59 「戦闘開始と行こうか、小僧」
何分経っただろう。
あまりに長引く沈黙に、俺は耐えられなくなった。
下を向いたまま、俺は二人にぎりぎり聞こえるくらいの声で、
「ちょっと、行ってくるね」
と言った。
そして、そっと立ち上がり、森の方向へふらふらと歩いて行った。
暫く歩くと、少し周りより開けた場所に出た。
中心には、風で倒れたと思われる一本の木が寝そべっていた。
斜陽が差し込み、その空間は柔らかい橙色に染まっていた。
…ちょっと休もうかな。
俺はそっと真ん中へ進むと、木の上に座った。
ほんのりと温かい太陽の光が、俺の体を温めてくれた。
橙色を帯びた美しい森を眺めていると、自然と眠気がやってきた。
俺は抗うことなく、ゆっくりと眠りに落ちて行った。
突然、物凄い威圧が俺を襲った。
眠りから一気に意識を戻した次の瞬間、
空気を切り裂いて、何かが俺の頭に向かって飛んできた。
咄嗟に首を引っ込め、それを躱した。
「なんだ、気づいてしまったか小僧。折角妾が苦しまずに地獄へ送ってやろうと思っていたのに、その厚意を無駄にするとはなあ」
唐突に、声が聞こえた。
今までにも一度、聞いた事があるその声。
あまりに絶望的な状態で、苦笑するほかなかった。
「勘弁してくれよ。こちとら病み上がりだぞ?なあ、ラケ」
俺はそう言って振り返った。
思った通り、この間と同じサイズで同じような格好で、15本の柱の一角、ラケが座っていた。
夜の帳が降りた暗い空間に、ラケの青い目が怪し気に輝いていた。
ラケは、澄ました顔でそっぽを向いた。
「そんなことは妾には関係ないだろう?いや、むしろ最強の天敵が弱っているこの状態とは完全に願ったりかなったり、といったところではないか?」
そう言ったラケは、再び俺を見て、にやりと笑った。
…本当に冗談じゃない。アシーナもソルドもいない中、病み上がりが一人で15柱獣と戦えなんて。
でも、こうなった以上は勝って戻らないといけないよな。
俺は腰から刀を抜き放ち、ラケに向かって構えた。
「さあ、かかって来いよ15柱獣。俺が葬りさってやるから」
挑発の意を込め、俺は笑った。
ラケの目の輝きが強くなった。
「いい心がけだな、小僧。こちらも本気で向かうとしようか」
不意に、ラケの体から、物がたわむような嫌な音がした。
そして、俺たちが大きなものを錬成するときに鳴る、砂が落ちていくような涼し気な音がわずかに聞こえた。
次の瞬間、ラケはライオンくらいの大きさになり、俺に向かって牙をむいていた。
「戦闘開始と行こうか、小僧」
ラケの爪が俺に向かって迫ってきた瞬間、
斬ッ!
刀が白い弧を描いた。
そして、赤黒い血が宙に飛び散った。




