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神々の選んだ錬金術師  作者: すいな
52/95

52 アシーナ

そして、特に何かが起こることもなく一日が終わった。

朝食を食べたら見回りをして、昼ご飯を作って(この時、火の番がアシーナだったせいで6匹の魚がすべて炭になりかけた)食べて、また見張りをして。

そんなこんなで、気が付いたら夜になっていた。

だから、せっかくならもう一泊しよう、という話になった。


夜の帳が降りきり、満天の星空が上空に広がっていた。

月は、ちょうど雲に隠れて見えなかった。

俺とアシーナは、並んで地面に寝転がりながら空を見ていた。

ソルドはというと、すでに小屋の中で眠っていた。


「ニーケ。今夜は月が綺麗ね」

不意に、隣のアシーナから声がした。

俺は首を回し、彼女の顔を見た。

彼女も、俺を見ていた。

艶やかに星をはじいて光る、吸い込まれそうな漆黒の目が美しかった。


寒いはずなのに、頬が僅かに熱くなるような感覚が俺を襲った。

彼女の目を直視しているのがなぜか気恥ずかしく、俺は顔を空に向けた。

時折感じていたこの感覚が、あと少しで何なのかわかるような気がした。

そして、できるだけいつも通り、素っ気なく言えるように努力しながら言った。

「月、今見えないよ?」


アシーナは体を起こして俺を覗き込んだ。

滑らかな黒髪が頬を撫でた。

降ったばかりの様な雪のごとく白い肌が、夜の闇よりも深く艶やかな黒髪が、星空にこのまま溶けていきそうな、柔らかく輝くつやめいた黒い目が、うっすらと微笑む、桜よりも上品な唇が、今は何よりも愛おしく思えた。

心臓が早鐘を打つ。まるで、俺が彼女にどんな感情を抱いているのかを知らせるかのように。

ああ、この感情を、恋って言うのか。


彼女は少し頬を赤く染め、拗ねたようにうっすらと唇を尖らせてそっぽを向いた。

「分かってくれると思ったんだけどなあ」

その様子に、思わず俺は微笑んだ。

そっと体を起こすと、俺は彼女の髪を撫でた。

「ごめん、わかってるさ。まさか、と思う気持ちが強くて」


アシーナは目線を上げ、俺を見た。

照れ隠しをしきれていない、少しすねたような口調で彼女は言った。

「答えは?くれないの?」

星を映し、その目は美しく輝いていた。


俺は彼女をそっと抱き寄せた。

彼女が僅かに体を硬くするのがわかった。

そっと口を寄せ、俺は耳元で囁いた。

「月が美しく見えるのは、あなたと見る月だから」


下におろされていた彼女の手が、俺の背中に回った。

どちらからだったかのか、俺にはわからなかった。

唇に、柔らかく熱い何かが押し付けられた。


夜の闇に守られ、俺たちはその時間をじっくりと味わった。


今まで感じてきたどんな幸せよりも、満ち足りた幸せが俺の心を満たしていた。

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