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二人の姫君  作者: 南雲司
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才能は芽吹く

[調印]

 小さなダンジョンが神樹の森の庇護を受け、幾つかの同盟ダンジョンを持つ事はこの頃には知られていた。そうであるなら、このダンジョンと同盟乃至(ないし)は友好を結ぶ事は、パックスイバーラクを実現しつつある最強国に対し、ある程度の影響力を持つ事に為る。

 最初期待していた、湯石と魔石の産出が貧弱である事は残念ではあったが、大きなメリットがある様に、公には思えた。


 調印は外壁のすぐ外、[入り口]の前にしつらえた東屋で、公、アリスがドロシーを伴い同席し、行われた。友好条約(初めはお友達から)である。


「結構広い」

 管理領域(国土)として認められたのは荒れ地全域で、鉱床の広がりと、ほぼ重なる。恐らく放出期の生態系に与える影響が思っていたより深刻な物であるのだと推察出来た。木目シャオは、地図を眺め眉を潜めた。ドワーフの手助けが要るかも知れない。


[太守]

 それ以外に、キーナンはウーシャラークに割譲された内の三分の一を小さなダンジョンに委譲した。

 実際にウーシャラーク反乱軍(公的な名称)を打ち破ったのは小さなダンジョンであるからだ、と内外に説明している。


 別に目論見があって、ダンジョン領域を離れた所での小さなダンジョンの防衛力を知ることだ。委譲した外域には領土の拡張を狙うイェードゥ軍閥の生き残りが封領を構えている。


 太守カンウーは、諸国が切り取ったイェードゥ領を返還する様に求めている軍閥の長だ。王国討伐に兵を送らなかった唯一の軍閥でもある。封領は大きく、国力もなまじな小国より大きい。

 そのカンウーには、キーナンが小さなダンジョンに委譲した小領は、手頃な獲物に視えた。


[木目シャオ先生]

「この術式さっぱり分かんないんですけどー」A。

 三娘は、魔法学をきちんと学んだ事は無い。設計科を出ているのだからそれなりに詳しい筈なのだが、実は素人である。

 公式の丸暗記と、[門前の小僧と習わぬ経のパラドックス]が何とか発動して、単位が足りた。


「そう言う時は、気合い」C。

「なんか、ヤバめ」B。

「あっ」AC。

 式が破断した。

 ペチペチペチーンと木目シャオの平手が三娘の頭頂に閃いた。


「分からない時は、訊く!」

 結局、シャオは基礎から魔法学を教える事になった。

「休み時間が削られ捲り」A。

「歪なダンジョンが恋しいかも」B。

「…」しょうに合ってるらしく、真剣にシャオの講義を聴いているC。


[ドロシー先生]

 アリスとオルファの課業はドロシーが受け持っていた。

「風船を割らない様にゆっくりと暖めてみましょう」


 少しだけ膨らんだゴムの風船が更に膨らみ、

 遂にテーブルを離れ浮き上がった。

 だが、付いている小さな駕籠は未だ

 テーブルの上から離れていない。


「もう少し暖めて下さい」

 簡単な術式を教え、使わせる。

 理屈よりも肌で覚える魔法は術師寄りであり学習効果が高い。

 ドロシーは良い先生である様だ。


[管理領域]

 新領地を哨戒していたドローンが領境を越えて来る集団を見付けた。プヨは作業を中断して、ラインをドローンに繋ぐ。

『此処は、小さなダンジョンの管理領域です。直ちに退去してください』

 さもなければ実力行使するよ、との何処かからかのアナウンスに、戸惑うように立ち止まった集団は、警戒しながらも移動を再開した。

 プヨは溜め息を吐いて全ダンジョンにアナウンスする。


「新領に侵略目的と思われる集団が侵入しました。防衛隊は速やかに排除して下さい。転移門は十分後に開きます」

 開くと言っても、ドローンの至近、上空である。隠蔽の掛かった転移門から偵察してから行動を決めよ、と言う事だ。


[車椅子]

 アマーリが構想し、トムオスが式を書き、カーシャが躯体を作った。階段を登れる車椅子である。水車二個と魔石をを何個か必要とするがそれは大学から融通して貰った。入試一二三位の揃い踏みが功を奏した形である。


「キャー」

 数の少ない女子学生達の悲鳴が響いた。

 真ん中にある大きな車輪の前後に左右二本ずつ、

 四本の足が車椅子には付いている。

 関節が二個ずつあり、巧みに動かして階段を登る仕組みだ。


 中程迄登った処で、その足の一本が段を踏み外した。

 座っていたのはアマーリで転げ落ちる椅子から、

 手を伸ばし手摺にしがみつく事で難を逃れたが、

 段の角にしたたか向こう脛を打ち付けたようで

 額に脂汗を浮かべている。


「失敗は成功の母さ」

 落ち込むカーシャをトムオスが慰める。

 設計、製造はカーシャがやったのだ。

「後ろ足が滑った感じだ。グリップを強化すればいけるぜ」

 手摺にしがみ付きながら、アマーリが言った。


 それでは足りない。

 カーシャは思う。

 アマーリだから逃げ出せた。

 だが、グル師に乗って貰わなければならないのだ。


「いや、設計が駄目なんだ、書き直すよ」

 グル師の怪我は思ったより酷く、両足が動かない。全快しても動かせる見込みもない。この椅子は絶対に必要だ。

 

   ・

   ・

   ・

[緊縛の才能]

「てかさ、標的に紐付けしてから誘導ミサイル射てば良くね?」A。

 新型天馬の武装に、三娘が注目したようだ。

「普通にやってない?」B。

「接近するとはずれる」C。

「あー、繋げっぱなしにするん」B。

「当たるまで永久に追っかけグルービー」A。

「それ、採用」木目シャオ。

「し、しまったー」ABC。


 三娘の才能は、彼女等を縛り付ける方向で発揮される様だ。



次回、またイバーラクがちょこっと出てきます。

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