39 一刻の猶予も許さない状態。だけど…
「アシーナ!ソルド!大丈夫か…?」
俺は、二人に駆け寄った。
二人は、地面に転がっていた。
目は閉じている。
脈を診る。弱いが、確かにあった。
傷は塞がっている。どうやら、アシーナが錬金術で塞いだようだ。
だが、もうすでにかなりの量を出血していた。
俺は二人の頬に触れた。
かなり冷えている。地面に転がっているのはマズイだろう。
「錬成っと」
その辺の土で簡単な小屋を作り、二人を担いで中に運び込む。
自分の制服から破れかけたマントを引き剥がし、錬成してカーペットと毛布にする。
「…薄いけど、無いよりマシだろうな」
アシーナとソルドをそこに寝かせ、俺は水を汲みに外へ出た。
もちろん、鍵を3重くらいにかけて、だが。
近くの川を軽く浄化してから水を汲んで帰ってくると、アシーナはもうすでに起きていた。
「置手紙くらいは置いておいてもよかったんじゃないの?結構心配したのよ」
ムスっとした顔で、彼女は俺に言った。
「あ、起きたのか…じゃなくて、すいませんでした。でも、お礼くらいは言ってくれてもいい気がするぞ」
汲んできた水を、錬成したガラスコップに入れて差し出す。
アシーナは、美味しそうに喉を鳴らして水を飲んだ。
「ソルドは大丈夫そうか?」
「ええ、私の見た感じだと、だけどね」
アシーナはどうやら医学の心得があるらしく、起きてくるとすぐにソルドを診てくれた。
助かった。俺はそういう知識がほぼ0だからな。
「そうか、それはよかった。が、ずっとここにいるわけにもいかないよな。帰る?」
「そうしたいわ。だけど、ソルドを担いで本部まで連れて行くのはなかなか大変だと思うけど」
アシーナはさらりと言う。
俺は息詰まった。
ド正論。
何しろ、体格は俺よりもいいのだ。アシーナが担げるわけもなく、俺がずっと連れていく羽目になる。
「…でもここにいるのも嫌だからな…俺が担ぐよ。護衛は頼んだ」
俺はしぶしぶ言う。
「わかったわ、任せておいて」
アシーナは言った。頼りになるなあ…
特に何かが起こるわけでもなく、俺たちは無事に本部へ着いた。
血まみれで、自分より体格のいい男を背負っておまけにケーリの屍の一部を持ってきた俺は、いい話題の的だっただろうな…
ソルドはすぐに医療棟に持って行った。
ケーリは、俺が無限収納にしまった。何かに使えるかもだしね。
それだけ済ませ、俺たちは本部長室へ向かった。
「え、ええと…ま、まずは討伐お疲れさまでした…」
上ずった声で本部長が言った。
「今回の損害は…ええ、ソルドさんの負傷…戦線復帰可能…それからぁ、ハオランさんが行方不明…であってますか…?」
「「はい、あってます」」
俺たちは氷点下を記録するレベルの声で答えた。
こんな時まで焦ってんじゃねえよ。もっとちゃんとしろよ。お前本部長だろ?
胸倉をひっつかんでこう言ってやりたいのを必死でおさえた。
「でででは、報告は以上ですね…帰っていいですよぉ…」
俺たちが怒っているのを肌で感じたのだろう、本部長のビビり方は尋常ではなかった。
怒りを抑えつつ、俺たちは部屋から出た。
寮に戻っても、どうしても本部長への怒りと、先生を探さなければならないという焦りが収まらなかった。
やり場のない感情を、俺は考えることでおさえようとした。
そもそも、先生はなんでいなくなったのか。
一番濃厚な線は、モンスターに連れ去られたことだ。
ただ、先生もものすごい強者だ。並みのモンスターにはやられない。
なら、恐らく15柱獣辺りに連れ去られたのだろう。
ケーリが暫く現れなかったのは、先生を連れ去ってから戻ってきたからかもしれない。
どこへ。
答えは一つだ。
魔王が住む場所。
魔王城だろう。
そこまで考えて、俺は血の気が引いた。
どのような目に合っているのかもさっぱりわからない。
一刻の猶予も許さない状態だ。
でも、15柱獣を倒してからじゃないと、乗り込むのは危険だ…
魔王と15柱獣をまとめて相手する羽目になる危険がある。
そうなったら、俺に勝機はほとんど0だ。
まだ一頭しか倒せていない。
なのに、ほかの敵は恐らくケーリよりさらに強い。
俺は窓の外を見た。
重苦しく雲が垂れ下がり、暗い雨が降り注いでいた。




