汝の隣人を
[難問]
三人娘達言う処の[誘導ミサイル]自立ボルトは、別に接近したからと言って紐付けが外れる様に為っている分けではない。イェードゥ空軍の魔素吸収に拠る魔法の霧散と、そうでなければ外れた後、距離が離れすぎるため、切れてしまうのが原因である。
それを何とかしろとの木目シャオの注文は難問中の難問と言えた。
「速度早すぎとか?」A、
しかし、例えば水軍の揚力胴は急降下速度で音速を越えている。寧ろ、遅いとすら言える。
「紐を長くする」C、
その改良は絶対と言えた。それでも足りない。
「戦闘機並の機動」B。
「それだ!」AC。
実際にはかなり難しい。だがこの世界には魔法がある。
[公]
「小さなダンジョンはどうかね」
公は帰ってきたオルファに尋ねた。気に掛けていれば情も湧く、公にとってオルファは娘の一人の様になっていた。
「はい、とても楽しゅうございます」
オルファは公に訊かれるままに応える。オルファにとっても、公は滅多に合うことの出来なかった実父の首長よりも身近な存在になっていた。
「アリス様は、とても活発なお方で」
走るのが早い。
そして歌うのが好きだ。
ニコニコと聴いている公に、側近が耳打ちした。表情が険しくなる公。オルファは空気を感じ、その場を辞した。
[五人の中尉]
「こりゃぁ、イェードゥ軍の装備だな」ヒゲジィ中尉が言う。
「火薬式の弩か、威力はありそうだが、突破を赦せば寧ろ脆い」マッチョ中尉。
「数は一個中隊と言った処か、舐められたものだ」ガイコツ。
「作戦はどうする」ナヨ。
「前面にゴーレム兵、一個中隊、右側面に一個中隊を伏せて置く」ヒゲジィ。
「ポイントに来なかったら?」クロ。
「来させるさ」ヒゲジィ。
[軍籍離脱]
シャオは軍籍を脱する事に為った。憲兵部の造反は、一部の跳ね上がりであり共和国の意思とは無関係であるのは自明ではあるが、それの切っ掛けとなった、執政官の出した出頭命令が、長や神官長の癇に障った。
巫女は元首に当たる、それを呼び着けるとは何事か。軍籍に有れば合法と言うなら、脱するのみ。
エーアスが失意から病床にあり、一時は同盟破棄から開戦へと言う程の剣呑な流れに為ったが、空軍司令を務めるカヌーベの、空軍は参戦しないとの宣言で、収まりをみた。
「森人と戦争したら三日で空軍は滅びます、とても容認できない」
皮肉な事にカヌーベに言う事を聞かせる事の出来るエーアスは病床に有ったのだ。
森人との同盟は、空軍との繋がりだけで辛うじて命脈を保っていた。
[変更]
設計の変更で、車椅子の形状はガラリと変わった。
大きな二個の車輪は前方に直径が半分程になった、
やや大きめの車輪、
後方に更に小さくした車輪、
合計四個、
足は前方側面から前面に移して二本、
側面は車輪の間に左右二本、
後面に二本の計六本。
足が増えた為、ぎごちなくなった動きを何とかしようと、カーシャは小さなダンジョンを訪れた。
「それなら此れを使う」
木目シャオが渡したのは、六本足人形用の機動制御の意外に小さな魔石だった。
「細かい事は、教えない。解析しながら使うと勉強になる」
謝意を伝えダンジョンを辞した。
「あっ」
検索ラインの事を訊くのを忘れた。
[相互不可侵]
残念ながら、ヒゲジィの知略は発揮できなかった。誘導しようにも太守軍は夜営の準備を始めてしまったからである。ならば、夜襲と決まった。
既に警告は出してある。どの様に攻めるのも此方の自由だ。
勝負は極短時間で決まった。転移門を至近に開き直し、二本足人形が突貫した。四本足人形の水撃銃の出番はなかった。敵軍は二十名程が死傷し、残りは投降した。
「何処に潜んでいたんだ?」
敵の指揮官は十分な策敵をしていた筈なのに奇襲を受けてしまった事を不思議がった。
翌朝にはキーナン軍一個中隊が到着し、その連絡の早さは捕虜達を驚かせた。武装解除された捕虜達は領境で解放された。
捕虜を養う程小さなダンジョンに余裕がないからだが、積極的な敵対をする意図がないとの意思表示とも取れ、太守は意見を変えた。
「元々、ダンジョンはイェードゥに有った物だ。ならば、かのダンジョンが得た領地は、イェードゥが取り戻したも同然、寧ろ支援すべきであった」
詫びとして、芋の苗、穀物の種が贈られ相互不可侵の約が結ばれた。
[磨かれる緊縛の才能]
丸い胴体では揚力が足りない。
翼を付け大きくとれば今度は速度が犠牲になる。
新型誘導ミサイルの胴は、
初めから揚力胴に決まっていた。
弾頭の近くに二枚の水平フィン、尾部には水平二枚と下方に向けた垂直一枚。高機動を意図した形状である。
「上昇反転とかさせる?」C。
「無理じゃね?」B。
「パドル付ければどーよ」A。
「エンジン付いてないし」B。
自立ボルトは風魔法の[加速]で射出される。
「なら付ける」C。
飛空艇用の発動機では流石にコストが掛かりすぎる。
誘導ミサイル=自立ボルト用の舵付き発動機を開発する事になった。
彼女等の自らの首を締める才能に、ますます、磨きが掛かった様だ。
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[妖精の歌]
この日もアリスは歌っていた。
赤い魔法青い魔法白い魔法、
今日は魔法の歌の様だ。
水色の光の粒子が舞い、
炎の色の粒子が瞬く。
あぁ、これは妖精さんだ、
妖精さんが遊びに来てくれたんだ。