青春?
数十分歩くと、学園が見えてきた。
俺たち三人にとっては懐かしく、イシュハは初めて見る建物。
「久しぶりに来たわね、学園のそば」
「ほんと。何年ぶりかな」
「僕は服を買うためにそこそこ来てるけど、みんなと来るのは久しぶりだ」
思わず声を上げる。相変わらずの豪華さだ。
ソルドの隣では、目を丸くしてイシュハが学園を見上げている。
「せっかくだし、時間があったら寄っていけるといいわね」
アシーナが言う。その一言で、俺は先生たちの顔を思い出した。
ドレクタ―学園長にディア先生、それからハオラン先生。
…ハオラン先生、無事だろうか。
心が翳る。一刻も早く見つけ出さないと。
…心当たりは、魔王城のみ。
戦い続けて15柱獣を倒せれば万々歳だが、まず出現率が低い。それに、これから出てくるのは、今までとは比にならないくらい強いやつら。
いつたどり着けるかわかったものではないのだ。
「で、だ。私たちが目的地にしている店はどこだ?」
心なしか沈んだ空気を無視した発言。
俺たちは一斉に我に返った。
「あ、それね。あっち」
店が立ち並ぶ通りの方を指さすと、彼は歩き出した。
それについていくアシーナと俺、さりげなく追いついて隣に並ぶイシュハ。その口角は心なしか上がっている。
「いいねぇ、青春じゃない?」
ぼそっと呟く声の方を向くと、アシーナが手で口元を覆っていた。人の悪い笑みが浮かぶ。
…何度もむけられてきたこの笑みの意味に気づかないほど、俺は鈍くはなかった。
その店は、学園から少し歩いたところにあった。
ガラス張りのシックな店構えに、思わず身構える。
「さて、ついたよ。じゃあ行こう…」
「ちょっと待って。今度は私に選ばせてくれないかしら?」
ソルドの言葉を遮って、アシーナがそう言った。
しばし驚いた顔をしたソルドはしかし、顔を崩してうっすらと笑った。
「わかった。じゃあ、アシーナと選んできてね。僕たちはそのへんの店回ってるから」
僕たち、という単語に反応してイシュハが弾かれたように顔を上げる。
それを見て、ソルドが心配そうに彼女を見下ろす。
「嫌だった?」
何ともいいようがない、という顔をしてイシュハが言葉に詰まり、下を向く。
数秒間黙りこくっていたが、やがてうつむいたままかすかに首を縦に振った。
気づいてしまった俺たちは、その表情を想像するのが楽しい。ポーカーフェイスは保てているだろうか。
「じゃあニーケ、行きましょ」
目が細くなっているアシーナが、俺のパーカーの袖を軽く引っ張る。
「ソルド、イシュハ、またあとで」
俺は手を振ると、アシーナに引っ張られるように店内へ入った。
結果、そして結論。
アシーナのセンスは良い。エレノア姉さんの店で働けるんじゃないか?
…いや、俺のセンスが悪すぎるだけかもしれない。
真っ白いTシャツの上に黒いパーカー。裏地に使われているのは、ダークグレーのチェック柄。
前を開けているから、その柄がいいアクセントになっている。
下は、さっきまで俺が着ていたジーンズ。いい感じに着古されているのも味だってアシーナと店員に言われた。
靴はスニーカーだ。
このコーデも無難な気がするが、パーカーにジーンズだけじゃなくなっただけましだろう。
あっという間に選ばれたため、店を出たのは入ってから僅か30分後だった。
「こんな時間じゃ、ソルドとイシュハが遊び足りないね。次はどこ行こうか?」
学園の時計台を見て、アシーナが言う。
「まあせっかくだし、学園に挨拶にでも行こうよ」
俺も言う。
それを聞いて、アシーナは頷いた。一瞬、表情になつかしさが混ざる。
「あでも、ソルドたちにどう連絡する? どこ行ってるか探させるの申し訳ないけど…」
「寄りたい、って言ったから平気だと思うな。イシュハもソルドもちゃんと気が回るから、服屋にいなかったらきっと学園に来るよ」
アシーナが淡々と述べる。確かに一理あるな。
「じゃあいいかな。それなら、行こう」
俺は言うと、今度は俺からアシーナの手を軽く引いた。
彼女はさらりと髪を揺らして微笑み、俺の隣に並んだ。
互いに手を離すことなく、自然に指を絡めると、俺たちはゆったり歩き始めた。




