16 巡り合い
朝から街を散策することにした。
散策序に昨日見た大聖堂へ行ってみるつもりだ。
理由はもちろん神にあのスキル『獲得経験値10分の1』『必要経験値10倍』のスキルを何とかしてもらう為だ。
ホテルを出ると既に町は朝の食材を求める人々で犇めき合い喧騒に包まれ、様々な食材の香りが鼻腔と食欲を擽る。
大聖堂は見えているので道に迷う事はない。街を散策しながら色んな人を鑑定してみる。ほとんどの人はスキルを持ってはいなかった。
衛兵は『剣術』や『槍術』等の戦闘スキルを持っている。しかし窃取すればその人が困るのでとてもじゃないが窃取できない。やはり窃取するなら盗賊などの犯罪者からだろう。
暫く歩くと大聖堂の全貌が見えてきた。
門の前まで来たが大聖堂は大きな教会の様だ。
門から中へと続く石畳を歩いて行く。
入り口の前は階段だった。
階段を上がり終えた所でふと横を見た。
すると一人の女性がこちらを見つめていた。
彼女は冒険者のような恰好をしていたが綺麗に整えられた少し緩いストレートの髪は薄い金髪で腰までの長さがあった。
長身で服の上からでも分かるほどスタイルが良く脚の長さが際立っていた。
彼女は大きな青い瞳でこちらを凝視していた。
その顔はこの世のものとは思えないほど整っていて綺麗で大きな瞳が特徴的だった。
目を逸らすことが出来なかった。
ただ、凝視し続けた。
たった一目で恋に落ちた。
頭の中で鐘が鳴った。
何も考えずただ彼女に駆け寄った。
すると向こうもこちらに向かって駆けだし始めた。
次の瞬間気付いてしまった。
二人の間には鏡が存在していた事に。
彼女は自分自身だった。
運命だと思ったのに。
やっと出会えたと思ったのに・・・
涙が出た・・・・
この世界にも綺麗に映る鏡が存在していたのかと怒りを覚えながら教会の中へと入った。
礼拝所でお祈りをすると直ぐに神が答え始めた。
「早かったの。まぁ、良い事じゃ。ところでどうした。」
「すぐに男に戻してほしいです。やっと運命の人に出会えたと思ったのに・・」
「無理じゃ。この異世界ではわしにそんな力はないんじゃ。しかし、この世界には宝珠と言うものが存在するそうじゃ。それを七つ集めれば願いが叶うそうじゃ。」
「それ、竜が出て来て願いを叶えるやつじゃないですか?パクってませんか?」
「ナ、ナンノコトカナァ・・・」
「それは本当なのでしょうか。」
「この世界には魔法があり、お前は全ての魔法が使える、魔素さえあればな。そして、宝珠とは魔素の塊であり、とある場所に存在するらしい。いくら魔素量が少ないおぬしでもその宝珠を七つ集めればどんな魔法でも発動する事は可能になるのじゃ。」
「ど、どんな魔法でも?」
「そうじゃ、元の世界へ帰還したい、男に戻りたい、などと言う望みも可能となるであろうと言う話じゃ。」
「伝聞?信憑性があるのでしょうか。」
「大丈夫。じゃろう。この世界の神に聞いた話じゃからの。」
「宝珠はどこにあるのでしょうか。」
「魔力の塊じゃ、後は言わずもがなじゃな。自分で探すのじゃ。それも夏休みの冒険じゃろ?」
「本当は知らないんじゃないですか?」
「モチロンシッテイルトモ・・」
「なぜ片言になるのですか。」
「しかし、気を付けた方が良いぞ。他の者も狙っているようじゃ。因みに赤いリボンを付けた軍団ではないからの。」
・・・・
「ヒントをやろう。魔物の中の魔素を溜めておく器官が魔石と呼ばれるものじゃ。そして宝珠とは巨大な魔石の様なものじゃ。だとすれば魔物が多くいる場所にこそあるのかも知れんな。」
「なるほど。魔物が多く集まる場所ですか。例えばダンジョンとかでしょうか?」
「・・・・ま、がんばるのじゃ。」
どうやら正解らしい。
「場所で言えばここよりマー大陸の方が魔素が多いのぉ。」
「では、そちらの方が宝珠が多いという事ですね。」
