46 魔王の復活を、国民に知らせるか否か。
姉さんの顔から血の気が引いていくのがよく分かった。
もはや青くなりつつある、震える唇から姉さんは声を押し出した。
恐怖で掠れた声が、俺の耳に届いた。
「…誰に…?」
俺はそれに答える代わりに、一言聞いた。
「姉さん、魔王が復活したって、国民に知らせたか?」
もうすでに血の気が引いていた顔が、さらに青白くなった。
「いえ、まだ…」
俺は最後まで言わせず、断固とした口調で姉さんに迫った。
「早く言うべきだ。じゃないと、いくら軍隊を強くしたって効果がない。国民が自衛しない限り、魔王軍の手は一般人にもかかる。今回、ファスネー妃が死んだのも、魔王軍の手の者のせいだ」
姉さんは、あまりのことに理解が追い付いていないらしい。目を5度ほど瞬き、そして目を見開いた。
「この城内に、魔王軍の者が…?」
姉さんは、恐怖に慄いた声で俺に聞いた。
俺はうなずいた。
「ああ。それも、魔王に次ぐ魔物、15柱獣だ」
2日後。俺が復帰するが早いか、姉さんが俺を執務室に呼んだ。
「失礼します」
扉を3度叩き、中に入るとエクセレスと姉さんが待ち構えていた。
姉さんは俺の姿を認識すると、微笑んだ。
「ニーケ、来たのね」
姉さんは一つ咳ばらいをすると、まじめな顔で俺たちの方を見た。
「さて、二人を呼んだのはほかでもない、魔王軍のことについてだ。エレメント王国軍総司令官、ニーケ・ラドニクスから聞いたのだが、最近、魔王軍の勢いが強まってきている。魔王も復活し、15柱獣なるものも勢力を伸ばしている。先日の、ファスネー妃失踪事件も、15柱獣によるものだ」
15柱獣、と聞いた瞬間、エクセレスが息をのんだ。
「お言葉ですが、女王陛下。15柱獣が勢力を伸ばしている、と…?」
恐る恐る口を開いた彼に、俺が答えた。
「はい、総理大臣。僭越ながら、私が今のところ、2頭を討伐いたしました。ですが、残りの13頭は恐らくこれ以上の強者。早く倒さない限り、さらに力が増して抑えきれなくなります」
それを聞くと、エクセレスも姉さんも、顔から血の気が引いた。
姉さんは気を取り直したように姿勢を直し、再び俺たちを見据えた。
「私が今お前らに問うのはただ一つ。魔王の復活を、国民に知らせるか否か。それのみだ。今日中に2人で結論を出せ。結論によっては、今後1週間以内に発表を行える準備はしてある。異論は」
俺とエクセレスは、最敬礼の姿勢を取って、一言。
「「ございません」」
「で、どうするんですか。軍総司令官」
部屋から出ていくや否や、エクセレスが砕けた様子で話しかけてきた。
…砕けた様子のはずなのに、敬語は変わらないんだな…
「いや、どうするもこうするもないでしょう。発表して、国全体の緊張感を上げるべきだと思いますよ、俺は」
俺も一応敬語で返す。
エクセレスは、俺の持論に頷いた。
「私も同感ですね。国全体が魔王討伐に向かない限り、軍事費のための増税や、強制避難命令に対応できないでしょう」
議論がここで終わった。
「…ずいぶんあっさり決まりまして」
「そうですね。では、もう打診してしまっても?」
エクセレスは俺を覗き込んで聞いた。
俺はちょっと考えて、首を横に振った。
「いや、ちょっと待ってください。国民に増税を要請する可能性があるなら、それに値する価値がある組織なのか、一度軍を見学してみようかと思います。俺が受け持っている組織の様子を一切知らないのもおかしいですし」
それを聞いて、彼はうなずいた。
「そうですね、では案内しましょう」
こちらへ、と言って彼は手で方向を指した。
…エクセレスの眉のあたりに皺が寄った気がするのだが、気のせいだろうか。




