57 化け物よ
目が覚めた時、俺はベッドに寝かされていた。
起き上がろうとすると、体の節々に鈍い痛みが走った。
体中が熱いのにも関わらず、体の底が冷えているような気持ち悪い感覚。
頭が重く、鈍い痛みがある。
熱が出てるのだろう。
当り前だ。濡れた格好のまま陸に引き上げられたんだし、モースの毒が体内に少しは入っている。
そうだ、アシーナたちはどこに…
絶え間なく襲ってくる痛みに耐えながら、俺は首を回して辺りを見た。
どうやら小屋を錬成したらしい。壁にわずかに錬成痕が残っている。
隣には2つのベッド。誰かが寝ていた形跡はあるが、今は誰もいない。
卓袱台のような低い机が一つ。
…誰もいない。とても静かだ。
あまりにやることがなく、俺は毛布にもぐりこんだ。
物が煮えるいい匂いがして、俺は目が覚めた。
扉が開きっぱなしで、そこから匂いが流れてきたのだろう。
先ほどよりも体調は良かったから、布団をはねのけて起き上がった。
外で煮物を作っていたのは、思った通りソルドだった。
「やあ、ソルド。君は大丈夫なの?体調」
俺は、彼の背中に声をかけた。
彼は振り返り、ちょっと怒った顔をした。
「ああ、俺は大丈夫だが、お前は大丈夫じゃないだろ?まだ本調子じゃないんだから中に入ってろ」
「はいはい、病人は寝てるとしますよ」
「そうしたほうが絶対いいぞ!」
「あら、ニーケおはよう。ずいぶん長い間寝てたね」
ベッドの上でごろごろしていると、アシーナが帰ってきた。
手には数匹の魚が吊り下げられている。
どの魚にも、細い穴が開いている。
…まさか、釣ったんじゃなくて刀で刺してとったのか…?
俺は魚から目を上げ、アシーナを見た。
「うん、おはよう。ソルドがご飯作ってるよ」
俺がそう言うと、アシーナはうれしそうな顔になった。
「やった!おなかすいてたんだよね」
俺も笑顔で頷いた。
「俺も。ところで、今何時くらい?」
アシーナは首をかしげて、口を開いた。
「うーん、だいたい午後4時過ぎってところかな」
「そっか。じゃあ、結構寝てたんだな、俺」
「そう。心配したんだよ?戦闘が終わるや否やぷかーって浮いちゃうし。回収大変だった」
「…すいません」
俺は首を縮めて、アシーナに謝った。
不意に視線を感じてそっちの方を見ると、ソルドがニヤニヤした顔でこっちを見ていた。
「「「いただきまーす」」」
俺の前には、ほぐされた魚が入った小さい煮込み料理の鍋。
他の二人の前には、20㎝ほどある、丸々太った焼き魚が2匹。
手を合わせるが早いか、二人は猛烈な勢いで魚を平らげた。
それでも足りないようで、アシーナとソルドは湖の周りを囲む森に消えた。
おおかた、木の実でも取りに行くのだろう。
…今更ながら、アシーナってあんなに細いのによくあんなに食べられるよな…
のんびり煮込み料理を食べながら、俺は視線で二人を追った。
2分くらいたったころ、二人は両手いっぱいの木の実を持って戻ってきた。
そして、殻を割ると次々に口に放り込んだ。
もはや見ていて楽しいほどの食いっぷりを眺めながら、俺はアシーナに声をかけた。
「そういえば、アシーナ。モースの牙、俺の荷物に仕舞ってくれた?」
アシーナは、木の実を口に放り込む手を止め、自分の分を皿に取り分けると俺に向き直った。
その目は、どこか無機質で恐ろしかった。
なぜか、変な悪寒が背を走った。
俺は、その感覚を忘れきれないままアシーナの話を聞く姿勢を取った。
「あの牙、どんな素材からできているのか理解してもはっきりとはわからなかったわ。だから、試しに片方、分解してみたの。そうしたら…」
アシーナは、体をぶるっと一回震わせ、そして何かを決意したような顔で口を開いた。
「あの牙から、ただの水蛇の牙だけじゃなくて、人間の犬歯が出てきたの。要するに、モースは自然に生まれた生物じゃない。
恐らく、水蛇と人間を人工的に混ぜて生まれた、化け物よ」




