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二人の姫君  作者: 南雲司
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二娘危機一髪

来るべき戦乱に備え、キーナンは戦力の拡充を試みる。

てか、ほんとは軍務卿の衝動買い。

[決裂未満]

「捕虜はいない」

 シャオは言い放った。

 和平の打診があり、実質的な戦端は開かれてない事もあり、森の外れに吾妻屋を設え、そこを会談場とした。

 その席でイバーラク空軍は捕虜の返還を求めてきた。


「全員殺したと言うのか!」

「投降した者は神樹の守護の任を受け入れた。故に捕虜ではない」

「ではその者達を還して欲しい」

「拒否する。彼等には十年掛けて神樹に恩を返す義務がある」

「では空軍でその恩を肩代わりしよう」

「それは、イバーラク空軍が神樹の森の支配下に下ると言う事か」

「なっ、ふ、ふざけるな」

「ふざけてなどいない、恩を返すとは、義理の眷族に成る事、その肩代わりであるなら、貴官等あなたたちが、代わりに眷族に成り守護を勤める事に為る」

「話にならん!」

「では、決裂と言うことで良いか」


 立ち上がった将官は、シャオにも、また付いて来た森人達の誰にも見覚えの無い男だった。恐らく陸軍か水軍からの出向だろう。

 それ程迄に生え抜きの人材が逼迫していると言う事は、空軍内部で大幅な[粛正]が行われた可能性がある事を意味していた。


 そんな処へは誰一人として還す分けにはいかない。


「将軍お待ちください」

 副官の中尉が慌てて引き留め耳打ちする。聴こえないと思っている様だが、生憎検索ラインを引いてある。

『此処で決裂しては、空軍は作戦に参加できなくなります、どうか御寛恕ごかんじょを』

 将軍は席に着いた。


[風竜]

「これ、まじ嵌まる」B

 三人娘はミサイルの操舵性能の試験をしていた。リモートコントロールで操作をするのだが、地上からではあっという間に見えなくなってしまう。なので歪なダンジョンから複座型の木馬を借りて来て空中での試験である。ロケットモーターの特性があり、残念ながら上昇反転は出来ないが、かなりな急旋回や宙返りまでこなした。


「三時上方竜種、突っ込んでくる」C

 報告と同時に背面急降下に入る三娘C。

 風竜だ。

 城の眷族の筈なのに見境がない。


「ミサイルどこ?」B。

 三娘Bは見失っている。

「六時上昇中の筈」C。

 なぜ分かる。

「あった」B


先に急降下を始めたのは風竜だ。

 急降下速度が鈍いとは言ってもその分の加速がある。

 見る見る近付いてくる。

 複座木馬の急降下性能は恐らく風竜より低い。


「出来るだけ真っ直ぐ飛ばして」B

「ぶつける?」C

「でないと死ぬし」B


 風竜が食いつこうとした瞬間、

 ミサイルが横面よこつらにぶつかった。


 プヨとドロシーは風竜のリンクが途切れた事に気が付いた。直ぐに警報を鳴らし検索ラインを飛ばす。風竜からの敵襲の報告はない。気付かれずに接近し風竜を殺した?

 強敵かも知れない。


「あれ、死んじゃってるよね」B

 恐らく脳震盪を起こして、時速数百キロで地面と激突したのだ。それで無事な生物など居はしない。もし居るとしたら核爆弾でもなければ倒せないだろう。

「正当防衛、ドンマイ」C

「ぴえん」B

 貴重な航空戦力を一つ潰した。怒られるかも知れない。


[オルファ]

「ただいま帰りました、公爵様」

「お帰り、オルファ。ダンジョンはどうだったかね」

「はい楽しゅう御座いました。治癒魔法を覚えましたの」

「ほう、それは素晴らしい、あれは才がなければ覚えられぬと聴く、オルファは才があるのだな」

「勿体のうございます、未だ未熟ゆえ大した事は出来ませんが、此のような事を覚えました」

「ほほう、これは?」

「治癒の蝶でございます、此れが触れますと幾許かの癒しがございます」

「ほう、此方へ来させられるか」

「はい」

「殿下!万が一がありますぞ」

「良い、オルファの手に掛かるなら本望と言う物」

「お戯れを」

「おお、此れは良い物だ、肩の凝りが解れた気がする」


[不可侵]

 結局、将軍とは不可侵だけを約するに留まった。今の空軍ではそれがせいぜいでとてもそれ以上踏み込もうと言う気にはなれない。信ずるに足りないのだ。約したばかりの不可侵にした処でいつ破るか知れた物ではない。

 それはそれで良いとシャオは思う。そうなれば空軍府の領をそっくり切り取ってやろう。屑どもに汚されたとは言え、思い出深き地なのだ。


[軍務卿]

 軍務卿は、果たして百両も要ったかと今頃に為って思い悩んでいる。署名を済ませて仕舞ったのだから、仮令たとい財務卿辺りが難癖を付けて来ようと、開き直るしかないのだ。経験が足りないのか小心なのか、まあ、評価は未だ早い。


[報告]

 木目シャオは小首を傾げている。このドロシーは、時々本物の人間にしか見えない。今もそうだ。


 ドロシーは、右手の三本の指を揃えて、

 米噛み(こめかみ)を押さえている。

 小指をピンと伸ばしていて、

 彼女がやると何故か優雅に見える動作の一つだ。

 なので傍らでアリスも真似をしている。


「詰まり、突然襲って来たのですね」

「で、あります。Cが気付くのに後一秒遅れていたら、死んでいたのは自分達あたしらであります」B

「訂正、零点五(0.5)秒……ぁ、で、であります」C


 二人の少女技官の言ってる事に嘘はないだろう。

 風竜の側頭部に試作自立ボルトの衝突痕は在ったが

 とても致死的な物とは思えなかった。


 一時的な脳震盪からの墜落死は確実だ。

 二人に弾頭に詰めた貴重な計測用の魔石を犠牲にしてまで、

 風竜を殺す理由はない。

 つまり、追い詰められた末の紛れ当たりだろう。


 溜め息をいて、ドロシーはサスケラにリンクを繋いだ。


[米噛み(こめかみ)]の表記は、果たして実例が在るかどうかも分からないニッチな物ですが、語源的に間違ってはいません。後、漢字で書くとすれば、やたら画数の多い単漢字しかなく、まあ、使えない。

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