30 城の蔵書
翌日、俺が起きたのは朝の5時半だった。
学園での生活リズムが未だに直らない。
直らなくてもいいのかもしれないけど、ここまで朝早く起きてもやることないんだよねぇ…
カーテンをシャッと開け、外を見る。
寝癖がつきっぱなしの髪形のまま外に出て、花に水をやっているおばさんがいた。
それから、だぼだぼのジャージを着てウォーキングをしているおじいさんがいた。
朝っぱらからこんな姿を見られているなんて、思ってもみないんだろうなぁ…
うん、しっかし超平和だ。ここに長居してると確実に平和ボケする。戦場に行けなくなる。
早いとこ図書館行ってこよ…
朝7時。ようやく姉さんとリンが起きた。
もう俺が起きてから1時間半も経っている。
あまりに暇だったから、外に出て25kmほど先の山まで一走りしてきた。
帰りは屋根伝いだ。やっぱりそっちのが速いね!
そのあとは人気のないところでちょっと刀振って、錬成の練習して、帰ってきた。
「いただきます!」
俺は飯にがっつく。
朝からなんにも食べずに運動したから腹が減ってしょうがない…
すごい勢いで俺が皿を空にすると、リンが唐突に話を振ってきた。
「最近は、王家からの接触はないんですか?ほら、3年前は毒を盛られたじゃないですか」
「ああ、最近は無い。理解の速度も上がったし目に入ったものは片っ端からやってるんだけど、俺の持ち物とか、例えばこの飯もだけど…毒は入ってなかった。3年間、あれ以外で接触はないね」
「なあに、ニーケ毒盛られたの?ま、学園に行かされた次期補佐ならしょうがないか」
姉さんがばっさり言う。話の理解が速いのは助かるけどさ、そこまで言わなくても…
「まあ、王都に帰ってきたし、一回城によるといいわ。最近、女王様の容態がちょっとよろしくないって聞くし」
エリノア姉さんは、フォークに野菜を刺して食べながら言った。
へえ、丈夫な母さんの体調が良くないなんて珍しい。
寄るつもりはなかったけど、それは一回寄っといたほうがいいかもな。
「そうするよ」
「おお、ニーケか。久しぶりだな。すまなかったな、学園に入れてしまって」
「いえ、別に気にしなくていいですよ。むしろ学園に入った方がよかったくらいで」
「そうか。やはりニーケはいろいろな人と関わりながらのほうが良かったか。結果オーライというやつだな」
城に入って謁見を申し出ると、あっという間に通された。
母さんは相変わらず、執務室の中で資料を淡々と片付けていた。
少し顔色が悪くなったかな?くらいであまり変化は見られない。
「そうですね。そういえばエクセレスは…」
不意に後ろに殺気を感じた。
誰かいる。
腰に差していた刀を高速で抜き、相手の喉元につける。
刀を抜こうとした姿勢で固まった、エクセレスが立っていた。
俺は刀を下ろす。
「やあ、エクセレス。いきなり後ろから殺気を浴びせるのはよくないと思うな」
余裕のある笑みで、俺はエクセレスに言った。
「…すみません。ニーケ様と気づかなくて。ずいぶん背も伸びて、何よりものすごい猛者の雰囲気がしていたせいで、女王様が襲われているのかと一瞬」
エクセレスは柄から手を放し、一礼した。
なるほど、それはしょうがない。3年もあれば気配も変わるものだ。
「うん、別にいいよ。でも、やっぱり俺強くなったと思う?」
「はい、物凄く。やはり、ニーケ様には刀がお似合いですね」
エクセレスはにこりともせずに言う。褒められてるんだよね?俺。
「ところで、ニーケは王都に何しに来たのだ?私たちに会いに来るのが目的ではなかろう」
母さんはいつもの調子で言う。肝が据わりすぎだ…
「ええ、図書館で魔王について調べようかと」
俺は素直に言った。
「ふむ、ならば論文などよりも童話で調べるといい。意外と真実に近いことが書かれていたりするぞ。あと、図書館ではなくて城で調べるといい。城の地下に、魔王に関する資料が大量にあるからな。これがカギだ。入り口は…お前の部屋にある」
母さんは相変わらず動じることなく、アドバイスをくれた。
てか、俺の部屋にそんなものすごい部屋の入口があったの?
「わかりました、何から何までありがとうございました」
俺は最敬礼の姿勢を取ると、部屋から出て行った。
鍵穴は、俺の部屋のタペストリの裏にあった。
すごい自然に置いてあるタペストリだから、今まで気が付かなかったよ…
鍵を差し、左側に回すと、人ひとりがかがんでぎりぎり入れるサイズの穴が開いた。
かがんで穴に入ると、すぐ先に絨毯敷きの超立派な階段があった。
なんでこんなとこに金かけてんだろう…もう少し雑でもよくないか?
何段あったのだろう。ずいぶん長い階段を下りると、少しずつ本棚が見えてきた。
いや、本棚…
壁に沿うようにある大量の本棚は、積み重なって積み重なって、6メートルくらいの高さになっていた。
その全てに本がぎっしり詰まっている。
「一体全体何冊あるんだよ…」
何日あれば読み切れるだろうか…
いや!そんなことを考えていたらきっと一生始まらない!
「よし、読むぞお!」
俺は気合を入れると、目に入った童話の本を開いた。




