32 王都での一戦
「そういや。ニーケさ、もう帰るの?」
エリノア姉さんが口いっぱいに放り込んだものを飲み込んで、言った。
図書館で見た衝撃の事実に気を取られすぎてた俺は、その一言で我に返った。
そして気が付いた。俺、箸すら持ってねえじゃん!
「うーん、もう帰ってもいいんだけどさ、戦場行ってもあんま面白くないんだよね。大体全部瞬殺しちゃうし」
俺は箸を持った体勢で言った。
エリノア姉さんは目をちょっと見開いた。
「あら、ずいぶん強くなったんじゃん。それなら、ちょっと賞金稼ぎしてけば?最近裏町で格闘技が人気らしくてさ、勝つと金貰えるらしいの」
突然の突拍子もない提案。俺は驚いた。
「賞金稼ぎって…。てか、その人たち強い?下手すると殺しちゃうんだよね…いくら俺が刀使いだからって体術できないわけじゃないし」
「そうね、あんたなら手加減した方がいいレベルだろうけど、そこまで弱くないと思う」
エリノア姉さんは首を軽くかしげながら言った。
俺は最後の一口を食べ、流しに皿を持って行った。
「そっか、じゃあ行ってくるわ。リンは来るなよ?絡まれたら面倒だし」
「わかりました」
リンは素直に頷いた。
無限収納にタオルと最低限の金と替えの服を二枚入れ、家を出た。
俗称裏町は、その名の通りちょっとヤバめの裏社会に生きているような奴らがたむろっている町だ。
まあ、衛兵も定期的に見回ってるから、そこまで治安が悪いわけではないし、犯罪者とかは基本いないんだけど、絡まれるととめんどくさそうな奴とか、あからさまにガラの悪い奴とか、ちょっと男をひっかけようとする女とかがいるってことだ。
他にも、ちょっと汚い金が流れてたりするから、金があまりにも無い人が来たりもするらしい。
俺はその裏町に足を踏み入れた。
うん。賞金稼ぎ、どこでするのかがさっぱりわからないや。
そのへんをウロウロしていると、一人が声をかけてきた。
「おい、お前裏町に来るにしちゃあまともっぽいが、何探しだ?」
どうやら見た目に反して根は優しいようだ。
「うん、格闘技が流行ってるって聞いてさ。どこに行けばいい?」
俺は、そいつに聞いた。
そいつは、合点がいったとでも言わんばかりに頷いた。
「ああ、試合に出るのか。それなら、この通りをまっすぐ行った突き当りだ」
「そうか、ありがとう」
俺はお礼を言い、その通りに進んだ。
案内された場所に行くと、名前を名乗ることもなく、すんなり入ることができた。
助かった。名前を言って変な奴らに絡まれるのはごめんだったからな…
中に入ると、俺より数倍がたいの良いやつが大量にいて、正直暑苦しかった。
どうしたらリンクに上がって戦えるのかもわからず人混みの中を右往左往していると、
「おお、こんなところにガキが来てるぜ?坊主、遊ぼうじゃねえか」
後ろから肩に手を置かれた。
「俺はガキじゃないけど、まあいいよ。遊ぼうか」
俺は振り返って答え、二人でリンクに上がった。
「しっかし坊主、大丈夫か?ずいぶんガリガリだが。ま、殺されないようにせいぜいがんばれよ」
俺よりも数倍強そうなそいつは、俺をせせら笑った。
それにこたえるように、周りの奴らも野次を飛ばす。
「殺されないようにだと?こっちのセリフだ。お前が死ぬか死なないかは俺の力加減にかかっていることを覚えてもらいたい」
俺も負けずに言い返した。言い返した、というより事実だな。
輩の眉間に青筋が立った。
笛が鳴り響いた。
結果。
10勝0敗で俺の勝ち。
本当なら3戦で終わりなのだが、そいつの諦めが悪すぎたせいで、10戦もすることになった。
他にも俺と戦いたがる奴は大量にいたが、申し込んできた奴全員を一発で床に叩きつけて勝ち判定にした。
ってなわけで、賞金は大量にゲットした。
裏町から出ると、もう夜になっていた。
「さて、帰るか」
俺は軽く伸びをすると、家に向かって歩き出した。
「おはよー」
翌朝。俺が起きると、エリノア姉さんは弁当を作っていた。
「あら、おはよう。今日はもう本部戻るっしょ?」
扉を開けた音で気が付いたようだ。エリノア姉さんが手を止めて俺を見た。
「うん、そうする。リン、行くよ」
俺は今起きてきたリンに言った。
リンは、寝癖のついた髪を指でいじりながら、嬉しそうに笑った。
「はい!行きましょう!」
「朝ごはん代わりの弁当。食べなきゃだめ。いいね?」
エリノア姉さんは、俺に何度も念を押した。
何回聞かされたかな…
「わかってるよ。姉さん、ありがとう。じゃあ!」
俺は簡単にまとめた荷物を持ち、ドアを開けた。
「行ってきます!」




