出かける
俺たちは思考の一致を確認すると、互いに頷いた。
「そういうことならこの動物の骸にも納得ができる。恐らく、全ての魔物は魔王が錬成して作っている。その元となるものが、きっとこの大量の骸なんだ」
「そういうことなんだろう」
「…ただ、いくら魔王でも生物の命、というか魂を錬成することはできるのかな?」
最後の方は自分に語り掛ける様な小さい声で、俺はぼそりと呟いた。
どうやらイシュハは最後の方を聞き取れなかったらしい、首を傾けきょとんとした顔で俺を見た。俺は答えず、首を横に振った。
イシュハは不思議そうな表情のまましばらく俺を見ていたが、やがて傾けた首をもとに戻すと二度手を打った。
「さて。見れば日も高くまで昇ってきている。そろそろ帰らないとエリノアに怒られるな」
二ッと笑ったイシュハに応えるように、俺も二ッと笑って見せた。
「そうだな、腹も減ってきた。帰ろう」
すっかり白く、明るく輝くようになった太陽を背に、俺とイシュハは家路を急いだ。
「いったいどこに行ってたのかしら、ニーケ?」
「イシュハ?ニーケをどこに連れてったんだ?」
俺たちが帰るや否や、アシーナとソルドが玄関に仁王立ちして俺たちを睨みつけた。
玄関は彼らより一段低い位置にあるため、見下ろされる形になった。
…怖いよ、二人とも…
弁解しようと、イシュハが口を開いた。
「魔王領の様子を見せようと思っ…」
「魔王領だと?お前、ニーケ一人で連れてったのか?どれほど危ないか!気づかれたらどうなると思ってたんだ!?」
最後まで言わせず、ソルドがイシュハを怒鳴りつけた。
イシュハは亀のように首を引っ込め、目をつぶってやり過ごした。
不意に、ぎゅるんと首を回してソルドが俺の方を見た。
身構える隙も与えないまま、ソルドが俺に怒鳴った。
「ニーケ!お前も同罪!一人で行くなんて言語道断!一体全体どういうつもりだ!?もし仮に四天王に気づかれたらどうなってた!無謀!危険!今後気をつけろ!」
俺も首を引っ込め、ソルドの説教を受けた。耳が痛い…
嵐が過ぎ去ると、俺とイシュハは素直に頭を下げた。
「「ごめんなさい、心配かけました」」
顔を上げると、ソルドが仏頂面で腕組みしたまま頷いた。
アシーナは、眼光を緩めて俺たちを見た。
「はーい君たち?ニーケ達を責めたいのはわかるけど、うるさいぞ?」
エリノア姉さんがにこにこ笑いながらこちらを覗いて、言った。
その笑顔の裏に鬼のような形相を感じ取り、俺たち一同は黙り込んだ。
「ほら、ご飯できてっから早く食べな?」
圧をかける笑顔を最後まで浮かべ、そして姉さんは引っ込んだ。
言われて初めて空腹に気が付き、俺たちは連れだって居間へ向かった。
朝食を済ませると、俺たちは各々の部屋に閉じこもった。
…閉じこもったはいいのだが、やることがない。
ベッドに腰を下ろし、瞑想してみようと思い至る。
思考を消すのは意外と難しいことが分かった。
本棚から本を抜き出し、ぱらぱらとめくってみた。
内容が頭に入ってこない。
もうこれはダメだ。用事はないかな…
「あ」
不意に声が出た。用事に思い至ったのだ。
俺、城に行って報告しないと。しかも明日、出陣だ。
本を閉じ、俺は勢いをつけて立ち上がった。
反射でベッドが跳ね上がり、ぎしっと音をたてた。
俺はそれに構わずクローゼットへ向かい、軍服を探し出して着替えた。
ずいぶん前姉さんから渡されていたのだが、すっかり忘れていた。
部屋を出て鏡に向かう。
寝癖などは特についていないようだ。
身なりを軽く整えると、腰に刀をさし、俺は家を出ようとした。
「あ、二ーケ。どこ行くの?」
後ろから声をかけられ、俺は反射的に振り向いた。
眉尻を軽く上げ、少し怒ったような顔のアシーナが後ろに立っていた。
「ん、城に報告行かなきゃいけないなあって思って」
俺がそういうと、彼女は眉をいつも通りに戻した。
「そっか。私もついてっていい?」
「いいよ」
そう返事すると、彼女は嬉しそうに顔をほころばせて俺の隣に並んだ。
自然と顔が熱くなるのが分かった。鼓動も早くなっている。どれもこれも彼女が可愛いのが悪い。
俺は赤くなった顔を見せたくなかったこともあり、振り返って家の中に向かって叫んだ。
「ちょっとアシーナと出かけてくる!」
キッチンに立っていた姉さんがひょっこり首を出し、によによしながらこちらを見た。
「へいへい、いってら。楽しんできなよ~」
その言葉を背に受けながら、俺たちは家を出た。




