43 いざ、参る
戴冠式が終わるや否や、姉さんが俺に近づいてきた。
顔が怖い。それに加えて結構な速さでつかつか近づいてくる。
げ、怒られるのかな…
俺が体を硬くして待ち構えていると、
「ニーケ、今までいじめたりしてごめんなさい!」
姉さんが、頭をものすごい勢いで下げた。
冠はもう外してあったから無事だった。
隣で冠を持たされている少年が、わたわたした顔をしていた。
…ん?てか今俺、謝られた?あの超プライドの高い姉さんから?
「な、なんで謝るの姉さ…じゃなくて女王様!みんな見てるよ!女王様が人前で頭下げるってどうなの!?」
俺は慌てて小声で姉さんに言った。
そりゃ慌てるさ。この国において女王様の言うことは絶対、ってくらいに女王様は家臣と超越した存在なのだ。謝ったら権威に関わるようなことだ。しかも、一応無職認定の俺に謝るなんてとんでもない。
俺がそう言うと姉さんは顔を上げたが、表情はしょげたままだった。
「私、子供のころから、教育係の大臣に偏見を植え付けられてたの。『ニーケ様は王家にあるまじき人だ。王家の者なのに茶髪で、なおかつ勉強も手伝いもせずに遊びまわっている。』って具合にね」
姉さんは俯いたまま、そう言った。
おい、姉さんにそんなこと刷り込んだくそやろ…失礼しました。教育担当は誰だ。
…確か、姉さんの教育係の大臣は国の軍事を担当していたはずだ。
でも、今その座は俺が射止めた。
…なるほど、きっと歯をぎりぎり鳴らして悔しがっているだろう。
というか、王家の人だと茶髪はダメなのか?初めて聞いた。
まあ確かに、今まで見てきた肖像画の中に、金髪以外の髪色の人を見たことがないな。
姉さんの反省の言葉はまだ続く。
「ニーケが学園に行ってから、あなたの教育担当に無理言ってあなたの成績を見たの。正直に言うとあなたを馬鹿にするために。でも成績を見たら、ニーケが凄く優秀だってわかったわ。私、あんな問題であんな成績とれないもの。さらにね、学園の方からうわさが流れてきたのよ。風の噂。『王家出身の落ちこぼれのはずなのに、物凄く強くて物凄く優秀な生徒がいる』って。私、それを聞いて反省した。人の言うことを鵜呑みにしたらいけないって」
姉さんはそこまで一気に言うと、もう一度頭を下げようとした。
俺は慌てて手を出して、それを防いだ。
これ以上頭を下げさせたら俺の立場がなくなるよ!
姉さんが立ち去ると、今までこのやり取りを見ていた野次馬(大臣や各国のお偉いさん)もわらわらと立ち去った。
4人を除いて。
「なあニーケ、あ、失礼しました。新エレメント王国軍総司令官。本当にこの地位についてよかったんですか?大丈夫ですか?もしよろしければ私たちがサポートいたしますが」
薄ら笑いを顔に張り付け、俺に憎しみの視線を向ける兄さんと大臣が近づいてきた。
話しかけてきたのは長男、ジェロ兄さんだ。
兄さんたちは思っていたより、ずっと背が低く見えた。
昔は俺、背が低い方だったから致し方ないか。
俺は今や兄さんたちより高くなった身長と、死線をくぐってきて身に着けた殺気をうまく使い、絶妙に脅しながら堂々と言った。
「いや、俺の実力で十分だ。申し出はありがたいけど、辞退させてもらう」
立場上としても、人間としても格下の奴らに敬語を使う気はない。
どうやら兄さんたちにとって、俺の態度はずいぶん癪に障ったようだ。
眉間に青筋が立っていた。
「ほう、それならその実力とやら、見せていただきましょう。それほどまでに自信があるなら、私たち4人くらい、殺さずに動きを仕留められますよね?」
次男、アロガンが嫌な笑顔で言う。
それを合図にするかのように、残りの3人は剣を抜いた。
俺はため息をついた。
「わかった。それほどまでに実力差を見たいなら、俺は素手で戦うよ。それで文句ないだろ?」
あきれた声音で言うと、兄さんたちの怒りは最高潮に達した。
「馬鹿にするんじゃねえよ!ああ、お前なんかぶっ殺してやる!」
そう叫ぶと、一気に俺に襲い掛かってきた。
どうやらあっさりと本性を出してしまったようだ。
見下げた奴ら。俺よりこいつらの方が王家にふさわしくないんじゃないか?
それにしても、遅すぎる。
こいつらも学園に行ってしごいてもらった方が強くなるだろう。
ひょいと避け、俺は首筋を軽く叩いた。
4回ともクリーンヒット。
兄さんたちはばたっと倒れた。
恐らく何が起きたかわかっていないんじゃないだろうか。
「…帰ろ」
あくびを一つすると、俺は家に帰ろうとした。
不意に、空気が重くなった。
…この感じ、ケーリの時の。
「まさかとは思うが…王都に、それも城の中に15柱獣が出てくるとかは、無いよな?」
俺は冷や汗を流しながら、虚空に呼び掛けた。
「そのまさかだ。錬金術師」
虚空から返答があった。
透明な奴と戦うというわけにはいかない。
俺は気配でなんとなく把握できるから俺だけの時ならいいが、この城の中には15柱獣に太刀打ちできるはずのない人たちがたくさんいる。
俺は交渉を持ち掛けた。
「姿を出さないか?もともとの戦力差が半端じゃない上に、俺は人々を守らないといけない。さすがにアンフェアすぎる」
ワンテンポ間があった。
「…お前にとっては残念なことに、拙者はこの姿で完成形、透明なのは元々なのだ。よって、姿を見せるのは不可能だ」
「じゃあ、お前の得物だけでも教えてくれないか?」
俺は提案した。それだけなら許してくれるだろう。
思った通り、動く気配がないまま、虚空から声が返ってきた。
「それだけなら良い。拙者は、魔王クロトに忠誠を誓う者、そして魔王を支え、人間どもを殲滅する15本の柱の一角。二刀流の最凶刀使い、オイジュだ。お前に、拙者に匹敵するくらいの実力があることを期待しているぞ、右手刀の錬金術師」
ぞわっと鳥肌が立った。
ケーリよりも数段上の実力。
恐らく俺より少し上だろう。
それだけなら、錬金術を使って勝てる。
だが、ここは城の中。守る人が大量にいる。
それに加え、相手は透明で姿が見えない。
「…これはヤバいぞ」
殺気が増し、刀を抜き放つ甲高い音がした。
「いざ、参る」




