二人の姫君
[騎士団]
「お久し振りです、ハイマオ閣下」
「団長と聴いた、昇進を慶する」
感謝を述べたプルートは、いつぞやとは違い、直ぐに本題に入った。
「魔石が逼迫しています。融通して頂きたい」
「イバーラクとは準戦争状態にある」
「では、騎士団と個別に同盟を結んで頂きたい」
眉根を寄せるシャオ。随分と手前勝手な…。
「森にどんな利益がある」
「騎士団の忠誠は、イーバラク王家に在ります。エーアス様がお引きになられた今、我々の王はサスケラ様ただ御一人、同盟を結ぶ事でユンカー諸共にサスケラ様の股肱と為りましょう」
シャオは合点する。騎士団は拠る辺が欲しいのだ。
このまま共和国に付いていても使い潰されて終わりだ。
エーアスと違って、今の首脳陣には、ユンカーの身分を保証する気など更々ないだろう。
更にはユンカーの主力が集中する、南部イバーラクは連合諸国の蹂躙を受ける事に為る。
「同盟は認めない」
「それでは、我々は…」
「我が同盟たるサスケラに下れ、さすれば、南部一帯を庇護下に置こう」
[森に拠る平和]
シャオの行動は早かった。イバーラク全土のみならず連合諸国に対してもユンカーと騎士団が神樹の森の庇護下にあると布告した。
諸国は地図を確認するのに大わらわとなった。南部一帯はほぼユンカーが占めているから分かりやすいが、何しろ、ユンカーはイバーラク全域に散らばっているのだ。
こうして、連合諸国のイバーラク侵攻計画は頓挫した。しかし、賠償も無しでは、世情が収まらない。森人軍の圧力で和平交渉の場を設ける事に為った。イバーラク共和国政府は頷くしかなかった。民衆に人気の高いシャオにサルー、ユンカーの圧倒的な支持を持つサスケラが森には付いている。
[スライムの進化]
「プロシージャ!」
すっかり大きくなって神樹の苗を覆っているスライムに
アリスは抱きついた。
『お帰りなさいませ、アリス様』
「いま喋ったのはプロシージャなの?」
何時もの様に直接心にではなく、
耳を通して聴こえてきた声にアリスは戸惑う。
『はい、幾分か進化した様にございます』
「すごーい、すごいね」
『付きましては、名を賜りたく』
プロシージャの名前は、少し縮めて[プロシー]となった。
「小さな木に抱きついて、何をしていたの?」
『結節点の声を聴いていたのです』
「何て言っていた?」
『アリス様のお歌がとても好きだと』
[二人の姫君]
公の計らいで、二人の姫君は一週間毎にダンジョンと公館を行き来する事に為った。キーナンに於いて、戦傷兵達を慰問し治癒の蝶を飛ばし二人で歌った。アリスの不思議な歌の力はオルファにも伝染したのか、兵達は目を潤ませて聞き惚れた。医師や治癒師達は兵士達の治りが早いと口を揃えていった。
ダンジョンでは魔法の練習をするのだが、なぜか治癒魔法以外は差程の上達の気配はなかった。木目シャオは、盛んに首を傾げた。彼女にも図りかねる事柄の様だ。
「観測者の存在が結果を変えている様にも見える」
木目シャオはドロシーに語った。
「良く分かりませんが、同じ魔法なのに同じ結果が出ないと言う事でしょうか」
「少し違う、同じ結果が観測されるとは限らない、と言う事」
「それは、もう魔法ではないのでは」
「限りなく自然に近い魔法、或いはアカシックレコードそのもの」
[嫁ABC]
「ちょっと待った」
再眷族化するに当たり、虎治から待ったが掛かった。
「ヨンピーとか興味ない?眷族化すると、一人一部屋に成っちゃうからその前に一度」
「わー、出たよ、エロマスター」A
「あれだね、脳が股間にぶら下がってるって言う」B
「どんとこい」C
「良いんだ」AB
しかし、ここでコアが発言する。
「今日は、サスケラ様がお出でに為る日ですよ、御覚悟は御座いますか」
サスケラと、三娘達を合わせると4Pではなく、5Pとなる。命の保証はない。
この話は立ち消えとなった。
[無異常西部戦線]
カンウーは小さなダンジョンから人形兵達の指揮権を借り受けると、自領の奪還に乗り出した。イバーラク軍の士気は低く、大軍にも関わらずじりじりと下がり、遂には国境へと押し戻された。幾分か切り取られるのは覚悟していただけに、望外の事ではあったが、戦費の借財の大きい事を考えると敵領を切り取りたくもなる。しかし、ここは我慢だ。ツァロータ兵にとっては母国だ、手痛い反撃を受ける可能性もある。
太守はツァロータに文を書いた。
強大すぎる国と結ぶから不自由なことに為る。
我が国は貴国を攻め落とす事は出来ないが、
強国の軍を追い払う事は出来る。
我が国と結ぶ事を考えよ。
文を出して直ぐに、神樹の森から打診があった。南部戦線の始末を付ける交渉がある、西部戦線も合同でどうか。
カンウーは乗ることにした。
[慶する]を[よみする]と読む事も可能です。意味は同じですから。但し、[慶する]だと身分の上の人が下の人を祝福してる感じが強すぎて、今回の場合は使えません。
騎士団団長が自ら使者に立って来たのに、なにマウント取りしてんだよって感じになります。