63 魔王軍の参謀
あっけにとられている俺たちを向き直り、姉さんは微笑を浮かべて言った。
「これが、あなたたちの判断を仰ぎたかった用事」
突然突飛なことを言われたせいで、俺以外の二人はぽかーんとしていた。
もちろん、俺も驚いたけどね…
俺は牢の前に進み、魔物を正面から見据えた。
捕まえられている魔物は、俺の姿を認めるや否や、恐ろしい目をしてこちらを睨みつけた。
はっきり言って、その魔物はとても美しかった。
陶器のようにきめ細やかで、染料の白をさらに白くしたような肌。
薄く、ほんのりと色づいている唇。
新緑のようにさわやかな、黄味を帯びた緑色の透き通る瞳。
波打つような、長く緑がかった髪。
身に着けているものも、容姿を引き立てる、よく凝ったデザインのものだ。
一目見ただけで、一生脳裏に焼き付くような美貌だ。
だが、あまりにも人間離れしすぎた容姿のせいで(人間じゃないけど)、恐怖すら感じさせる。
人間に似ているが、違う点がいくつか。
一つ目が、背の低さだ。俺の半分もない。大体、80㎝くらいの身長だろうか。
二つ目に、羽があること。背中に、絵に描かれる妖精のような、透き通る羽を持っている。
あまりに透き通っているせいで、ぱっと見ただけでは羽があることに気が付かなかった。
俺は一通り魔物を見定め、姉さんを振り返った。
「で?俺はこいつにどういう判断を下せばいいの?」
「うーん。このまま釈放もアリなのか、それとも殺しちゃうか迷ってるのよ。だから、経験値が異常なあなたたちに判断を仰いでるの」
…なるほど。
再び魔物に向き直り、俺は彼女の瞳をまっすぐ見た。
俺の隣にアシーナとソルドも立ち、二人も彼女を見つめた。
何秒経っただろうか。
「何の用だ、人間。殺すならさっさと殺せ」
ついに、魔物が口を開いた。
俺はそれに答えるべく、普通の口調で話し出した。
「別に今すぐ斬って捨ててもいいけど、場合によっては助けることも考えてるさ。まずは、お前の名前から教えてくれよ」
再び沈黙。
魔物はふいっと目をそらし、そして、警戒を残したまま、だが敵意を収めた目で俺を再度見た。
「わかった。お前の望む情報を、私の知る限り教えよう。私は魔王軍幹部。15の柱の一つ下、参謀に位置する。名は、イシュハだ」
俺は一度頷くと、イシュハにむかって質問を投げかけた。
「まず、魔王軍の形態だ。どのような仕組みになっている?」
「かなり簡単だ。トップに君臨するのが、魔王クロト様。その下に15本の柱たちがいる。その下に、私のような参謀が22。柱一本につき、2人の参謀が就くことが多い。あとは、総指揮官、第一隊指揮官、第二隊指揮官、第三隊指揮官、と続いていく。隊数は50ほど。隊によって兵の数や強さは違う」
「ちょっと待って。15本の柱がいるのに、参謀は22人?30人じゃないの?」
アシーナが、思わず、とでも言わんばかりの反応で声を上げた。
イシュハは頷いた。
「ああ。15本の柱の中にもランク付けがある。最も強い4本を『四天王』と呼ぶのだが、彼らは知能も武力も桁違いだ。彼らには参謀が一人もついていない」
あまりのことに、俺たちは絶句した。
「…冗談だろ?普通の15柱獣でもあれほど強かったのに、さらに上がいるのか?」
掠れた声で、ソルドが言った。
「驚くよな。最初にそのことを知って、私だって盛大に驚いたさ」
自嘲気味な笑みを浮かべ、イシュハは言った。
俺たちは顔を見合わせた。
…3人そろってかかって、倒せるだろうか?
気を取り直し、俺はイシュハを見据えた。
「二つ目。お前は参謀なんだろ?恐らく、俺たちが倒した柱のどっかに仕えていたと思うんだが、柱が死ぬと同時に死ぬ、みたいなシステムはないのか?ていうか、まず参謀って何してるんだ?」
イシュハは首を軽くかしげ、俺から視線を外した。詳しいことを思い出しているのだろう。
やがて首を元の位置に戻すと、イシュハは話し出した。
「そんな決まりやらシステムやらはない。私たちは、15本の柱に次ぐ戦力だからな。そう簡単に死なれても困るだろう。あと、参謀は柱の下についていることになってはいるが、実際は指揮官たちと共に作戦を練ったり、指導を行ったりしている」
「分かった、ありがとう。次は…」
「次は俺から質問良いか?」
不意に、ソルドが声を上げた。
「あ、ああ。いいが…」
俺が思わず狼狽えて言うと、ソルドはにっと笑った。
そして、彼はイシュハに向き直った。
「3つ目だな!俺は、魔物側の事情をさっぱり知らない。魔物っていうのは、人間みたいに村や町を形成したり、軍に所属しない一般の民がいるものなのか?」
イシュハは首を横に振った。
「いや、いない。私たち魔物は、ほとんどがクロト様に作られたものであり、生まれた瞬間から魔王軍に尽くす運命が決まっている。まあ、言ってみればただの駒だな」
不思議そうな表情で、アシーナが声を上げた。
「魔王は、どうやって生物をつくるの?たくさんの女をかこっているわけでもないでしょう?」
「詳しいところを見たことも聞いた事もないからわからないが、少なくとも、魔王様が近くに置くのは四天王だけだ。まあ、四天王は全員生殖が可能だが、4分の3は男だ。そして、魔王様に男を抱く趣味はないと思うぞ」
…残念ながら俺には、後半の方の会話がよくわからなかった。
ただ、ソルドとアシーナはしっかり分かったようだ。アシーナに至っては、少し顔を赤らめている。
…わからん。
「じゃあ、次の質問。魔王が使うのは、魔法か?」
俺は、今までで一番気になっていた疑問をぶつけた。
これが分かれば、対応策が練れるかもしれない。
イシュハは一瞬、目をしばたいた。
そして、イシュハは口を開いた。
「…すまない。魔法とは、なんだ?」




