29 ただいまー!
「ねえ、アシーナ。俺さあ、一回家帰ってみようかな、って思ってるんだけど…アシーナはどうする?」
「え?私は錬金術師になったせいで半分勘当されたような感じで放り出されたから、家はないわ。もしあなたが私を要りようならついていくけれど、そうではないならここでごろごろしてるわ。暇だったら戦場に行ってくるしね」
「そっか。じゃあ、ここの寮にいるんだね」
俺は簡単に荷物をまとめ、アシーナに軽く手を振ると、ぱっと本部から出て行った。
俺たちはウィヨンでの弔いが終わると、速攻で寮に帰ってきた。
それからもちょくちょく戦いの手伝いには行ってたんだけど、ウィヨンほどの戦場はなかった。
ま、そんなほいほいあっても困るけどね…
ってなわけで、俺はものすごく暇だった。
だから王都に帰って、王家直々の指示で作った国立図書館で、魔王について調べようと思ったのだ。
久しぶりに王都へ向かったから迷いかけたし、急いで走るから周りの人をよけるのが大変だったよ。
だから、途中から民家の屋根の上を走った。
人にぶつかる心配もないし、王都の目印である城がよく見えるから迷うこともなかった。楽だね!
そんなこんなで王都の家まで40分で着いた。
馬車に乗らなくて正解だった。馬車だと2時間もかかるからね。
「ただいまー!」
俺は扉を勢いよく開ける。
「あら、お帰り。ずいぶん長く家空けてたね」
俺が家をでた頃からほとんど変わらない見た目で、変わらぬ口調で、エリノア姉さんが俺に言った。
俺はでっかいソファに腰を下ろした。
改めて見るとこの家と言い調度品と言い結構いいやつだよね…
「うん、ちょっと戦いに出てて。リンは?」
「今買い物。そのうち帰ってくるでしょ。帰ってくるまで待ってれば?」
「そっか。しばらく帰ってなかったし、ゆっくりするよ」
ガチャッ
扉があいた音がした。
リンだ。
「ただいまもどりまし…ってニーケ様!?」
リンは俺の姿を見て、手に持っていた荷物をガタンと落とした。
中に入っていたものがゴトゴト音をたてたが、大丈夫か?
リンはそんなことを気に掛ける様子もなく、つかつかと近づいてきた。
「ああ、リン。久しぶりだね。3か月ぶり?」
俺はのんびりと言う。
「ずいぶん私への対応が軽いようですが、いきなり置いて行かれた私の気持ちを考えたうえでの反応ならば、ニーケ様は成長なさってないようですね」
どうやらリンは置いて行かれたことを根に持っているらしい。
声が氷点下を記録しそうなくらい冷たいし、表情も険しい。
「ごめん、でもさ、魔王討伐にリンを連れて行くわけにもいかなくて…」
俺は慌てて弁解しようとした。が…
「なんですか?私が能無しだとでも?戦いには行けなくても看病くらいはできますよ?」
リンは棘のある言い方で俺を刺してくる。
ううん。機嫌直すのにどのくらいかかるか…
「ごめん…次出てくときはリンも来るか?」
俺はしおれた演技をして言った。ちゃんとリンに来るかどうかも聞く。
「ええ、行かせていただきますよ」
ちょっとつんとした態度でリンは言った。
拗ねた態度を持続させたいようだ。
でも俺は聞き逃さなかったぞ。声に喜色が混ざっている。
「わかった。じゃあ、次俺が出るときはリンも連れてくよ」
俺はさらっと言うと、その場から脱出した。
姉さんのにやにや笑いが絶好調で、このまま相手にしてると俺が気まずい…
部屋に戻る。
ベッドが置いてあった。俺はこの広いベッドを独り占めできるようだ。素晴らしすぎる…
机も椅子も箪笥もカーペットも俺が出てきた当時の様子をとどめていた。
どうやら姉さんたちがよくよく手入れしてくれたようだ。
「おーい、ニーケが来てるって聞いたんだけど、お前いるか?」
不意に、外から声をかけられた。
今まで聞き覚えのない低い声。でも、わずかに面影をとどめている…
「ガイア!久しぶりじゃないか!俺はいるよ!」
俺はドアをガチャっと開けた。
だいぶ背が伸び、小太りだった体形が引き締まったガイアが立っていた。
出されたお茶をばかすか飲みながら、ガイアはぺちゃくちゃ話す。
こいつ、こんなしゃべるキャラだっけ?
軽く相槌をうちながら話を聞いていると、
「いやー、しっかしニーケ。お前ずいぶん背も伸びて。なによりお前、すごいイケメンじゃないか!第1王子第2王子に勝るとも劣らない、っていうかもはや超えてんじゃないの?」
突然の爆弾発言。俺はちまちま飲んでいたお茶を噴き出した。
そして、思いっきり咽る。
「いや…ゲッホ…あの、マジで…ガハッ…何言ってんの…ゲホッ」
「え?そんな驚くこと?なんで今までお前が女がらみのことでトラブらずに生きてこれたのか不思議だよ」
「俺が?…ゲホ…女子にモテるってこと…?」
息も絶え絶えに俺は返す。
「そうだよ。お前、普通の街とかうろつくときは気をつけろよ?簡単に変な女が寄ってくる。ここは殺伐とした戦場じゃないんだからな?平和そのものなんだよ」
「ご忠告どうも…」
「そうだよ!お前、その顔あったら金持ち引っかけて一生養ってもらえるレベルだ」
ガイアは机をばんばん叩きながら言う。ああ、お茶がこぼれる…
「ま、せっかく王都に帰ってきたんだからゆっくりしろよ~」
そういって、ガイアは立ち去った。
俺は窓の外を見る。
血も死も感じないような、ただただ美しく明るい夕焼けが印象的だった。




