58 静寂
驚くほどの静寂が、場を支配した。
俺もアシーナもソルドも、まったく動くことなくその場に座っていた。
この場にいる全ての生き物が、いや、生き物だけではなく空気までが息を潜めているような静けさだった。
息を一つ吸い、俺は恐る恐る口を開いた。
ようやく絞り出したようなその声は、驚くほど震え、掠れていた。
「…ちょっと待て。人間と水蛇を、人工的に混ぜる…?そんなことが可能なのか?」
アシーナは首を横に振った。
「今の私たちじゃ無理。恐らく、魔王の仕業よ。どれだけ高度な魔法を使えば、こんなことができるのかしら…」
最後の方はあたかも、自分に語り掛ける様な、小さく細い声だった。
そして、再び静けさが場を支配した。
先ほどの静けさより暗く、重い物だった。
魔王が魔法を使って、モースを作った。
…なぜか、俺はこの意見に違和感を感じていた。
ただ、いくら自分の思考の奥深くを探ろうとも、その違和感の原因が見つかることはなかった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
俺たち以外の生物たちが、活動を始めたような頃だった。
最初に口を開いたのは、ソルドだった。
「なあニーケ。もしかしたら、他の15柱獣も同じように作られたのかもしれないだろ?ちょっとやってみてくれよ」
隣で、思考から復帰したアシーナも頷いた。
「そうね。ほら、ニーケの無限収納に色々入ってたでしょ?試してみない?」
俺は首を縦に振ると、無限収納の袋を腰から取り外した。
血にまみれてどす黒い色になっているが、機能はそのままだ。
俺は袋の中に腕を突っ込むと、呟いた。
「モロの翼、出てこい」
手に滑らかな、しかし若干鋭い感触が伝わった。
俺はそれをしっかりつかみ、腕を引っ張り出した。
血を被り根元が固くなった、艶やかな黒がかった茶色の翼が、俺の手に掴まれていた。
俺はそれを地面にそっと置くと、アシーナを向き直った。
「さて、これはモロの翼なんだけども。アシーナ、分解頼んでいい?」
アシーナは、真剣な表情で頷いた。
右手をモロの翼の上にかざし、彼女は一言、言った。
「分解」
不意に、翼が赤く鈍く光った。
血のようなその色が翼から流れ出す様子は、あたかも翼が血を流しているかのようだった。
耳障りなザラっという音がした。
赤い光が強くなり、翼を覆うように広がった。
そして、次に光が弱まった時目に入ったのは、焦げ茶色のフクロウの右側の翼と、
血の気を失い、気持ち悪い土気色に変色し、ミイラのように乾ききった人間の右腕だった。
俺は、思わぬものの出現に思わず口元を抑えた。
腕が出てくることはどこか覚悟していたけれど、これほどとは思わなかった。
…死体は結構見てきたけれど、ここまで古いものは初めてだ。正直、吐き気がする。
隣の二人も、顔から血の気が引き、口元を手で押さえている。
俺たちが吐き気を必死で抑えているうちに、不気味な赤い光は消えていった。
それらは、再びざらざらというホワイトノイズのような音を立て、さらさらと崩れていった。
後に残ったのは、驚くほど細かくなった、砂のような残骸。
出てくる言葉もなく、俺たちはただただ無言でその残骸を見つめていた。
風が一陣吹き、残骸をさらって、消えた。
後に残ったのは、重苦しい静寂だけだった。




