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7年間

作者: N(えぬ)

 ある青年の部屋にセールスマンが来た。

「新しく発売しました恋人型ロボットをオススメに来たのですが」

「ロボットか。ロボットじゃあ、なんか恋人としては考えちゃうナァ」

「でも、お客様、生身の人間では煩わしい面も感じてらっしゃるのではありませんか?そういうところは当社のロボットにはありません。純粋に恋を楽しんでいただける、優れた人工知能を搭載してあります」

「ふ~ん。そういうものなら、少し詳しく話を聞いてみようかな」青年はセールスマンを家に入れた。

 セールスマンの後ろには女性が一人付いてきていた。青年とセールスマンがソファに座ると、セールスマンの少し後ろに付いてきた女性は立った。

「こちらが当社の製品でございます。どうです、いかがですか。あ、見た目はお好みに変更できます。これはあくまでもデモですので」

「すごい精巧ですね。人間と全く見分けが付かないし表情も自然だナァ」

「そうでしょう。それで無ければ恋人とは呼べませんから。会話もスムーズに行えます。自己紹介をさせてみましょう」そうセールスマンが言うと女性型ロボットは青年に向かってニコリと微笑み軽く会釈をすると、

「はじめまして。誠実そうな方でうれしいわ。あなたに気に入ってもらえるといいんだけど」

 その声、話し方、しぐさ。どれをとっても人間としか思えなくて青年は驚いた顔をした。

「どうですか?とても自然でしょう。間違いなく購入してよかったと思っていただけると思いますよ。それと当社のロボットは、独自の進歩型人工知能を搭載していますので、恋人としてつき合っていくうちに少しずつ変化して、違った面を見せるようになります」

「へ~。そんなに人間性豊かなロボットなのか」

「はい。時とともに人は成長していくものです。ですからいつまでも同じ反応ではすぐに飽きてしまうのです。まあ年を取るというと抵抗をお感じになると思いますが、それはすなわち経験を積み成長するということでもあります。お客様と一緒にその成長を遂げてゆくのも充実した恋人関係の重要な部分と当社は考えておりまして。もちろんお客様のお好みに合わせてそのプログラムは調整できます」

「ううん。なんだかすごく興味がわいてきたよ。ただの、高性能な人形というわけじゃないんだ」

「お客様は今、20代後半くらいかとお見受けいたしますが」

「うん、29才だよ。なったばかり」

「そうですか。であれば当社のオススメする基本プログラムが最適かと思います」

「でも、値段はけっこするんだろう?」

「メンテナンス料を含めまして、年間これくらいになります。故障は基本的な使い方をしていただいた上での場合、すべて当社負担で修理いたしますので」セールスマンは値段表を青年に見せた。

「年にこれくらいなら、払えないことは無いけど。でも、まず少し試してみたいナァ」

「はい。最初の一ヶ月間、無料でお貸しいたします。その間ならいつ契約解除しても料金は一切いただきませんので」

「そうか、それなら試してみようか」

「はい、ありがとうございます」

 青年とセールスマンはそれからロボットの細かい設定やオプションなどについて話し合った。


 青年は恋人ロボットとつき合い始めた。彼女の持つ基本データは「おまかせ」にした。一応好みは伝えたが、全部自分のいうとおりの設定にしてしまうと、ただの人形になってしまうというセールスマンのアドバイスだったからだ。「つき合っていくうちに、相手のいろいろな面を見てお互いに理解し合ってこその恋人関係だと当社は考えております」とセールスマンはいった。それでも、あまり強い主張はしないように人工知能は調整されているといっていた。

 試用期間の1ヶ月はアッという間に過ぎた。青年はあまり女性に縁がない方で、ここ2年くらいは軽いつき合いの女性もいなかった。それだけにこのロボット彼女は衝撃的なインパクトを彼に与えた。彼女は自分の名を「アンノ・ミカ」といい、21才だと答えた。そして今は大学生で就職もするという。恋人だからといって毎日会えるわけでは無い。家にも帰る。住んでいる場所も決まっている。そういう面からもリアルさが追求されていた。

 青年はミカと会っていると、ほんとに楽しかった。気立てがよく、とてもよく笑う。快活で前向き。まだ学生だから将来の夢を話すこともあった。それを青年は聞きながらアドバイスしたりした。

 1年が過ぎ、彼女はある会社に就職した。もちろんそれは設定上の話であるが、彼女はちゃんと毎日どこかに通うのである。そうなると、残業できょうは会えないとかいう日も出てきた。髪型も化粧のしかたも着る服も変わった。それはとても劇的な変化に思えた。大人の女になっていくかのようだった。

 そして2年が過ぎ、3年が過ぎ。彼女はすっかり社会人として自立した考えを青年に披露するようになった。デートの質もすっかり変わった。遊園地が好きなのは変わらないが雰囲気のよいバーでお酒を飲むことを覚えた。時には彼女のほうから新しいお店を見つけたといって誘われることもあった。

 そうしながら4年、5年と過ぎた。彼女は26才になったことになる。青年は34だ。

「なんだかそろそろ意識しちゃうナァ」

 そう、青年は結婚を考えなくてはいけないようなきがしていた。でも、彼女はロボットなのだ。最近はそれが頭の中で曖昧になって来ていた。彼女のメンテナンス料金などを見るとそのときに「ああ、そうだよな。ロボットなんだ」そう思わされた。そして、彼女のほうから結婚を匂わすようなことは何一つ言ってこない。それが「客の側」としては都合よく設定されているわけだが、青年はむしろ、あって当然のことだと感じていた。

 7年が過ぎた。彼女はすっかり大人の女性で「分別あるキャリアウーマン」という雰囲気を持っていた。もう、むかしのように大声で笑ったりしないし、ファッションもだいぶ変わった。見た感じまさに「28才」にならんという落ち着きが出てきた。男との会話も楽しさが薄らいで、質実剛健という感じがした。

 そんなある日、「ミカ」を青年に販売したセールスマンが久しぶりに訪ねて来た。

「お久しぶりでございます。お元気そうでなによりです」

「ああ。ほんとに久しぶりだね。なんだい、きょうは?」

「お客様、最近「倦怠期」を感じていらっしゃるのではありませんか?」セールスマンはニヤリとした。まさに言われたとおりだった。男とミカの間には、もう新鮮さがない気がしていたし会話も弾まない。「二人のその先」が見えないのだ。

「ううん……そうだね」

「そうでしょう。というわけで、当社のプログラムでは、このような場合に「リセット」というのを行うご提案をしております」

「リセット?」

「はい。快活、溌剌の21才から落ち着き安定した大人へ変遷していく女性を恋人として来たわけでございますが、それをもう一度、最初に戻します」

「え、最初に?」

「はい。要するに「一番充実した変化のある、最も美しい季節をもう一度」ということです。もちろんどのように戻すかはご相談させていただきます」

「ああ、なるほど」男は、21才のころのミカを思い出していた。彼のその、夢想に耽るような顔つきを見てセールスマンはニッコリ笑った。

「ようございましょう?」

「ああ……」

「では早速、細かい打ち合わせを」

「ええと、期間を変えたり、同棲とかも設定できるんだよね?」

「はい、できます!」

 次の数年間。彼はどんな「恋」をするのだろうか。


 さて皆さん、「男って……」と思いましたか?

 もちろんこの会社、扱っているのは女性型ロボットだけではございません。性別問わず、ご注文承ります。

一体、いかかでしょう?

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