5 アジト
盗賊に引き連れられて森の中を歩く。
どれほど歩いただろう。足取りが重い、軽いはずがない。心が弾まない、弾むはずがない。10分程歩いただろうか、森の中の開けた場所に連れてこられた。
50人ほどだろうか、かなりの数の集団が居た。おもちゃ箱をひっくり返したような、いや、女子高生が10人集まったかのようなどんちゃん騒ぎの様な喧噪だ。
盗賊が皆なぜかこちらを見てニヤニヤしている。もしかすると、革の鎧が目的ではなく俺を食べる気なのか?そうなのか?食人族なのか?俺は今日の晩飯なのか?
盗賊の顔が俺を見てにやけているのを見れば今晩のメニューは確定かも知れない。
集団を通り過ぎると、その一角にロープで木に括られた人達が居た。男性二人に女性が三人だ。全員絶望に暮れている。今晩のメニュー仲間かも知れない。
男性一人が怪我をしている。瀕死の重傷みたいだ。
「お前もここで大人しくしていろ。お楽しみは後だ。へへへへ・・・」
やっぱり、今晩のメニューは確定ですか?いや、夕食を御馳走してくれるのだと期待しよう。
― 商人と護衛 ―
怪我をしている人を見ると腹から血を流していた。今にも死にそうだ。
「どうされたんですか。」隣にいた護衛らしき人に聞いてみた。
「わ・・、俺はこの商人の護衛なんじゃが、あまりの盗賊の多さに守り切れず、しかも腹に怪我を負わせてしもうた。しかし、ここには回復魔法が使える者がおらんのじゃ。その上、回復の為のアイテムと魔道具も奪われてしまったんじゃ。おぬしは回復魔法は使えんのか。」
「簡単な回復魔法なら使えます。『ヒール』を試してみます。」
使える数少ない魔法が役に立ちそうだ。
『ヒール』と念じるも少しも回復した気配がない。魔素残量は15mpから10mpに減った。だとすれば後2回しか使えない。しかも2回使えば0になる。0になったら死なないのか?まぁ死なないだろう。更にもう一回『ヒール』と念じる。すると少し回復して来た。どうやら腹の傷は深かったらしい。更にもう一回『ヒール』と念じる。突如眩暈と吐き気に襲われたが、傷はほぼ完治したようだ。少し眩暈と吐き気はするが死にはしなかった。
直ぐにその人は目を覚ました。
「大丈夫ですか。」
「な、なんとかな。死ぬところだった。もう諦めていた。本当に助かった。ありがとう。捕まった時に抵抗して腹を刺されてしまったんだ。あんたは命の恩人だな。」
「治って良かったですね。」
「だが、どうしたものか。何とか此処から逃げ出さないと結局殺されてしまう。」
「考えたのじゃが、話しても?」護衛が割り込んで来た。
「どうしたビリー、何時もと違うな。言ってみろ。あー、こいつは俺の護衛でビリーだ。」
「わしはビリーじゃ。盗賊を撃退する良い方法があるのじゃが良く聞くのじゃ。わしゃ攻撃魔法や回復魔法は使えんが、身体強化の魔法や補助魔法が使える為ある程度の魔素は持っとる。そして、わしが使える数少ない補助魔法に『魔素供与』と言うものがある。それは任意の者と魔力のリンクを繋いで自分の持つ魔素を繋いだ相手に使わせると言う魔法じゃ。」
「人の魔素が使えるんですか。」
「そうじゃ。どうやらわしの『鑑定』スキルで見るとおぬしは魔法は使えるのに体内保有魔素量が少なく魔法を行使できないみたいじゃな。そんなおぬしにこそ役に立つ魔法じゃ。わしが合図したらリンクを繋げる。するとおぬしが使える魔法が増えるはずじゃから魔法を発動させ敵をやっつけるのじゃ。」
「はい。やってみます。」
「では、リンクを繋げてみるぞ、どうじゃ、分かるか?」
「なんとなく・・」
「ステータスを確認してみるのじゃ。」
「おー、凄い!!ほぼ全ての魔法が使えます。」
今までグレーアウトしていた一覧にある魔法名がアクティブになっていた。よく見ると『メテオインパクト』いうのが有る。RPGで出て来るほぼ最強の魔法の様なものだろうか。使ってみたい((o(^-^)o))ワクワク。
「今から攻撃しても良いですか?」
「待て、待つのじゃ。お前が持つスキル『アブストラクト』は相手の持つスキルが判らない事には行使しようがない。そこで必要なスキルが『鑑定』スキルじゃ。だからまずその『鑑定』スキルを盗賊から盗むのじゃ。わしが調べた所、盗賊のお頭が『鑑定』を持っとる。まずお頭の『鑑定』を『アブストラクト』で窃取し、その後で、他の盗賊のスキルも窃取して弱体化させた上で魔法を使い更に敵を減らすのじゃ。」
「本当ですか?『アブストラクト』はスキルも窃取出来るのですか?」
「今はスキルレベルが低いから通常のレベルがかなり高い者のスキルやユニークスキルは窃取できないがスキルレベルが高くなれば色々可能となるはずじゃ。」
「分かりました。まず『鑑定』スキルを窃取してみます。」
ちょっとがっかりした。すぐにデカい魔法を使ってみたかったのに・・・
― 夏休み終了の日まで後60と2日 ―
何とか試験を受ける希望が見えて来た、いやハーレムの希望の光が・・・