49 せいぜいあがけよ、人間。
ソルドたちに稽古を頼まれてから3週間がたった。
「…二人ともさ、3週間で俺と10分互角で戦えてるじゃないか…成長速すぎないか?」
二人は、先ほどまでの手合わせで上がった息を整えながら笑った。
「ああ…これなら15柱獣が来ても、2人でどうにか倒せそうだ!」
「ええ。ありがとう、ニーケ」
俺は二人に笑いかけ、口を開いた。
「さて、じゃあ討伐に行こうか。まだ日が暮れてから1時間も経っていない。今から討伐隊本部に行って人の流れを見てから討伐に出かけても問題ない時間だ」
二人はそれに頷いた。
「じゃあ、本部まで行きましょう」
アシーナがそう言ったのを合図に、俺たちは飛び上がって屋根に上り、走り出した。
本部には25分で着いた。前よりも格段に速くなっている。
二人の稽古で、俺もスピードが上がった。まさにウィンウィンの稽古だったといえるな!
そんなことを考えながら下を覗き込んでいると、アシーナが声を上げた。
「どうやら負傷者が乗った馬車が帰ってきたようね。どこから来たのかしら」
そう言って彼女が指さした方向を眺めてみると、それらしき馬車が見えた。
普段なら、3台がいっぺんにすれ違えるくらいの幅の馬車が、今日は2台すれ違うのがギリギリというサイズまで大きくなっている。
「…普段よりだいぶ大きい。それだけ負傷者が多かったのだろうか」
俺が聞くと、彼女は頷いた。どうやらソルドも同じことを思っていたらしい。ソルドも頷いていた。
「さて!じゃあどこから来たのか御者に聞こうじゃないか!」
彼は一言そういうと、屋根から飛び降りて馬車のもとへ走っていった。
しばらくすると、話がひと段落着いたらしいソルドが戻ってきた。
「ずいぶん話が長かったわね。どうしたの?」
アシーナが彼に聞くと、彼は顔を輝かせて言った。
「どうやら、馬鹿でかいフクロウのような魔物が暴れているようだ!場所はここから東に5㎞行った場所、ロレド!行くぞ!」
アシーナはそれを聞いて、顔を輝かせた。
対照的に、俺は素直に笑えなかった。
馬鹿でかいフクロウ。もしかしたら…
俺は二人の顔を見て言った。
「十分注意しろよ。15柱獣の可能性だってある」
二人は表情を引き締め、頷いた。
「そうか、どうやらここで稽古の成果が出るかどうかが問われるようだな!」
「そういうことになるわ。違ったとしても、注意しておくに越したことはない」
俺も頷いた。
「その通りだ。じゃあ、行くぞ」
3人の影が、夜の帳が降りた街の闇に溶けた。
俺たちは、夜闇の中を疾走した。
不意に、後方からソルドの声が聞こえた。
「もうすぐでロレドに着くぞ!」
「わかった、ありがとう」
俺は彼に返事をした。
次の瞬間、突然強い向かい風が吹いた。
同時に、空気が重くなった。
強者を求める奴らなら、必然的に笑いが浮かんでくるような気配。
「どうやら、俺の読みは当たっていたようだな」
行く先に、翼を広げた大きい鳥の影が見えた。
夜の闇の中でも、その鳥が圧倒的に美しく、そして強いことが分かった。
「あれは、15獣柱だ」
俺は、走りながら刀を抜き放った。
僅かな月明かりをはじき、刀が白く美しく光った。
後ろから、ソルドとアシーナがそれぞれ武器を抜き放つ音がした。
鳥が、こちらに向かって翼を扇いだ。
猛烈な風を刀で断ち切ると、俺は飛び上がった。
羽角が一本しかない、3メートルほどもあるミミズクが、月明かりに浮かび上がった。
それに向かって刀を振る。
ミミズクは急上昇してそれを避け、俺を見下ろした。
「ほう、人間風情が私に勝負を挑むとは。今夜はどうやら対して美味くもない肉が私の前に積みあがりそうだな」
深みのある低い声で、ミミズクは言った。
俺は、ミミズクに向かって挑発的に笑った。
「逆だな。対して美味くもない肉が俺の前に落ちてくるんじゃないか?15柱獣の4本目、風使いのモロ」
モロは、俺に挑発されたことに激昂したようだ。
怒りが滲みだしている声で、彼は言った。
「なめた口をきくのだな、人間。どうやらお前の肉は今までで一番美味く食えそうだ」
翼が大きな音を立てて振られた。
突然、強い風が俺たちを襲った。
「私の操る風は普通の風とは違う。せいぜいあがけよ、人間」
無感情に近い声で告げたモロの背後に、激しく渦を巻く竜巻が発生した。




