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神々の選んだ錬金術師  作者: すいな
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全軍出撃

中庭に着くと、そこは以前と全く違う、統率された現場になっていた。

着崩していた軍服をしっかりと着こなしていて、隊列の乱れもない。兵の体つきも圧倒的に良くなっている。

兵たちは俺を見つけると、完璧な姿勢で敬礼した。

俺はあまりの変わり様に、思わず息をのんだ。

訓練のプログラムを作った成果は、どうやらしっかり発揮されたらしい。


手を下げてもらうと、俺は全員の前に立って声を張った。

「今日の出陣は現在の最前線、レアネだ。戦況は芳しくない。だが、今日で戦況を大きく変えたいと思う!覚悟はいいか?」

俺の問いに、彼らは敬礼と空気を震わせるような返事で答えた。

「イエッサー!」

俺は満足げに(多分そう見えただろう)頷き、続けて指示を出した。

「レアネまでは距離がある。だから、この人数で進軍するためには食料や水を補給する、補給車が用意される。しかし、それさえ奪えば我々の士気が大きく下がるため、魔物にとって格好の的になる。よって、これの護衛をつけたいのだが、誰かやってくれる人いるか?」

兵たちの中で戸惑いのざわめきが巻き起こった。護衛がいるとは思っていなかったのかもしれない。


護衛はかなり重要な仕事だ。だが、進軍に当たって指示を出す立場にいる俺や、副司令官は就くことができない。指示の円滑な伝達ができなくなるからだ。

だから、できるだけ信用の厚い、強い奴に任せたいんだが、このままだと永久に決まらない気がする。

「副司令官、少しいいか?」

俺は副司令官を呼んだ。

隊列の先頭に立っていた彼は、あっという間に俺の隣にやってきて敬礼した。以前、俺に突っかかってきたあの荒れた雰囲気は微塵もない。

「護衛は、できるだけ信用が厚く、強いやつに任せたいのだが、誰が適任だと思う?」

問うと、彼は隊列の中の一人をまっすぐに指さした。

そこにいたのは、まだ幼い面影を残す、小柄な少年だった。


副司令官は、俺が少年を認識したことを悟ったのか、腕を下ろした。

「彼はハルと言います。まだ14歳なのですが、もう二つ名を授かったということで、彼から軍に志願しました。

つい最近入ったばかりなのですが、自分にできる仕事を探し出して一生懸命やったり、仲間をしっかり気遣ったりできるので、恐らく一番仲間からの信頼が厚いと思います。

彼自身が物凄く強いわけではないのですが、何しろ彼は通信士の能力を持っています。恐らく、司令官殿が護衛に回っても、彼の能力を使えば指令がしっかり回ります」

副司令官は、再び敬礼をとってそう言った。


通信士は、いくらか離れていても、仲間に指令を回すことができる能力を持つ。仕組みは知らない。恐らく魔法の類だと思うが。

この能力を授かる人が少ない割に、重要な仕事でもある情報伝達が瞬時にできるため、軍にとって彼のような者が一人でもいるのはありがたい。

だから、あの幼さで軍に入ることができたのだろう。


副司令官にお礼を言って立ち去ってもらうと、俺はハルを呼んだ。

つかつかと歩いてくると、恐ろしいほどにきびきびした動きで彼は完璧な敬礼をとった。

…そういえば、なんとなくハルに見覚えがある気がする。


「エレメント王国軍総司令官、ニーケ・ラドニクス・アイテル様のお呼びということで参りました!ハル・ランドルフ・シグナルです!なんの御用でございますか!」

やはりだ。彼は以前、俺を地下牢に呼んだあの少年だ。違和感を覚えるほどに丁寧な口調も、勢いの良いあの足音も敬礼も、彼とそっくりだ。

心の中で小さな偶然に驚きながら、俺は平常を保って彼に言った。もちろん、全員に聞こえるくらいの声でだ。

「今日の補給車の護衛をお前に任せたいのだが、引き受けてくれるか?」

どうやら仕事を任されたのが物凄くうれしいらしい。彼はグレーの目を輝かせ、何度も頷いた。

俺は彼に向かって軽く笑うと、元の場所に戻るよう指示した。

彼が戻ったのをしっかり確認すると、俺は顔を上げて全員を見た。

「さて。護衛は決まったな。では、今日の戦闘の概要を説明しようか」

俺がそういうと、全員が敬礼をして、「イエッサー」と言った。了承の意味だろう。


口頭だけで説明するのは面倒なので、俺はぱっと地面を錬成して、チョークを作り、黒板を全員が見えるくらいの高さに設置した。。

傍から見たら、どこから出したかわからないくらいの速度だったと思う。

思った通り、彼らの中からどよめきが起こった。

それを手で制すと、俺は黒板に横長の楕円を描いた。さらにその上にもう一つ、一回り小さい円を。それらの中をぐりぐり塗ると、俺はそれを手で軽く叩いた。

その音で視線がこちらに向いたのを見ると、俺は話し始めた。

「この塗られた円と楕円が、現在の魔王軍の布陣だ。現在、レアネで戦っている奴らはこの楕円に当たるところを正面から攻めている」

言うと同時に、下から楕円の下側に向かって矢印を描く。そして、楕円とぶつかる辺りに簡易化した剣を二本交わらせて描く。現在のレアネの軍の状態だ。

さらに俺は、楕円の横に2本矢印を描いた。

「この二本の矢印が、今回俺たちが攻める場所だ。正面に気を取られている間に、横から切り崩す。細長い布陣になっているから、後ろからも回れるならそれが最適だ」

兵が頷くのを気配で感じ、俺は話をつづけた。

「そして、この円が敵の本陣だ。恐らく、司令官に当たる奴がここにいる。だから、ここに攻め入る奴は少数精鋭にしようと思っている。この中で、特に強い者たちを複数ぁ集めてくれ」

そう指示すると、彼らは何かを相談し始めた。

まあ、最悪俺一人でどうにかする気でいるけど。それに、アシーナたちがそのうち合流する。そしたら、彼らは来なくてもどうにかなる。


俺がそんなことを考えているうちに、どうやら話し合いが終わったらしい。

何人かの、屈強な男たちが俺の前に立った。

俺は、引き締まった表情で敬礼している彼らに向かって問いかけた。


「お前たちは、敵の本陣に突っ込むだけの勇気と力が自分にあると思うか?」


ほんの一瞬、答えまどった表情を全員が見せた。

しかし、次の瞬間、全員の表情は決意に満ちたものとなった。


「この心に、その気持ちがない限り、俺たちは軍に入っていません」


強く、決意に満ちたその言葉は、まさに真に迫るものだった。

…彼らとなら、大丈夫だろう。

俺は頷き、再び軍の全員を見た。

「俺たちは、今日でレアネの戦闘を終わらせる!皆、ついてこい!」

今まで以上の大声で言った俺に応え、彼らは一斉に声を上げた。

その声は空気を震わせ、そして俺たちの心に勇気を灯した。


ちょうどそのタイミングで、門からエクセレスが入ってきた。

「準備ができました。直ちに出陣してください」

冷静な声でそう告げた彼に俺は頷き、そして振り返って兵を見た。

俺の右隣にはハルが立ち、すぐ後ろには、少数精鋭の奴らが並ぶ。その後ろには、この日のために鍛え上げてきた兵たち。

全員、戦闘に向かう時の気持ちの昂ぶりを感じていることだろう。


俺は空を見上げ、高らかに叫んだ。


「全軍、出撃だ!」


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