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神々の選んだ錬金術師  作者: すいな
27/95

27 洞窟の親玉は…

洞窟を飛び出し、光に目を必死にならす。

光がフェードアウトするように引いていく。

戦場は…

「ああ、最悪の事態ね…」

アシーナが、隣でぼそっと呟いたのが聞こえた。

絶望的な響きを帯びた声だった。


文字通り地獄絵図。

俺とアシーナが殲滅した雑魚たちの血と人間たちの血が、地面をどす黒く染め上げる。

そこかしこに敵味方関係なく死体が散らばり、早くも腐りかけた匂いを放っていた。

いや、それだけじゃない。

キマイラが鋼鉄の爪をふるい、腕を掻き切る。

牙を剥き出しにし、人間の喉笛に噛みつく。

炎が舞い、人間を焼き殺す。肉の焦げた匂い。

断末魔の悲鳴がどこからでも聞こえてくるような惨状だった。


突然、地鳴りを感じた。

規則的な揺れ。大きい音。

俺もアシーナも立ち尽くした。

別に人が大量に死んでいることに対してではない。

断末魔の悲鳴におびえているわけでもない。

大量のキマイラに恐れをなしているわけでもない。


本当に恐れるべきは…


地を揺らし、炎をそこかしこに吐き、翼の一仰ぎで人間を殺す。

「洞窟の親玉は、ドラゴン…」


絶望的な戦力差。

自嘲の笑いが出てくる。否、それしかでてこない。

握力が弱まり、刀が手から滑り落ちる。

視界が黒く、暗くなっていく気がする。

キマイラとまともに戦えるのは俺とアシーナだけ。

そして、ドラゴン。

最悪かつ絶望的な事態。

…こんな状況で、俺ら二人だけで何ができるんだ?


もう少しでドラゴンは防壁までたどり着き、防壁の奥にいるけが人を皆殺しにするだろう。

松葉杖の男性の笑顔が浮かぶ。

子供のころ見た、俺の仲間の死に顔が浮かぶ。

あまりに幼く、その事実を受け入れられなかったあの頃の感情が、まざまざと甦る。


…あんな思いは、もう二度としたくない。誰にも、させたくない。いや。させてはいけない。


サクッ

ぱさぱさに乾いた地面に一歩、踏み出す。

右手に無理矢理力を入れ、刀をギリギリと握りしめる。


そうだ。戦えるのは俺らだけ。

力を振り絞れ。頭を回転させろ。

絶望しようと何しようと、俺たちしかいないんだ。


そう。俺は錬金術師、アイテル。

「神に匹敵する」能力を持てる職業、錬金術師。

仲間を守れるのは、俺たちだけだ。

「俺たちだけなんだよ!!」


つい今まで俺が立っていた場所から、わずかに砂ぼこりが立った。


キマイラに匹敵するスピードで俺は戦場へ向かった。

風が耳元で唸る。

彼らが俺に気づく隙など与えない。

一閃。

同時に広域錬成。

ゴブリンたちに向けた針より、長く、鋭く、太い針を突き通す。

アシーナが遠くでキマイラの首を着実に落としているのが見えた。

ヤギとライオンの断末魔の悲鳴が、あちらこちらで上がる。


まだだ。

まだ敵はいる。

そうだ、どんどんかかってこい。

皆殺しにしてやる。

血祭りにあげてやる。

俺たちが味わった気持ちを、お前らも味わえ!


どこから湧いてきたのか、洞窟から雑魚どもが出てくる。

鬱陶しい。邪魔だ。面倒だ。

「失せろ」

洞窟を塞ぐ。

崩れ落ちた岩にゴブリンが潰され、辺りに血が飛び散った。


キマイラの死体から爪をはがしとる。

錬成し、自分の刀をより強靭でしなやかなものへ変える。

後はドラゴン。お前だけだ。

地面から小石が散り、俺の姿は残像を引いた。


ドラゴンに近づきざま、余っていたキマイラの爪をドラゴンの目に向けて矢のように放つ。

そのすきに、ドラゴンの爪を引きはがす。

地面に突き立て、

「錬成」

地面から、ドラゴンの爪と同じくらいの強度の針が生えた。

足へ突き刺さる。


ドラゴンの、恐ろしい悲鳴が聞こえた。

キマイラの爪が目に刺さると同時に足に攻撃が来たようだ。

ようやく、ドラゴンが俺の存在に気付く。


片目にキマイラの爪が突き刺さり、血をだらだらと流している。

残ったもう片方の黄色い目は、俺をまっすぐに見据えていた。

細いはずの瞳孔は極度の興奮状態で丸く開き、赤い光を帯びた。


不意に、俺のすぐそばへ炎が降ってきた。

すぐさま横っ飛びに逃げる。

片目を潰しておいて助かった。狙いが正確に定まらなかったようだ。


1年のころとは比べ物にはならないほどの跳躍力で、ドラゴンの背中へ飛び乗る。

炎が当たらないよう、頭の上へ急ぐ。

ドラゴンは俺が乗ったことに気が付いていないようだ。

首をあちらこちらに回して、俺の影を探している。

油断したそのすきに、俺はもう片方の目に刀を突き立てた。


ふたたび恐ろしい悲鳴。

猛烈な痛みで、首をぶんぶん振る。

振り落とされないようにするので精一杯。

あまり揺れていない、体の方へ移動。

背中に飛び乗るや否や、俺は翼を斬り落とした。

本当は首を斬りたいのだが、俺の刀じゃ不可能だ。


翼の切り口から血が吹きだす。

かかりそうになり、急いで退避。

そのあいだにも、ドラゴンは暴れている。

このままじゃ振り落とされる!


突然、がくんとドラゴンの体が傾いた。

下をふっと見る。

アシーナが、ドラゴンの足を片方消していた。

斬り落としているのではなく、消していたのだ。

これは…?


「ニーケ!分解を使うの!首を錬金術で分解して殺しなさい!」

アシーナが下から叫んだ。

そうか、分解!


左手をドラゴンの首に当て、俺は叫んだ。

「分解!」

左手の錬成陣が、再び光った。

俺は、目をつぶった。


ドラゴンの首からホワイトノイズのような音がした。

不意に手を当てていた場所から感触が消え、代わりに戦場の殺伐とした空気が感じられた。

足場が突然崩れ落ち、すさまじい音を立てて横倒しになった。

俺は即座に飛び降り、ドラゴンの死体から高速で離れた。


暫く経って、我に返って死体を見る。

きれいさっぱり首から先と右足が消え、そこから血が流れ落ちている。

右足の断面は、俺の身長ほどの太さがあった。


「わあ、こんなの倒したのね私たち。よく死ななかったわ…」

「同感。さあ、防壁へ戻ろうか」

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