28 血塗られたガーネット
「お二人とも無事でしたか!!」
防壁へ帰ると松葉杖の人が松葉杖をつけるだけの速さでつき、急いで近づいてきた。
「よかったです!お二人がいなかったら文字通り全滅でした!防壁のこちら側にいた僕たちけが人も殺されて。ここに魔王討伐軍の人員全体の3分の1が割かれてるので、けが人だけでも生き残れてよかった!」
俺とアシーナは罪悪感に苛まれた。
俺たちがダンジョンにいる間に、ドラゴンとキマイラが戦場の仲間たちを殲滅した。
俺たちがダンジョンにいなければ、彼らは生き残っていたかもしれないのに…
松葉杖の人に、どうしてもそのことを伝えなければいけない。
俺の罪の意識が口を開かせてくれない。が…
「俺たちだけは。でも…」
勇気を振り絞って、俺は言った。
松葉杖の人は、悲しそうな笑顔を浮かべた。
「いえ。知ってますよ。あなたたちが悪いわけではないです。モンスターの巣窟であろう穴があったらもちろん潜りに行くでしょうし、何よりあなたたちが巣窟に潜らず、ドラゴンが出てこなければここの戦いは終わりませんでしたから。『俺たちだけは』なんて言わないでください」
そう言われても、俺たちの罪悪感は拭い去れなかった。
「でも。俺たちがもっと早くキマイラを倒して出てこれたら…」
「そうです。私たちがもっと強くなっていたら。能力を最大限に使えたら」
松葉杖の人は驚いた顔をして、空いている方の手をぶんぶん振った。
顔に風が当たる。
「これ以上早く?無理ですよ!僕は防壁の上で見張りをしていたんですけど、あなたたち、洞穴に入って何分で出てきたか知ってますか?」
何分か。知るはずがないが、おそらく…
「15分くらいじゃないですか?」
また顔に風が当たるくらいのスピードで手が振られた。
「7分ですよ!それに、あなたたちが出てくるタイミングと同時にドラゴンが後ろから出現したんです!」
…7分。
ドラゴンは、出てくるのにそれほどかかるものだろうか。
それに、なぜはじめから出てこないのだろう。
あの巨体が出てくるだけで人間の戦意はあっという間に消失。殲滅し放題だというのに。
なぜ。
不意に、無謀にもドラゴンに立ち向かい、そして業火に焼かれた人たちの断末魔の悲鳴が耳に蘇り、俺はたまらず耳を塞いだ。
「ドラゴンが出てくる前に私たちが出てこれたら…」
アシーナは俯き、後悔がにじんだ声を絞り出すように話し出した。
片手があげられ、話が遮られた。
俺は、松葉杖の人の顔を真正面から見た。
悲しそうな表情を精一杯抑え込んだ笑顔で俺たちを見ていた。
目だけは暗く、沈痛な光を宿していた。
「終わったことをとやかく言ってもしょうがないですし。ね。せめて墓標だけでも立てましょう」
さーやりましょやりましょ、と言いながら後ろを向き、墓標にするための大きい石を探しに行った彼の頬に、一筋、光の筋が宿った。
その背中は、もうこの話題を持ち出すな。と言っていた。
俺たちは、ただ彼についていくしかなかった。
「じゃ、頼みました。名前も刻んでくださいね。ここに書いてあるので。僕、石を加工できる能力は持ってなくて…」
松葉杖の人は無理に笑いながら俺たちに言った。
俺とアシーナで石を運び、戦場へもっていく。
戦場の土は、血でどす黒く染まったままだった。
人間の死体もモンスターの死体も関係なく、死屍累々に積み重なっていた。
わずかに生えていた草も、焼かれ、踏みつぶされ、跡形もなかった。
石に、アシーナと二人で手をかざす。
目をつぶり、俺は祈った。
どうか。ここで亡くなった人たちが、次の生で幸せに寿命を全うできますように。
あなたたちを助けられなかった俺を許さなくていい。
俺は、あなたたちの勇敢さを忘れない。
どうか…
「「錬成」」
何も命の音がしない荒野に、俺たちの声は吸い込まれていった。
弱弱しく生ぬるい風が吹き、消えた。
石は、ここで戦って死んだ人たちの名前が刻まれ、神のしるしである六芒星の形になった。
中心には血のような赤色のガーネットが埋め込まれた。
石言葉は「勝利」
勝ったことが、亡くなった人たちに伝わりますように。
俺は、たくさんの人間を理不尽に殺した魔王を許さない。
俺だって、たくさんの魔物を殺している。
だけど、最初に俺たち人間の生を脅かしたのは魔王だ。
この連鎖を断ち切り、魔物も人間も、お互い聡明な主君に率いられて平和に暮らせるようにしたい。
それならば、まずは…
魔王を殺すことがスタートだ。




