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神々の選んだ錬金術師  作者: すいな
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体ならし

イシュハの腕に咲き誇る朝顔を見た姉さんは、詠唱を止め、咳払いをした。

俺たちの視線が自分に集まったのを確認すると、姉さんは堂々とした態度で言った。

「これで、黙秘契約は成立したわ。よって、この時点をもって、魔王軍参謀 イシュハを釈放する」

イシュハに向かって告げた瞬間、彼女の首の鎖がミシミシと音を立て、弾け飛んだ。

驚いた顔で弾けた鎖を眺めているイシュハに、姉さんは声をかけた。

「これから行くアテ、もしかしてないかしら?」

イシュハは振り向くと、バツの悪そうな顔で頷いた。

姉さんはそれを見て、にっこり笑った。

「なら、ニーケ達のところについて行ってみたら?」


数秒、空白の時間ができた。

「「「「…え?」」」」

俺たち3人とイシュハは、声をそろえてそう言った。


ダメだった?という表情で小首をかしげた姉さんに向かって、俺たち四人は思いっきり手をぶんぶん振りながら、

「俺は全然いいんだけど、」

「私は全然いいんですけど、」

「俺も全然いいんだが、」

「私もかまわないが、」

「「「「ほかの人たちが嫌じゃないか?」」」」

…意図せず、そろって言った。


その様子を見て、姉さんは思いっきり噴き出した。

エクセレスを見れば、なんと彼も笑いをこらえた顔をしている。

「あなたたち相性ピッタリじゃないの!ほらもう行きなさいよ!」

笑いの発作をどうにかこうにか抑えた姉さんが、俺たち4人の背中を順番にばんばん叩きながら叫んだ。

…痛いよ、姉さん。

ここで逆らうのも賢明ではない、というかそもそも逆らう理由もなかったため、俺たちは結局、一緒に行くことにした…


「あ、忘れかけてたわ!ニーケ、明後日になったらあなたが軍を率いて出陣するのよ」

立ち去ろうとした俺の背中に、姉さんが唐突にそう声をかけた。

その瞬間、アシーナ、ソルド、イシュハの三人の視線が俺に突き刺さった。

気まずくなって思わず視線を泳がせた俺に向かって、アシーナがねちねちした口調で話しかけた。

黒い目の奥に、ちょっと悲し気な光が宿っているような気もしたが…

「…ニーケ、出陣するの?聞いてないわよ?私たちはその間、何をしてればいいのかしら?三人で討伐してろと?」

「…ごめん、でも君たち連れてったら、軍がいる必要ないじゃないか」

思わずそう反論すると、アシーナは手を軽く打った。

「それもそうだわ。じゃあ、私たちはイシュハに頼んで敵陣に突っ込んでこようかしら。あなたが行くのはきっと最前線でしょう?なら私たちはそれ以外のところの敵を蹴散らしてくるわ!それでいいかしら?」

先ほどまでの口調が嘘のような、あっけらかんとした口調だ。

俺は頷き、アシーナの頭を軽く叩いた。

「うん、それでいいよ。ごめんな、先言えばよかった」

ちょっと照れたような笑みを浮かべ、アシーナは頷いた。

背後で姉さんとソルドがニヤニヤしているのをなんとなく感じながら、俺たちは部屋を出た。


階段を上り、地上に出た。

廊下を歩いていると、ソルドがにゅっと俺の目の前に顔を出した。

「おいニーケ!出陣までずっと城にいても腕がなまるだけだろう!イシュハがどうやら敵の見当をつけてくれたようだし、一回出てみないか?」

俺は驚いてイシュハを見た。

俺の目と高さを合わせられるように、透明な羽をごく自然にはばたかせて飛んでいる姿が目に入った。

「ああ、一応私は参謀だ。元、かもしれないがな。したがって、味方の居場所の把握位はできるぞ」

…優秀だなあ。

俺はソルドに目を合わせると、ニヤッと笑った。

「ああ、せっかくだし行ってみるか」


城を出るが早いか、俺たちは軽く運動しながら体をほぐした。

膝を曲げ伸ばししながら、アシーナがイシュハに向かって口を開いた。

もう飛ぶのを止め、イシュハは地面に足をつけていた。

「イシュハ、場所はどこなの?」

しばし、イシュハは目を閉じた。

数秒後、目を開け、緑色の目で俺たちを見据えた。

「…タスラ。ここが現在の重要な拠点の一つだ」


…タスラ。たしか、ヒライドからさらに西に行った場所だ。

一面に草原が広がるのだが、その前に王国側に山があり、道が狭い。人間が攻めにくい地形、ということだ。そのため、魔物側が拠点をおくのには最適だ。

俺は思考から復帰し、イシュハを見た。

「わかった。戦いがいのあるやつがいるといいが…」

「それについては問題ない。私の元同僚が率いている隊だ、恐らくかなり統率されている」

「おお、それは好都合だな!体の感覚を取り戻すのに必要な条件だ!」

ソルドのコメントに、アシーナは頷いた。


腰から刀をすっと抜き放ち、軽く振る。

うん、いい感じだ。

俺は後ろの3人を振り返り、引き締めた声で言った。

「俺が言うことでもないが、もしかしたら15柱獣がでてくるかもしれない。絶対に気を抜かないようにしよう」

2人は武器を抜き、1人は手の上で風を弄びながら頷いた。

「わかったわ」

「応!」

「もちろんだ。できる限りのフォローはさせてもらう」


俺は頷き、前をむいた。

足に思い切り力を入れ、地面を蹴った。

一陣の風と共に、俺たちの姿は城の前から消えた。


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