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二人の姫君  作者: 南雲司
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雲の如く

[蒼い穂]

 最後の自立ボルトを打ち放した四つ足人形は、主力へ合流するでもなく、寧ろ敵軍の後方へと抜けていった。兵站を掻き回す構えである。

「何体残っている」先任のヒゲジイが訊く。

「四つ足が十八体、二本足が二十四体」ナヨが簡潔に答える。


 それぞれ五十体づつ、二個小隊で始めた遅滞作戦だが消耗が激しい、既に一個小隊の定数をすら割っている。クロは負傷で下がり、もう一つの遅滞部隊でもガイコツが下がったと聴いた。

「フトッチョ合流させた方が良くはないか」ナヨが提案する。彼方あちらの消耗も似たような物だろう。

 指揮官が一人だけではフトッチョに何かあったら、其れ丈で崩壊もする。

 ヒゲジイは遠話缶を取った。


 刈り入れはまだ遠い麦畑の中、穂は未だ青い。


[激突]

 イバーラク軍は、農地への被害を出来るだけ出さぬ様に進軍していた。新しい国土になるのだ秋の終わりの収税を考えると、戦勝に絶対の自信が有るのであるから当然ではある。

 しかし、そうも言ってられない状況と言うのもある。


 斥候が展開して陣を敷く敵軍を見つけた。直ちに先陣を停止、周りの青い麦を刈らせる。

 此処に陣を敷くのだ。


「今は無理だぜ、目の前を戦車が行進中だ」

 フトッチョの報告で主力打撃部隊が到着した事を知る。合流するには延々と続く敵軍の隊列を突破しなければならない。

「分かった。突破出来る状況になったら連絡してくれ、援護の陽動を始める」

「了解」


「前方で戦闘」

 隊列が止まったと思ったら、敵のゴーレム部隊の手掻ちょっかいだったらしい。

「構うな、陣への合流を急げ、と伝令しろ」

 将軍は、そう言ってまた眼を閉じる。

 気を静めているのだ、激突は近い。


[語り部]

 太守の名から取られた命名、カンウー平原の戦いは多くの書籍や叙事詩うたものがたり、演劇、講談等の舞台を生んだ。


 圧倒的なイバーラク軍に立ち向かい善戦した

 カンウーの勇名は轟いた。

 またキーナンの飛び跳ねる騎乗ゴーレムが

 イバーラク軍を掻き回す様は、特に面白おかしく語られた。

 そして、迫り来る強力な戦車を次々に擱座させる

 小さなダンジョンの人形達の戦いも、

 語り部達の口調を熱くする物であった。


「何で、あたしら、前線に居るわけ?」A

「何時でも、転移門で逃げられるから問題ない」B

「二時、敵戦車小隊」C

「フォイエル!」ABC


 三人の指揮する四つ足部隊は百両近い戦車を駆逐した。しかし、三人娘の名は、講談には出て来ない。

 余りにも森人式の隠蔽迷彩が優秀すぎて、参加している事に敵味方含めて、誰も気付かなかったのだろうか。


「報われなさすぎ」B


[溜め息]

「此処が退き処か、撤退するぞ!」

 公爵のキーナン軍は兵を纏めはじめた。三個中隊、三十六騎のロックバグも二十数騎に迄討ち減らされている。これ以上此の部隊が消耗すれば、進退が不自由になる。

 殿の負担を減らす為、ロックバグは突撃する。

「無理はするな、敵が怯めばその隙に退くぞ」


 追撃の出鼻を挫くのが[車椅子]の仕事になった。


「やはり無理であったか」

 戦車を退かせられるのも、後一二回が限度とダンジョンからの援軍、ゴーレムを指揮する少女から連絡があった。

 そのゴーレム達が居なければ、とうの昔に敗走していただろう。


「次回の敵戦車の撤退に合わせ、此方も退くぞ、遅れるな!」

 カンウーは、溜め息を一つ吐いた後、


 そう号令した。


[雲の如く]

 キーナン公国軍は、森人式の迷彩で巧みに身を隠したロックバグの制肘力に敵の追撃を任せ、一路自領を目指した。


 カンウー太守軍は居城へは戻らず、小さなダンジョンの新領へと走る。追ってくれば森人との全面戦争に為る。

 領境で留まるのなら、主力が移動する頃合いを計って、追い払う。

 負ける積もりは毛頭もうとうない。


 三人娘は、転移門を三つ開くと、人形達に速やかな撤退を命じた。

 その時、何処からか飛来した銃弾が、

 三娘Cの右の肘から先を吹き飛ばした。

「アタシばっかり」三娘Cはそう言って倒れた。

 が地面に着く前に側にいた四足に抱え上げられた。

 四つ足は命令も待たず転移門に飛び込んだ。


「足の次は手?」A

「Cも付いてないよね」B

「寧ろ、何か憑いてる?」A

「怖いのはNG」AはBに頭グリグリされた。


 二人はCの事を心配してない分けではない。普段通りのバカを言い合う事で、パニックに為り掛けた心を抑えているのだ。周りの四方へ銃弾をばら蒔いている人形達に、撤退行動に戻る様にいうと、二人は門を潜った。


 イバーラク軍は領境で一旦停止した。

 此処から先は空軍が恐れている神樹の森の

 同盟ダンジョンの領に為る。

 そこから、遥かダンジョンの方を見遣れば、

 霞が掛かっている様にも見える。

 それだけの丸太気球が集結していると言う事なのだが、

 縁の薄かった陸軍部隊ではその様な事は分からない。

 暫しの休息を挟んで進軍が再開された。

 境を越えると、心なしか霞が広がった様に見えた。

 段々濃くなっている様でもある。

 その霞は、いつしかイバーラク軍を雲の如く覆っていた。


ちょっかいの漢字ないんですね。

猫がちょこちょこ手を出すのが語源と言うことで

[手掻ちょっか]の字を宛てました。

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