42 「私は、これまでの慣習に捕らわれることはしない。」
俺は大急ぎで王家の正装に着替え、リンを迎えに行った。
20分で本部に辿り着くと、受付の人に物凄い勢いで迫った。
「リンを貸してください!リン・アプレイズを!ニーケからの急用だ、って言えばわかるのでっ!」
受付嬢はどうやら俺の王家の服装にびっくりしたようだ。
「はっ、はい今すぐにっ!」
顔をあっという間に真っ青にして、すごい勢いですっ飛んでいった。
うん、なんかちょっと悪いことした気分だ…
1分も経たないうちに、リンが飛び出してきた。
「ニーケ様!お呼びとのことでしたが!」
「ああ、母さんが崩御したんだ!行くぞ!このままだと葬式前に着けなくなる!」
俺は一気にまくしたて、リンを軽々背負うと、残像を残すくらいのスピードで外へ飛び出した。
すぐに屋根に飛び乗り、俺は駆けだした。
「遅れて申し訳ございませんでした。ニーケ・ラドニクス・アイテル。ただいま参りました」
「初めに、女王様の崩御、心よりお悔やみ致します。リン・コンペニ・アプレイズ、ただいま参りました。このような場に遅れてしまったこと、反省しております」
俺たちは、母さんの棺の前で最敬礼の姿勢を取った。
奥には、姉さんと兄さんがゆったりと椅子に座っていた。
隙あらば俺の座や姉さんの座を取って代わろうと狙っている兄さんが、俺に冷たい目を向けた。
傍らには、それぞれが贔屓にしている大臣。彼らも、俺を馬鹿にした視線を向けた。
まあ、遅れたって言ったのはあくまで礼儀だ。
葬式の1時間前には着いたし、なにより葬式の時間なんて一切知らされていない。アリが知らせてくれなかったら、恐らく俺は葬式が終わった後に母さんの崩御を知ることになっただろう。
きっと兄さんたちは俺にわざとそのことを教えないでおいて、俺が来なかったことを理由に失墜させようとしたのだろう。
つくづく最低な野郎だ。俺の兄弟だけど。
俺は行く傍ら買ってきた花束を母さんの棺の中に入れた。
白いアスター。
花言葉は、「追憶」
リンも俺に習う。
白いカサブランカ。
花言葉は、「威厳」
母さんの穏やかな笑みに、白い花は良く映えた。
兄さんたちが入れたのであろう黄や桃色の花よりも、ずっと美しく見えた。
葬式が終わると、俺たちは王座の間に呼ばれた。
姉さんは、もうすでに冠を頂き、王座に座っていた。
つい先日まで母さんの席だった場所に姉さんが座っているのは、気分が悪かった。
これからこの女に仕えるのかと思うと、胸に何かがつかえる様な気がした。
でも、いくら胸糞悪かろうと姉さんが暴君だろうと、俺は今、ただの王子だ。
女王の戴冠式で騒ぎを起こすわけにはいかない。
周りからの視線を受け、俺はひざを折った。
そして、無理に絞り出した、それでも自然に聞こえるよう努力した声で、一言、言った。
「新しき女王様、万歳」
「「「万歳!万歳!」」」
周りからわあっと声が上がり、王座の間を満たした。
新女王、インドルチェは得意げな笑みで手を挙げた。
先ほどまで音が反響していた間は、一瞬で静まり返った。
女王は、無理に尊大にしたような(姉さんの声は高くて威厳がないような声だったから仕方ないのかもしれない)声で話し出した。
「皆の者、ありがとう。では、これから私を陰ながら支えてくれる、この国の大黒柱を指名しようと思う。その前に一つ。私は、これまでの慣習に捕らわれることはしない。今、この国を引っ張るのはこの私だ。なぜ今までの慣習に捕らわれなければならない?」
そこまで言うと、女王は俺に向かって薄く笑った。
俺を落とす気だな?
別に構わない。俺は勘当されようと死刑宣告が出ようと、生き延びて自由に生きる。
一呼吸置いた。
静まった間は、さらに緊張を帯びた。
「私は、補佐を二人置く。一人は、元宰相エクセレス。彼には政治を行ってもらおう。そしてもう一人。我が弟、ニーケ。彼には、この国の軍事のすべてを司ってもらう」
…これは、デジャヴか?
俺が学園に行く前、母さんに俺が補佐だと指名された時のようなざわつきが王座の間を覆った。
もちろん俺も、理解にたっぷり20秒かかった。
そして、喜びが沸き上がってきた。
先刻まで抱いていた、姉さんに対する嫌悪の気持ちが拭われていくのがわかった。
俺は、魔王討伐に行ける。
姉さんは、それを考慮して俺をこの位置に就けてくれたのだ。
俺は姉さんに笑みを返した。
姉さんはそれに気づいたのだろう。目を軽く細め、俺に目配せをした。




