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速い。
間一髪のところで後ろへ避ける。
避けた、と思った次の瞬間、後ろに殺気を感じた。
上空へ飛び上がり、逃げる。
「逃がさないわよ?」
俺の頭上に雲がかかった。
雷が来る前の、ピリピリした感じが俺を襲った。
これはヤバい。
「錬成っ!」
空気を固め、それを蹴って軌道を修正。雲から逃れる。
俺が避けた次の瞬間、雲から俺がいた場所へ雷が落ちた。
「ちょろちょろと見苦しい。一思いに殺られればいいのに」
ケーリは憎々し気に吐き捨てた。
「殺されてたまるかよっ!」
ケーリの方へ空中を駆ける。
まずは目を潰すっ!
刀を錬成、ぶん投げて目に突き刺す。
叫び声は、上がらなかった。
代わりに、シュゥゥゥという音とともに、煙が出た。
何が起きた?
煙が収まった。
カラン、と刀が落ちる音がした。
唖然。
銀色の目が、元通りに再生していた。
ケーリは、得意げに笑みを浮かべた。
「お生憎様。私の体は再生するのよ。でも、折角あなたみたいな強い人間と相まみえたのだから、ちょっとは傷をつけてほしいわ。もう少し致命的な傷をつけてみなさい」
そう言うと、ケーリは上空へ飛んだ。
不意に、俺のすぐそばに小さい雷が落ちた。
そのあとから、次々と白金色の鋭く尖った石が降ってきた。
ほとんど感覚で避ける。
もはや目視不可能な速さに至っている。
俺は避けながら考えていた。
生き物である限り、死は必ず訪れる。
傷もつく。さっきの攻撃で目に刀が突き刺さったのがいい証拠だ。
どうすれば、再生させることなく傷をつけることができるだろうか。
不意に、かなり危険だがやってみる価値のある思い付きをした。
ドラゴンは、自分で自分の体に触れようとしない。
触れることで体に深い傷を負わせてしまうからだ。
ケーリもドラゴンならばそれは同じだろう。
ならば、ケーリの体の一部を剥がしとり、それで攻撃すれば…
俺は飛び上がった。
ケーリに猛スピードで近づくと、一閃。
爪を削り取った。
どうやら爪を削られるとは思っていなかったらしい、ちょっと唖然とした顔。
爪も再生する。煙がちょっと出て、爪がまた生えてきた。
その間、ケーリは動きがストップしていた。
これは…
「ふうん、ケーリ。お前が負う傷は浅いほど再生が速いんだね?」
俺は落下しながら聞いた。
「あら、バレちゃったならしょうがないわ。認めるわよ」
ケーリは俺を見下ろしながらそう言った。
どこか楽しそうな感じが混ざった声だった。
次の瞬間、ケーリは俺の目の前にいた。
「年貢の納め時ね。覚悟を決めなさい」
氷よりも冷たく、残酷な声でケーリは告げた。
俺は今、刀を構えてもいない。
受け身を取る姿勢でもない。
錬成して逃げられるわけもない。
死が確定しているシチュエーション。だが…
「来てくれるのを待ってたよ、ケーリ」
俺は不敵に笑い、右手で刀を、左手でケーリの爪を握りなおした。
ケーリが一瞬怯んだその瞬間、
首を一閃。
僅かに、細い煙が出てきた。ケーリの動きが止まった。
刹那、俺は切り口から大動脈を探し出し、爪で掻き切った。
断末魔の悲鳴。
今まで聞いた中で最も恐ろしく、そして最も美しいものだった。
ケーリの体と首は、地に落ちた。
俺は、すたっと着地した。
ケーリは、何かを呟いていた。
「…様、私は……果たせ…ぅか」
あまりに声が小さく、俺には聞き取ることができなかった。
ケーリの頬に一筋、涙が伝った。
美しい銀色の目が、生気を失った。
「安らかに眠れよ、ケーリ」
俺は、そっと彼女に声をかけ、そして立ち去った。
「…そうか、ケーリが死んだか。あいつを殺すような奴が生まれた、ということだな。はは、いつになったら俺様のところに来るかな?楽しみじゃないか」
ケーリの死の一部始終を、水晶玉で見た男が言った。
薄暗い空間で、邪悪な影がほくそ笑んだ。




