50 小僧、お前も運がいいな。
襲い掛かる強風に抗いながら、俺は後ろを向いて叫んだ。
「アシーナ、ソルド。お前らは竜巻をどうにかしてくれ!」
「「了解っ!」」
声が聞こえた次の瞬間、竜巻に向かって進む2本の光る線が俺の横を通った。
剣と刀が猛スピードで振られる音が僅かに聞こえてきた。
あの二人なら大丈夫だ。あとは、本体のこいつだけ。
俺はモロに向き直った。
そして、余裕気な笑顔でモロに笑いかけた。
「さあ、お前の相手は俺だ。かかって来いよ、15柱獣」
モロの目が光り、俺に向かって真っすぐに向かってくる嘴が目に入った。
…15柱獣のはずなのに、攻撃が単調で遅い。こいつ、ケーリより弱いのか?
嘴が迫る。
俺は横っ飛びに避け、モロに一閃を放った。
次の瞬間、足に鋭い痛みが走った。
何かと思って足を見た刹那、今度は手に何かが刺さった。
手をちらっと見るが、何も刺さっているようには見えない。
足も同様、何で斬られたのかさっぱりわからない。
これはマズい!
「錬成」
咄嗟に木の陰に隠れて傷を塞ぐ。
首筋に鳥肌が立った。
本能的に後ろへ逃げる。
先刻まで隠れていた木が、地鳴りと共に倒れた。
…嘘だろ?あの木、かなり太かったぞ?
俺は逃げた勢いで跳び、モロの真上を取る。
そして、目を凝らして彼の動きを見た。
何があの木を倒したのか、何が俺の足を斬ったのか。
わからない限り勝ち目がない。
0.6秒後、モロの目が俺を捉えた。
嘴が僅かに動いた。
そして、翼が小さく振られ、風が起こった。
見えないはずなのに、その風が弧を描く刃物となり、こちらへ向かってくることがわかった。
俺の足を切り裂いたのは、風だ。
ならば、モロから最初に奪うべきは、翼。
足場を作って蹴り、風から逃げる。
そのまま虚空に手を伸ばし、
「錬成っ!」
モロが作ったものより一回り大きい、空気の刃物を作り出した。
手を当て、思いっきり押し出す。
刃物は、モロの翼めがけてまっすぐ空を切り、そして
戦場一帯に響き渡る、激しい怒りと痛みの叫び声。
そして、重い物が落ちる音。
モロの翼が地に落ち、血がだらだらと流れた。
彼の目が、恨みがましく俺を睨んだ。
「とどめだっ!」
俺は落下しながら刀を構えた。
空を蹴って一回転し、その勢いに任せて
一閃。
首筋から血が吹きあがり、俺にかかった。
足から力が失せ、翼を失った巨体が崩れ落ちた。
恨みがましく俺を睨んでいた目から、生気が消えた。
そして、辺りを静寂が支配した。
俺がモロの体を無限収納に仕舞おうと四苦八苦していると、アシーナとソルドが駆けてきた。
二人とも血まみれだが、特に大きなけがはなさそうだ。
「ニーケ!」
「倒し終わったのか?」
「ああ。これで、15柱獣から3本の柱が消えたな」
俺は、そう言って笑った。
「なぁお」
突然、後ろから声がした。
俺たちは一斉に振り返った。
普通の猫より一回り大きく、迫力のあるネコが礼儀正しく座っていた。
俺とソルドは息をついた。
「なんだ、ネコか。なんでこんなところに…」
二人で手を伸ばし、撫でようとすると…
「やめて!それは…」
アシーナが甲高い声で叫んだ。
その顔が、恐怖で引き攣っている。
一瞬、俺たちは怯んだ。
ネコの目が僅かに光った。
次の瞬間、
ボキッ
嫌な音とともに、左手の指2本に猛烈な痛みが走った。
俺は呻いた。
隣で、ソルドも痛みで呻いたのが聞こえた。
曲げ伸ばしができない。
俺はそろりと立ち上がり、アシーナを見つめた。
「この猫は…?」
アシーナは、声を出すことができず、ひたすら口をわずかに開けては閉じていた。
彼女の瞳孔が縮み、恐怖で引き攣った顔から血の気が引いた。
「小娘、余計なことをするな。お前が警戒していなければ、妾が小僧たちを殺せたというのに」
背後から、威圧的な声がした。
俺は振り返った。
美しく澄んだ青色の目を不気味に光らせ、ネコが礼儀正しく座っていた。
ネコは、口を開いた。
「妾は、魔王クロトに忠誠を誓う者、そして魔王を支え、人間どもを殲滅する15本の柱の一角。
蒼い鈍器、ラケだ。一晩で妾たち15の柱を2本目にするとは、小僧、お前も運がいいな」
そして、ネコは妖艶な笑みを浮かべた。




