47 はっきり言って、最悪だな。
エクセレスに連れられて2分ほど歩くと、城の裏庭が見えてきた。
薄く芝生が生え、あとは城塞のような壁が周りを一周している。
子供のころ、裏庭には来るな、と言われていたのは軍の基地だったからなのか。
エクセレスが立ち止まり、裏庭の手前で止まった。
そして、裏庭の入り口を指さした。
「ここから先が、軍の拠点ですね。では、私はここで失礼します」
そういって、彼は一礼して立ち去ろうとした。
「総理は入んないんですか?」
俺は聞いた。
…謎の空白。
「…恐らく、私が入ると軍のありのままの姿は見られないので」
苦虫を噛みつぶしたような顔で言うエクセレス。
…過去に何があった…
不安になりつつも、俺は中に足を踏み入れた。
中に入った瞬間、俺は見えた景色に絶望した。
はっきり言って、最悪。
訓練はおろか、トレーニングをしている軍人が一人もいない。
全員、地面に寝っ転がって酒を飲んでいたり、雑談したり、レベルの低い言い争いをしていたり。
俺が来たことに気付いた奴はいるのだろうか…
俺が入って20秒くらいたったタイミングで、ようやく一人が俺の存在に気が付いた。
どうやらずいぶん酒が入っているようだ。顔が赤く、目の焦点が合っていない。
「誰だぁ?ここは軍の基地だぞ?一般人が入ってくるところじゃねえぞぉ」
びっくりするほど間の抜けた声で、そいつは言った。
…うん、俺が軍のトップであることをさっぱり認識していないようだ。
これは、お灸をすえてやるべきだな。訓練内容も、管理も考え直さなければ。
俺は朗々と響く声で言った。
「お前ら、ここが軍隊だってわかってるよな?」
どうやら、俺の声は端から端までよく聞こえたようだ。雑談をしていた奴らも、こちらを向いた。
奥の方で寝っ転がっていた奴が立ち上がり、こちらに歩いてきた。
制服が一番立派だ。恐らく、ここのリーダーということになっている奴だろう。
そいつは、俺の正面に立つと、唾を飛ばしながら怒鳴った。
「わかってるさ、そんなことは。ところで、お前は誰だ?」
俺は肩をすくめてみせた。
「なんで軍の奴が、俺のことを知らないんだ?俺は、ニーケ・ラドニクス。現エレメント王国軍総司令官だ」
それを聞くと、リーダーの顔がわずかに青くなった。
「そ、それがなんだ?ここは、俺の管轄だ!お前に手出しされる覚えはない!」
虚勢を張って、彼は裏返った声で叫んだ。
…論外だ。ため息しか出てこない。
しょうがない、ちょっと卑怯な手を使うか。
俺は上着の内側から王命が書かれた紙を引っ張り出して、リーダーの鼻先に突き付けた。
「女王から直々のご命令だ。すべての軍の管理は、俺に委ねられている。で、俺はここの雰囲気が最悪であることを知った。だから、ここは俺が管理する。いいな?」
そう言うと、俺はこの場にいる全員を睨みつけた。
リーダーは、もうすでに顔が青くなっていたが、どうにか俺を追い出したいらしい。震える声で噛みついてきた。
「ぐ、軍は実力がすべてだ!お前が、ここにいる全員に勝てたら、俺様は、ここから手を引く!これでいいな?!」
リーダーがそう言った瞬間、周りの奴ら全員が、ふらっと立ち上がって剣を手に取った。
それを見て、彼は嫌な笑みを浮かべた。
俺はため息をつくと、刀を抜いた。
「…そんなことでいいのか。ていうか、お前ら戦闘員として失格だな」
俺に剣を向けている奴らが全員、露骨にいらだった顔をした。
何の前触れもなく、彼らが一斉にこちらへ走ってきた。
剣が迫ってくるのを軽く避けて相手に峰打ちを当てながら、俺は戦況を見ていた。
ざっと300人、ってとこか。軍人とはいえ、最近は恐らく全く鍛えてないのだろう。
…本気でかかって、大丈夫だろうか。いや、ダメだろうな…
俺は刀を持って、踊るように3回転した。
速度にマントがついて来られず、ちぎれかけた。
それによって物凄い風が発生した。
俺の半径2メートル以内に入っていた奴が、まともに構えられなくなるくらいの風が。
その隙に、俺は構えを崩した奴らを片っ端から倒し、それに狼狽えている奴らも圧倒。
さらに奥へ走ると、固まって作戦を練っていた奴らを一閃。
各々がバラバラな方向へ吹っ飛ぶのを後目に、俺は残りの奴らをぶっ飛ばした。
最後に、恐怖で膝が笑っているリーダーのところへ行き、首筋に刃を当てた。
「これで、証明できたよな?」
俺がそう言い、にやりと笑うと、リーダーが引きつった顔で何度も頷いた。
全員を叩き起こすと、俺はその場に正座させ、膝の上に重しをのせて話を始めた。
「さて、じゃあ明日から訓練内容を見直し、しっかりやれ。いいな?それと、軍資金はしばらく減らす。酒を買う余裕なんてあったら練習してろ。訓練内容は今日中に渡す。俺が常に見張っていると思え。俺がいなくても、エクセレス総理が見張っていると思え。守っていないことがわかったら、即俺と手合わせだ。手合わせの際は3日筋肉痛が続くくらいの勢いで打ちのめしてやるから楽しみにしておけよ?」
にやりとわらって圧をかけると、全員が蛇に睨まれた蛙のように固まった。
返事が欲しいのだが、どうやら口が開かないらしい。
俺は再び圧をかけて言った。
「返事は?」
「「「ひゃいっっ!」」」
「よし。じゃあ、今日は訓練しとけ。いいな?」
「「「はいっ!」」」




