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二人の姫君  作者: 南雲司
14/20

乱れ

アリスのお泊まりが入る筈だっんですが、文字数でやむ無く割愛

[不可]

 木目シャオは、グル師から託されたレポートに大きく[不可]と朱記した。口許は何かを思い出したかのように緩んでいる。


 あぁ、そうだ、私の最初のレポートもこうだった。

 先生(グル導師)に、徹底的に朱筆を入れられて

 論理の大切さを学んだのだ。

 ならば私も容赦はしない。


 細かな指摘に参考にすべき論文名等を書き込んだ朱筆は、レポートの文字数を越えていた。最後の余白に、いつもグル師がしていた様に、寸評を加える。

『如何なる知見であろうと、論理が破綻していては、術式は編めない』


 そう、シャオが師から学んだ事は此れに尽きる。


[前線]

 森人式の隠蔽=迷彩を施しているとは言っても、匍匐の出来ないロックバグでは、例えば、何もない平原ではそれなりに目立ってしまう。後背の景色を全面に映し出す空中隠蔽とはちがうのだ。なのでロックバグ中隊は起伏の多い灌木の繁る荒れ地に展開していた。


 イバーラクの斥候兵が近付いて来てもピクリとも動かない。

 余程の至近でもなければ気付かれない自信があるのだ。

 先陣を遣り過ごし、目当ての物が来る迄じっと待つ。


[小さなダンジョン]

「来てはいけないのですか!」

 オルファが叫ぶように問う。

 イバーラクの侵攻で何時空爆があるか分からないのだ。

 預かりの姫を置いておくには危険だ。

 ドロシーはそう説明した。


「では、アリスも疎開させて下さい」

 オルファは引かない。

 私が危険ならアリスも危険だろう、

 そう主張する。


「いえ、アリスお嬢様はここの主です。結節点である神樹の苗を守らねば為りません」

「あっ、光った!」

 泣きそうな顔で話を聞いていたアリスが突然言った。

 見ると神樹の苗が淡く光っている。


「プヨ!プヨ!苗が魔素に反応しています、何か状況に変化ありますか」

 ドロシーが珍しく興奮気味の口調である。

『今、確認してみますが、地下パイプが魔素を捕らえたのかも知れません』


 神樹の苗は安定した結節点だ。魔素の供給が十分ならアリスが着いている必要は無いかも知れない。


[熟読]

 グル師は、シャオから還ってきたレポートを見て溜め息を吐いた。あの娘の手加減のなさは相変わらずだ。何時になったら手心と言う物を覚えるのだろうか。

 とまれ、このレポートには形になるか、学生が諦めるまでこの朱筆を元に付き合う事になる。師は熟読を始めた。

 最後の僅かに残った余白に師自身の寸評を加える必要があるからでもある。


[ロックバグの戦い]

「馬を狙え」

 短い指示が攻撃の合図だった。

 水車発動機は貴重だ。

 前衛部隊か高級士官以上の乗る物にしか使われない。


 輜重隊では馬車を使っていた。護衛も騎馬である。

 突如、現れた化け物は輜重の列を蹂躙して去った。

 焼けた荷駄は意外に少なく、その代わり馬匹の殆どが屠られた。

 後続の部隊がこの荷を背負って行軍する事に為るだろう。

 部隊の兵も過半が死傷していた。


[クォタ]

 件のレポートを提出した学生、クォタ・デマイオスは戻って来たレポートを見て愕然とした。自信が有ったとは言えないが、それでも精一杯書き上げた物だった。


 それが、一面の赤、赤、赤。

 しかも、他の者達の貰った小綺麗な朱印での[不可]ではなく、

 手書きの堂々たる【不可】

 目の前が暗くなった。


「此れは、ハイマオ師に添削を依頼した物だ。彼女の得意分野でも在るのでな」


 その言葉に辛うじて救われた。

 それはつまり、見棄てられた分けではない事を意味した。


[蜜月の終わり]

 陸軍は空軍に抗議した。敵影はないと言ったではないか。空軍は反駁する。巧みに擬装されれば空からの偵察では欺かれる、それを見抜くのは斥候の仕事だ。

「森に精鋭を引き抜かれたと言う噂は本当であったか」

 そう、捨て台詞を残して陸軍の交渉官は去った。最近の空軍の偵察行は、やけに高度が高い事に陸軍は気付いていた。技量が落ちているのではないか、そう囁かれ、その理由として分裂が噂されていた。

 空軍頼むに足りず、交渉官は司令部にそう報告した。


 空軍と陸軍の蜜月にも終わりが来た様である。


[送金]

 カーシャ達の許へ、森から送金があった。

「マジかよ!」

 アマーリがそう叫んで絶句する程の金額で、三人で山分けにしても、向こう三年の間、学費込みで生活費が賄えると思われた。


「それは使わずに取って置きなさい」

 グル師がアドバイスを与える。まだ先の話ではあるが、研究に重心が移ればいくら金が有っても足りないのだ。

「でも、老師、出して貰った分お返し出来るぜ」

 カーシャは男達二人と違って、学費を導師に出して貰っている。

「それだと、今迄の分の賃金を払わねばならんな、面倒だから避けたいのだが?」


 カーシャは師の気遣いに感謝した。


[解決]

 幾つかの事が解決した。

 先ず繊維構造体で造られた、直径六メートルの地下垂直パイプの中をゆっくりと上昇していく魔素の流れが確認された。此れでアリスが暫くダンジョンを離れても問題は無くなった。


 イバーラクが西方域で戦端を開いたことで神樹の森から小さなダンジョンへ援軍が送られて来た。あくまでも領域内の防御に留まるが、ここを攻めれば、神樹の森の参戦を招く事になる。

 イバーラク空軍の士気は大いに下がった。しかし、陸軍は頓着していない。


 空軍の衆議は乱れた。

 陸軍が走れば、空軍府が落ちる。

 事情を説明し、空軍は撤退した。


「腰抜け共が」

 制空権のないまま、陸軍は進んだ。


イバーラクの進軍は遅々として進みません。何故か電撃作戦もしないみたい。楽勝なんだから魔石使い捲る電撃戦は辞めようって事なんでしょうかね。

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