれるぞ!」
普段は全然起きないソルドが、がばっと起き上がった。
目を何度もこすって、強制的に目を覚まさせているようだ。
「先行ってるぞ!」
それだけ言うと、俺は部屋を飛び出した。




