急所
全員が正面から向かっても勝ち目はない。
刀を構え、俺は叫んだ。
「散開っ!」
次の瞬間、ネメの背後で剣が光った。ソルドだ。
右からはアシーナが攻める。
瞬時に把握し、真正面から斬りかかる。
勢いよく飛び出し、死角、つまり頭の下に入る。
刀を高速で突き上げ、喉元の急所を狙う。
紙一重のところで、3本の太刀筋がすべて躱された。
軽く地を蹴って後退。すぐに軽く跳びあがる。
首筋を狙い、正確に刀を上から振り下ろす。
ネメの首が逃げるより先に、刀がネメの首を正確にとらえた。
金属同士がぶつかり合うような、甲高い音が響く。
パキッという音をたて、刀にひびが入る。
…鱗が硬すぎる。
そう思った次の瞬間。
ひびが入ったところから、刀が銀色の流体となって、どろどろと崩れ落ち始めた。
呆気にとられ、一瞬立ち尽くす。
目の前に、ネメの頭が迫った。
間一髪のところで躱し、岩陰に隠れる。
次の瞬間、岩が刀と同じように、どろどろの流体になって溶け落ちた。
今度は怯まない。瞬時に飛び出し、ネメの頭と反対側に着地した。
「あら、量の調節を間違えたかしら? あなたも同時に溶ける予定だったのに」
ネメが、少し悔しそうな、しかし高慢な声で言った。
…溶ける?
ネメからかなりの間合いを取り、俺は状況を見た。
現在、戦闘に参加しているのはアシーナとソルドと俺。ハルとイシュハは戦闘に参加したところで瞬殺される。
刀は使えない。斬ろうとしたら溶けるし、硬すぎる。
…殺すには分解するしかない。ただ、ネメの鱗に触れた瞬間、手から徐々に体が溶けるだろう。つまり、俺も死ぬ。
不意に、悪寒が走った。
思いっきり地を蹴り、上空へ逃げる。
先刻まで俺がいた場所の後ろが、どろりと溶けた。
ネメが頭をもたげ、こちらに口を向ける。
牙から毒が滴り落ちる。
まずいっ!
空を蹴り、紙一重のところで避ける。
打つ手なし。こうなれば、わずかにでもダメージを与えるしかない。
瞬時に刀を錬成。ちょうどネメの首に当たる場所を狙い、落下の勢いに任せて刀を振り下ろそうとした。
刹那、ネメが首を大きく上げた。
ネメが避ける間もなく、刀が、ネメの首の裏側を捉える。
直後に響いたのは、金属特有の甲高い音ではなく、ネメの悲鳴だった。
想定外の事態に、一瞬反応が遅れた。
危うい体勢で着地。だが、ネメの牙がこちらに向かって迫ることはなかった。
急所は、腹側か!
勝ち筋が見えた。ならば、まずは俺たちの位置を把握させないようにしなければ!
痛みにのたうちまわるネメの目に向かい、思いっきり刀を投げつける。
間髪入れず、下顎に向かって空気の刃を錬成、力いっぱい押し出した。
目に向かって投げた刀は鱗に当たり、溶けた。
だが、空気の刃は見事に下顎を切り裂き、ぱっくりと傷口を開かせた。
再び、叫び声が響いた。血が勢いよく噴き出す。
とどめだ!
一瞬で距離を詰め、ネメの腹側に入る。
そして、
一閃。
腹の下を、スパッと切り裂いた。
急いで跳びずさる。
一瞬、空白の時間が空いた。
…断末魔の悲鳴が上がることもなく、ネメの巨体が血の海に崩れ落ちた。
大きな地鳴りと水音が響き、そして静寂が訪れた。




