9 王都へ
早朝、森の中は鳥の声が煩いというイメージがある。しかし、昨日の影響か大変静かだ。
6人で輪になり馬車に残っている干し肉を食べる。コーヒーが飲みたい。せめてお茶でも良いけど。
「御者は護衛のビリーがするから他の4人は荷台に乗ってくれ。あー、そうだ、紹介してなかったな。この三人はうちの従業員だ。左からアリ、ビリ、ティリだ。道中仲良くしてやってくれ。」
「「「よろしくお願いします。」」」三人が口をそろえて返事する。
「よろしく。もしかして三姉妹?三つ子?」
「良く解りましたね。」
「いや、わかり易過ぎるよ、名前似てるし、顔そっくりだし。20歳位?」
「いえ、15歳です。」
「15歳にしては大人びてるな。」
「そりゃそうですよ、15歳は成人ですよ。」
「へー、そうなんだ。」
「何歳の時から働いてるんだ。」
「覚えてないですね。気付いた時には働いてました。」
「偉いなぁ。俺なんて今でも学校に通ってるぞ。」
「えー、いいなぁ、私も学校に通いたいなぁ!」
「でも、俺はあんまり行きたくなかったな。」
「行きたくなかったんだぁ!でも、『俺』って、お姉ちゃん綺麗なのに男みたいだね。」
「お、分かるか?俺は男だぞ!」
「嘘だぁー、そんなおっぱいのデカい男はいないって言ってたよ。」
「誰が言ったんだ、誰が?」
「盗賊の人!」
「あいつかぁー!」くそぉー、あの盗賊思い出してもムカつく!服ボロボロにしやがって、折角神様が呉れたのに、残念なのは特別仕様かと思ったら破ける普通の服だし。
「ところでイサドさん、王都までどれ位掛かりますか。」
「二日だな。何事も無ければ明日の夕方には到着するだろう。」
「何事も無ければ・・・ですか?」
「ん?どうした?」
「いえ、何かが立ったような気がして・・・」
「さぁ、荷台に乗り込め。出発するぞ。」
商人は生き残れた喜びで輝いている。
馬車は幌付きで荷台には座席が二列あり、その後部が荷台になっていた。座席に座るとゆっくりと馬車は出発した。流石に座席が固い。痛い。苦痛。懊悩。責め苦?苦患。サスペンションはどこ?クッションは?
これが二日続くのか?
無理!やわらかいクッションと有能なサスペンションに囲まれた自動車ライフを送っていた(免許はまだない)現代人の俺にとってこれは江戸時代のお白州での拷問に等しい。
ダメもとで言ってみた『レビテーション』。もちろん浮かぶ魔法だ。し―――ん。
無音の音が聞こえて来た。何も起きなかった(T_T)。どうやら魔素が足りない様だ。もう一度『ゼログラビティ―』シ―――ン。また無音の音が聞こえて来た。どうやらイメージが確かでも材料(魔素)が無いと何も生めないらしい。
我慢しよう。
「ところでイサドさん。この国は共和制ですか王制ですか。」
「なぜ?」って首を傾ける。って言うかなぜ不思議そうな顔をするのだろ、来たばかりだから当然だと思うのだが変な事を言ったのか。
「いえ、来たばかりなので未だこの国に詳しくないんですよ。」
「あー、体ですね。徹底してますね。絶対王政だね。有能な王様がいらっしゃるぞ。」
「もしかして勇者が召喚されたりしてないですか。」
「勇者はたまに召喚されてるぞ。最近はどうかは知らないが、魔族が侵攻して来ると言う話が出始めてるから召喚される可能性は高いな。」
「侵攻されてるんですか?」
「そういう話だ。だけど変なんだよな。魔族が侵攻してきたと言う話は聞くが誰も魔族の侵攻を見たことがないって話なんだよな。」
「ちょっと、胡散臭い話ですね。ところで、勇者はどこに召喚されるんですか。」
「王城だと言う話だ。高い塔が有ってその中に召喚の間があると言う話だ。」
橘はあのバスの中で消えた。召喚されたのかも知れない、この世界に。だとすれば、今王城に居るのだろうか。居るのなら会いたいな。
「話は変わりますが、貨幣の種類とその価値を教えて貰っても良いですか。」
「通貨の単位はゴールド、記号はG。貨幣の種類は7種類。石貨1G、銅貨10G、大銅貨100G、銀貨1,000、大銀貨10,000G、金貨100,000G、大金貨1,000,000G、白金貨10,000,000G。大金貨と白金貨はあまり流通してないな。
何がどれくらいの金額で流通しているかを聞いてみた。
すると、ほぼ\1=1G、日本円と同じくらいだ。昔来た勇者が円に合わせたんじゃないのか。
盗賊の持っていた硬貨は、大金貨3枚、金貨32枚、大銀貨23枚、銀貨12枚、大銅貨32枚、銅貨25枚の合計6,445,450ゴールド。魔素はないがちょっと小金持ちになった。これに武器等の売却金が入る予定だ。暫くはお金に困る事は無いだろう。
ところで日本へ帰る時には両替してくれないのだろうか。
夏休み終了の日まで後60と1日。