「因みに大きな丸いレーダーはない。自分で探すのじゃ。」
もしかしたら、レベルが上がればスキルの地図に表示させることが出来るのではないか・・、
「もう一つ大事な話がある。おぬしは日本の漫画の竜玉で言う所の竜じゃ。そして、玉が集まろうと竜がいなければ願いは叶えられぬ。つまり、宝珠が集まり魔素がいくら溜まろうともその魔素を具現化する強大な魔力が無ければ魔法は行使できないという事じゃ。じゃからいくら宝珠が有ろうとも、望みが大きければ大きいほどその魔素を魔法に変える、力つまり魔力を持つ者が必要という事じゃ。そしておぬしの魔力は無限であり、どんなに魔素を使用する魔法であろうとも魔素があれば発動可能という事じゃ。宝珠で魔素を集め、後はおぬしを獲得すればどんな魔法も発動可能になる。もし、誰かがこの事に気付けば世界はおぬしを奪いに来るぞ。呉呉も悟られぬことじゃ。もう、鑑定はされたか?商人は信用できるが、冒険者ギルドは信用に値しないと言う話じゃ。高レベルの『鑑定』で鑑定されたのであればおぬしの魔力は既にギルドに悟られている可能性もある。が、まぁ大丈夫じゃろう。」
「ところで元の世界は帰ることになったらこの体はどうなるんですか。」
「この世界の神の話ではその体はこの世界の人間が死ぬ寸前におぬしの魂を入れたらしいぞ。だからおぬしが元の体に戻ればその体は朽ち果てるかも知れぬの。」
「えっ?じゃ、この体の女性は存在していたという事ですか?だとすれば俺が元の体に戻り、更にこの女性が生き続けて行くことも可能かもしれないという事でしょうか。」
「それは難しいかもしれぬの。宝珠七つ集めてできる事はどちらか一つじゃろう。お前が生きるか彼女が生きるかじゃな。まぁ、集め終わるまでに考えれば良かろう。」
「難しいんですね。という事は不可能ではないという事ですね。希望が持てました。二つを叶える方法を見つけます。元の世界へ帰ってもハーレムは築けないので男に戻り、この女性を生き返らせ、ハーレムを作ります。そして、夏休みが終わったらハーレムごと元の世界へ戻れるように頑張ります。」
「やはり、ハーレム、ハーレム言ってるから、女神がおぬしを女にしたんじゃな。」
「もう一つお願いがあります『獲得経験値10分の1』と『必要経験値10倍』のスキルを何とかしてもらえないでしょうか。このままでは夏休み中に終わりません。それどころか生きていくのも不可能かもしれません。」
「すでに持っているスキルを消すなどそこまで甘やかすことは出来ん。しかし、もう少し体と魂が馴染めば元の体の持ち主と会話ができるようになるし、体の操作を彼女と代わる事も出来るそうじゃ。そうなれば彼女本来の力で敵と戦えるそうじゃ。それに魂と体が完全に馴染めばおぬし自身が彼女の能力で戦う事も可能となるそうじゃ。そうなれば一気にレベルが上がり大魔法も使えるようになるじゃろう。因みに彼女は一切魔法が使えず、おぬしはほぼ剣が使えない。良いコンビではないか。二人の力を同時に使える様になった時には強くなっている事だろうな。では達者でな。」
交信は途切れた。
希望が見えた。
これでいつか会える。
絶対に会う。
何を犠牲にしてでも。
そして・・・・
そう言えば、橘元気かな。
― 神の独り言 ―
方法があるのは気付いたのだろうか。
そもそも宝珠が七個しかないとは一言も言ってないし。
普通は気付くじゃろ、ダンジョンの数だけ宝珠が有ることを、ダンジョンコアが宝珠であることを。
つまり無数にあるということを。
気付かなければそのうち教えるかの?
「今帰ったぞ、何か変わった事は無いか。」
「大変です、神様。例の少年が、少年のいる病院が・・・」
「本当か、それは?」
はー、さすが幸運度18の男じゃ。いや、もう女かの。
夏休み終了の日まで後50と9日じゃ。もう帰らなくても良いんじゃないのかの・・・