25 キマイラ
飛び出しざま、迫ってきたモンスターの首を吹っ飛ばす。
血しぶきが飛ぶ。
流石は戦場の中でも最前線。
襲ってきたのはクイックゴブリンだ。
動きが速く、知能が高い。
普通のゴブリンの3倍ほどは強いのだが、姿かたちが普通のゴブリンそっくりなため、見分けがつかずになめてかかって殺される奴が一定数いる。
「こんなとこに新人突っ込むなよ…」
まあ、今本部長に愚痴ったところで何も変わらないよね。
それに、俺にとってはクイックゴブリンなんて障害物にもならない。
スピードを落とすことなく俺はゴブリン種の集団のど真ん中を突っ切る。
刀の間合いに入ったやつはもれなく真っ二つ。
間合いに入らなくても、広域錬成で針山のようになった地面に串刺しにされる奴が大量。
まさに壮観だ。モンスター側と、グロいのがダメな人にしてみりゃ地獄絵図。
一切気にすることなく俺は突き進む。
ゴブリン種のボスであろう、人間の子供より7倍くらいでかい(縦横共に)フルゴブリンもいた。
図体がでかいくせに動きが速い。武器も、殺したやつから略奪したのだろう。なかなかに品質よさげな大剣だ。
それがなんだ。
あっという間に間合いに入り、
一閃。
剣をわずかでも持ち上げる時間さえ与えずに首を飛ばす。
ゴブリン種の後ろに控えていた大量のオークも吹っ飛ばす。
ポイズンスコーピオンもいたが、広域錬成で串刺しにする。
俺たちを一気に叩き潰すためにいたであろう数体の馬鹿でかいトロールも、一閃。
それらをまとめる司令官的な役割をしていたゴーレムも、ものの20秒で決着をつけた。
決着をつけても拠点に戻らず、俺は文字通り矢のように突き進んだ。
俺の取りこぼしを殺しているであろう仲間たちの歓声を背に受けながら、俺は巣窟を探していた。
これだけのモンスターが出てきたんだ。巣窟を壊さないとウィヨンの戦況は再び悪化する。
モンスターの巣窟は、だいたいが洞穴だ。
上位種のモンスターが首謀となると、ごくまれにではあるが人工物に生息する。
人工物は作りが丈夫だったり複雑だったりするため、一定以上の知能があってなおかつ強いモンスターだと人工物に住みたがる。
この場合だと洞穴だろう。
それらしい穴は…
辺りを見渡す。
あった。約500m先。
スピードをさらに上げる。
洞穴の入り口のそばにたどり着いた。
気配を消し、そろりと近づく。
入り口は狭く、人がやっと3人通れるくらいの広さだ。
人間がまとめてなだれ込まないようにだろう。
そうなると状況は違ってくる。このモンスターを率いているのは知能が高いやつだろう。油断できない。
入り口を守っている数匹のオークをまとめて斬る。
俺は堂々と正面から入った。
中は意外と広く、明るかった。ただ、太陽のようなまんべんなく辺りを照らす明るさではない。
何かと思って上を見ると、松明がかかっている。
炎が岩壁を舐めているのが見えた。
なるほど、これは人工物だ。ダンジョンと化しているのだろう。
「へえ、ダンジョンじゃない。ニーケ、あなた一人で見つけたのね。お手柄じゃないの」
急に後ろから声が聞こえた。
俺は声の主がいると思われる場所に向けて刀を振り、後退。
手ごたえがなかった。
「急に斬りつけるなんてひどいわ。私じゃなかったら死んでたかも」
声の主は再びいう。
今度は俺にも余裕ができた。この声は…
「アシーナ!」
外からの光による逆光に慣れたころ、アシーナの姿が見えた。
「正解」
刀を左手に持ち、スッとした立ち姿で立っていた。返り血だろうか。服が赤く染まっている。
「どうしてここが…」
「あなたが寮にいないから軽ーく本部長を脅してあなたの居場所を聞いたのよ」
アシーナはさらりと怖いことを言った。
「脅したって…アシーナ。何したの…」
「内緒。それより、先へ行きましょう。強敵と戦える雰囲気しかないわ」
アシーナは奥を指さした。
「その勘は間違ってないだろうね。行こうか」
俺たちは奥へと一歩踏み出した。
「しっかしまあ、なんにも出てこないわ…」
「同感。めっちゃ暇じゃん」
そう。俺たちは奥へ進んで20分間、クレイジーバッドにしか出会っていないのだ。
クレイジーバッドは、動くものを見つけるや否やなぜか突っ込んでくる狂った蝙蝠のような生物だ。
ぶつかるとそれなりに痛いから刀を軽く振って追い払っている。
「なんでこんなに静か…」
カチッ
突然、洞窟の静けさには似ても似つかぬ、スイッチのような音が響いた。
人工物の音。
あまりにも自然な洞穴で、ここがダンジョンだということすら忘れていた俺たちには異常な音だった。
「ん?」
「カチッて言ったわ…私たちのどちらかが何かを…」
あとは言葉にならなかったようだ。
岩肌に亀裂が入った。
俺たちは横っ飛びに逃げる。
刀を構え、何が出てきても反応できるようにした。
小石が零れ落ち、次の瞬間。
俺たちめがけて一陣の風が吹いた。
右足を軸に後ろへ避ける。
反対側の壁に激突する寸前で止まってこちらを向き、その何かは、唸り声を上げた。
今までにこんな生物を見たことがある人はほとんどいないだろう。
二つの頭を持ち、片方には獰猛なライオンの首、もう一方には目を赤く血走らせたヤギの首がついている。
足が6本あり、鋼鉄に匹敵するであろう鋭い爪が5本ずつついていた。
蛇のようにうねる、太く、棘の生えた尾。
実力を見るまでもない。強敵だ。
恐怖と歓喜が混ざった、複雑な感情で鳥肌が立った。
隣を見る。
アシーナは愕然とした顔で、しかし目を輝かせながら、言った。
「キマイラ…。半伝説と化している、超レアなモンスター…まさかこんなところでお目にかかれるなんて…」
どうやらこれはキマイラというらしい。
刀を軽く下げ、俺はキマイラに話しかけた。
「キマイラ。壁に閉じ込められていたところ悪いが、今からお前には死んでもらう」
俺の言葉が理解できたのだろうか。
キマイラは咆哮を放ち、爛爛と輝く4つの目を俺たちに向けてきた。
「さあ、来いよ」
キマイラが、風のようなスピードで飛び込んできた。
俺たちは、刀を振るった。




