53 よし、行こう。
次の日。俺とアシーナが起きてくると、ソルドはもうすでに朝ごはんの食材を前に腕まくりをしていた。鳥らしき肉塊が一つ、彼の前に置いてあった。
「おはよ…」
寝ぼけ眼を擦りながら、俺は彼に挨拶した。
彼は振り返り、満面の笑みで俺たちを見た。
「おお、おはよう二人とも!昨日はずいぶん遅くまで起きてたようだったが、なんか変わったことでもあったのか?」
頭の中に、昨夜の出来事がフラッシュバックした。
夜の闇、満面の星空、彼女の微笑み、そしてあの唇の感触。
俺、昨晩、アシーナとキスした…
そこまで考えて、顔が猛烈に熱くなった。
隣のアシーナを見ると、顔が真っ赤になっている。
どうやらそれでソルドは大体何があったのか察したようだ。
人の悪いニヤニヤ笑いを浮かべ、横目に俺たちを見ている。
「そうかそうか、いろいろあったんだな、よかったじゃないかぁ」
ニヤニヤしたまま、彼は肉塊に向き直った。
そして、驚くほどの手際の良さで肉をさばくと、串に突き刺した。
隣でおこしていた焚火のそばに串を刺すと、再び俺たちを振り返った。
先ほどのにやにや笑いより、さらに人の悪い笑顔だった。
彼の笑顔で怯み、逃げそびれた俺たちの襟首を捕まえると、彼は低い声で俺たちに囁いた。
「どこまで行ったのか、全部教えてもらおうか?」
もはや逃げるのは諦めるしかない。俺は観念して、抗うのを止めた。
しぶしぶ吐いた俺たちの話を聞くと、ソルドは唖然とした顔で一言言った。
「お前ら、ほんとに初心だな。そこは普通寝るだろ、一緒に」
寝る、とは添い寝のことだろうか。
俺はちょっと想像してみた。隣に、アシーナが寝ている様子を。
「…心臓が保たない」
ぼそっと呟いた俺の言葉を聞きとがめたように、ソルドが眉を吊り上げた。
「はあ?お前、毎日運動してるだろ?そんくらいで息上がってたら持たないぞ?」
疑問だ、とでも言わんばかりの口調で彼は言った。
…添い寝しても息は上がらないぞ?
恐らく、俺はきょとんとした顔をしていたのだろう。ソルドは、アシーナを一瞥した。
「なあ、こいつ何言ってるかわかるか、アシーナ?」
俺も、彼の視線を追ってアシーナを見た。
アシーナの顔は、びっくりするくらい赤くなっていた。
彼女は、ソルドに話しかけられて肩をびくっと痙攣させた。
どうやらソルドの話はちゃんと聞いていたようだ。真っ赤な顔のまま、コクリと頷いた。
そして、消えそうな細い声でソルドに言った。
「恐らく、あなたが思ってる『寝る』とニーケの思っている『寝る』の意味が違うんだと思うわ…」
ソルドはしばし、意味が分からない、という顔をしてアシーナを眺めていたが、やがて体をのけぞらせた。目が、驚きで大きく見開かれている。
「ニーケ。お前…この年齢でその意味が分からないって、かなり貴重だぞ…」
アシーナも隣で顔を赤くしながら、数回頷いた。
…さっぱり意味がわからない。
ジュー、という音がした。
何かと思って見ると、焚火に刺してあった肉が焼けている音だった。
「大変だ、焦げる!」
ソルドがあたふたしながら肉の串を抜きに向かった。
ソルドの気がそれたのをいいことに、俺は話題を変更した。
「ところで、ほかに討伐行けそうなところの見当ってついてるか、ソルド?」
彼は振り返ると、にやりと笑った。
「あるぞ。昨日の昼、魚を捕りに行った湖。あそこに魔物がいそうな気配がする!」
湖は、だいたいここから2キロほど南に行ったところにあったはずだ。
俺は頷いて、笑った。
「よし。それなら、朝食食べ終わったら行こう」




