26 最悪の事態
斬っ!
残像が見えるほどのスピードで俺たちは刀を振り、すぐに後ろへ飛び引いた。
手ごたえがあった。どうやら急所には当たらなかったようだが…
キマイラがわずかにスピードを緩めた。
しめたっ!
キマイラの腹を狙い、下から刀を振り上げる。
ザシュッ!
血しぶきが舞い、俺たちにかかる。
「ガアアアア!」
キマイラが苦しそうな声を上げた。
どうやら腹に一撃を喰らうのは辛いらしい。そりゃそうか。
もともとギラギラ貪欲に光っていた目が光を増し、俺を射殺すような視線を向ける。
逆上したようだ。
先ほどよりも唸り声が恐ろしく、強くなる。
ただ、傷をつけた。わずかに動きは鈍くなっている。
キマイラから放たれる殺気がわずかに強くなった。
俺はそれを感じ、刀を構えなおした。
ふたたび一陣の風を感じた。
少し待ったが、キマイラが襲ってくる気配は一向になかった。
おかしいなぁ…
…ん?風?
パッと後ろを見る。
アシーナがキマイラの攻撃をかわし、尾を切り落としていた。
キマイラは俺を避け、俺よりは弱そうなアシーナを襲ったようだが…
よかった。まだ太刀打ちできてる。
床をパッと蹴り、アシーナたちのところへ向かう。
そのまま持ってくれ!
俺はキマイラの背後を取った。
そして…
一閃!
キマイラのライオンの首を斬り落とした。
ライオンの首が、断末魔の悲鳴を上げた。
これで噛み切られる心配はなくなった!あとはヤギの首だけd…
突如、ヤギの首が途轍もない高音で叫んだ。
アシーナも俺も一瞬ひるんだ。
ほんの一瞬、腕に痛みが走った。
腕に熱い液体がほとばしるのを感じた。
反射的に見る。
キマイラの爪が俺の腕を掻き切っていた。
左腕。刀を持つ方の腕でなくてよかった。
が、大きい血管のそばだ。このまま無理して戦うと大きい血管まで影響が及んで出血多量で死ぬ。
どうしたものか…
ふたたび、ヤギの高音の叫びが俺を襲った。
今度も怯んだが、その前に間合いから遠く離れる。
あまりに高速で動いたため、傷に異常なほどの衝撃が走った。
赤い液体が、俺の腕の上をさらにほとばしる。
このままでは…
俺は瞬時に覚悟を決めた。
最適解でありながら、失敗したら恐らく最も危険な方法を、取る!
「ええい!やけくそだ!」
錬成!
傷は深いが、周辺の肉がえぐり取られていたわけではないから、それを錬成して傷をふさぐ!
錬成陣が傷の上に現れた。
眩く光る。
キマイラも俺も、おそらくアシーナも眩しくて目を開けていられなかった。
光が収まり、俺が目を開けると傷がきれいに塞がっていた。
俺はキマイラを睨みつける。
急に襲った明かりのせいで、キマイラは未だに動けていなかった。
これなら!
「錬成!」
キマイラの爪を脆くし、壊す。
爪で体を切り裂かれる心配はなくなった!
キマイラに一気に迫る。
ヤギの首が、こちらを向いた。
キマイラの目と俺の目が、一瞬合った。
赤い目は、ギラギラと光っていた。
斬ッ!
断末魔の悲鳴を上げ、ヤギの首が舞った。
首が地面に落ちると同時に、体が崩れ落ちた。
わずかに足が震え、そして動かなくなった。
「…倒したな」
「そうみたいね」
アシーナが俺のそばに立っていた。
「キマイラ。十分に強敵だけど、このダンジョンはキマイラだけがいるのかしら。親玉は奥にいると思うのだけど…」
「ああ、でも、ここで行き止まりじゃないか。ほかに道はなかった…」
突然、俺の頭の中に最悪の事態が浮かんだ。
「なあ、アシーナ。もしもだ。もしも、このダンジョンのボスが、キマイラを囮として置き、それに太刀打ちできるだけの強敵をキマイラと戦わせている間に、自分自身は人間を殲滅するために戦場に出ていたとしたら…?もしその親玉が、このキマイラのような怪物をたくさん引き連れていったとしたら…?」
アシーナも話が理解できたようだ。
さあっと血の気が引く。
もし、この仮定が事実なら…戦場は…
俺たちは無言で、ものすごいスピードで飛び出した。




