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二人の姫君  作者: 南雲司
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騎乗ゴーレム

カーシャの努力が実ります。斜め上に。

[駐留軍消失]

 新樹の森に駐留しているイバーラク空軍は、殆どが親森人派である。拡張派の割合は、空軍全体と比べると小さいとは言え、かなりの勢力ではある。

 しかし、森人との同盟なくして、拡張政策を取るのは危険であるとの認識を持っていた。身近に接していれば、森人の軍事力が如何に強大であるのか自ずと知れる。


 最初に非拡張派の一部が、神樹に下りたいと表明した。彼等から見て無益な戦に駆り出されるのは真っ平だと言うのだ。空軍の持つ専守防衛の府是が身に染み付いた連中でもある。


 次に、駐留軍()べて口をあんぐりと開けた事に、拡張派の高級士官達が下った。撤収の準備を進める中、軍府から神樹攻略の命が下ったからである。

 森人は敵対する者には容赦がない。生きて帰れる者は誰もいないだろう。此れは非拡張派の多い駐留軍を切り捨てる積もりだと、受け止められた。

 戦端を開きさえしなければ、何時しかの融和の折り、帰る事も出来る。彼等はそれに賭けた。なにしろ、このまま撤収すれば敵前逃亡になるのだ。


 なし崩し的に駐留軍全体が森人軍に取り込まれる事になった。


[車椅子?]

「なんだこれは」

 口に出したのはアマーリであるが、トムオスも同じ思いであるらしく、かくんと顎を落としている。

「ダンジョンで改造手伝って貰った」

 カーシャは得意満面である。


 グル師の館面前で転移門を潜ったと言う車椅子は、どこをどう見れば車椅子と言えるのか分からない物に変貌していた。


 座席全体が丸みを帯びた材質不明の何かに覆われている。

 背凭れを延長したらしき頂点には

 ゴーレムの頭と思わしき物が載っている。

 その頭には用途不明の何個かの魔石が嵌め込んである。

 六本足は四本足に変わっていて、

 その代わり背凭れの位置らしい処に左右二本の腕が

 折り畳んで取り付けてある。


「これ凄いんだぜ、銃弾やボルトにも傷一つ着かないんだ」

 外板をコツコツ指の関節で叩きながら言うカーシャ。

 カパリと覆いを持ち上げて大きく上方に開く。

 椅子には何本かのベルトで体を固定する様になっている。

 特筆すべきはバイザー付きの兜が背凭れに付いていて

 乗るときに邪魔にならぬ様、跳ね上げてある。


「ベルトを締めて兜被れば、仮令たとい十メートルの高さから落下しても無事って寸法さ」

 さらに自慢気に言う。


「ちょとなら空も飛べるんだぜ」

「やり過ぎ」アマーリ&トムオス。


[リュウコ]

「クヮッ」

 リュウコは一声鳴いて飛び上がった。

 重量は掛かっているのに一羽ばたきが軽い、直ぐに雲上に出る。

 それもその筈で、背にはサルーを乗せている。

 マリーもツノウサもいる。

 翼も軽くなると言うもの、三匹と一人の遊覧飛行は久し振りだ。


「リュウコももう一人前だな」

 サルーが誉めてくれる。嬉しい。

「クワーーッ」

 自然と気合いが入る。

 即座に転移門が開いた。

「まて、何処へ行くつもりだ?」

 制止の声はあえて無視する。


 リュウコは門を潜った。


[軍府]

 マリーから相談を受けた時、リュウコには直ぐに原因が分かった。おうちに帰りたい病だ。お友だちのサルーの群にいじめっこが居て、サルーが帰れなく為った事は、アーカイブを覗いてすぐにわかった。だったらリュウコが意見してやろう。

 なのでサルーを連れて来た。


「空軍府じゃないか」なに考えてるんだ?リュウコ。

「ま、来ちまった物はしかたないか、取り敢えず周回してくれ」


 既に見付かった様で、緊急発進する鷲型が四機。

 このまま去れば、またややこしい事になりそうだし、

 上がってくる鷲型に挨拶くらいしよう。

 サルーは自分が死んだ事に為っている事を忘れていた。


 鷲型一個小隊はセオリー通り飛竜の上に占位する。飛竜は風竜と違って急降下速度が速い。劣位で仕掛ければ何機か食われる。

「こちら二番、あれは騎竜ポイです。誰か乗ってます」

「飛竜を乘騎に出来るなんて、死んだ元帥位のものだぞ、あ、こちら三番」

「元帥だ!背中にマリーもくっついている!」

「まじか、本当だ!手を振ってやがるぜ!」

「此方一番、全機、緊密編隊に移行。攻撃は中止だ、歓迎の挨拶をしてやろう」

「此方管制、指示に従え」

「糞食らえ、攻撃命令なんか出したら屋根にボルトぶっ込むぞ」


 鷲型四機は三連続宙返りをして帰投した。

 リュウコはとても気に入った様で、

 同じく三連宙返りにロールを加えて答礼とした。

 乗っていたサルーは生きた心地がしなかった。

「わうわうわうわう」

 マリーは大喜びで吠えまくった。

 ツノウサはと言えば目を回していた。


[混迷]

 飛竜が森に飛び去るのを確認した空軍軍令部は、進行中の作戦の中断を決定した。作戦と言うのは、進軍しつつある、陸軍と呼応して森を攻めると言う物だったが、シャオとサルー、空軍内に於いて絶大なカリスマを持つふたりが森に付けば、戦にならない。大多数が命令を聴かないだろう。

 なにより、軍令部自体がサルーとは戦う気になれないのだ。和平を申し入れ、友好は無理でも不可侵を結ぼう。最低限の拡張路線の条件だった。

 一方でサルーを担いで王政を復活させると言う動きも強まった。サルーの復活を知った陸軍が中心となり、イバーラクは益々混迷を深めていく。

後書きで書くのは誉められた事ではないのですが、空軍内部の拡張派の割合は七割を越えてます。

一方、親サルー派と言えば、圧倒的で九割を軽く突破しています。なので、仮にサルーが空軍に復帰すれば拡張路線は立ち消えになるかも知れません。現在の軍首脳にとって敵対はしたくないが、帰ってきて貰っても困る存在なのです。

 陸軍の思わくは、王に祭り上げ人心を一新し、あとは四軍の衆議を盾に好き勝手遣ろうと言う物です。


 思惑しわくおもわくは、本作品では明確に使い分けてます。辞書や文科省辺りは[おもわく]を[思惑]と表記するのを正しいとしてますが、どうにも腑に落ちない。

[おもわく]は元は[おもはく]で漢字で書くとすれば[思は処]となります。現代風の言い方だと、[思うところ]ですかね。つまり、[思惑おもわく]の[惑]の字はまるで関係の無い、ただの宛字なのです。[思惑しわく]と言う真っ当な言葉があるのに、意味の違う[思わく]におなじ漢字を使うのは、気に入らないと言う事です。

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