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15 追憶

 その後、無言で食事を終えた後、各自部屋へと案内された。

 そこは食堂のある建物の三階だった。

 部屋の中は石作りで灰色に覆われ、少々暗イメージと言うよりは最早ダメージではないかと思えるほどの武骨さだ。

 広さは二十畳ほどはあるのだろうか、一人で使うにはかなり広い。

 窓は廊下と同じ様な上部が半円の天井から床上1m位迄の幅1m位の窓が四つ隙間なく取り付けられている。

 部屋の中はかなり明るい。だのに、石の色の所為か牢獄にさす日の光と言うイメージが払拭出来ない。せめて廊下と同じ白で統一されていれば良かったのだが、もしかすると、これが勇者の重要度であまり期待されていないのだろうか。もしかしたら勇者召喚に別の目的があるのではないのかと訝しんでしまう。


 窓を開けると外は日が暮れかかり夕方の喧騒が遠くに聞こえてくる。

 この部屋は三階だが建っている場所が高く街がやや下の方に見える。

 学校を出てバスに乗ってから未だ数時間しか経っていない。

 しかし、何日も経ったように感じる。

 バスは周りが見えないほどの光に包まれた。

 バスの中の人はあまりの眩しさに目を閉じていたのではないだろうか。

 だとすれば、あの後事故を起こしたかもしれない。

 バスは無事だったのだろうか。

 あの光は消えれば直ぐに周りが見える様になる明るさではなかった。

 後藤君は大丈夫だったのだろうか。


 授業が終わりバス停でバスを待っていた。明日から学校は夏休みで今日は部活の合宿の買出しだった。

 この学校はある理由があって選んだ。一応この学校への進学は希望していたけど、気が付くと大好きな男子もこの学校への進学を希望していると知った。

 だからこの学校へ進学した。

 この学校はかなり偏差値が高いが私はインターハイで連覇したせいもあってスポーツ推薦で入学できた。 最初から推薦狙いではあったけど。

 同じ学部だから仲良くなれないかと期待したけど部活ばかりで全く話もできなかった。別にオリンピックに出たい訳でもないし剣道で食べて行く気もない。卒業まで頑張れたら上出来かなと思っている。だから、恋人は作りたい。高校の時から大好きな彼に想いを伝えたい。

 

 だから、彼が利用するこのバス停で彼を待つ・・・


 しかし、いくら待っても来ない。

 数台バスを乗り過ごす。

 もう帰ったのだと思いバスに乗ることにした。

 入り口近くの座席に座る。


 するとバスのドアが閉まる直前、彼が駆け込んで来た。


「あれ?橘、今日部活休み?珍しいね。」


「明日から学校夏休みでしょ。部活の合宿に行くのよね。だから今日はその買出し。」


 恥ずかしくて待っていたとは言えずお茶を濁してしまった。


「それじゃ、後ろの席開いてるから後ろ行くね。」


「うん。それじゃまた。」


 一緒に座ろうとは言えなかった。


 一緒に座れば話せるのに、勇気が持てなかった。


 引き止められなかった。


 その後だよ。


 バスがバス停を出発し交差点を通過する少し前だった。足元に何かの図形が現れたのは。その直後辺りは目も眩む光に包まれ何も見えなくなった。


 そして、この世界にいる。


 バスでほんの少しの勇気を出して一緒に座ろうと言っていれば召喚されずに済んだかもしれない。少なくともここに一緒にいられたかもしれない。


 だけど、もう一生会えないかもしれない。


 夏休みまでには仲良くなり部活が休みの時にはデートする仲になっていたかった。


 だのに、夏休みから永遠に会えなくなるような事態に陥っている。


 でも、訝しさの残る王女の言動に鑑みればこのまま事を成したとしても元の世界へ帰れるとは思えない。


 もう会えないかもしれない。その可能性は高い。だとすれば王女には内緒で帰還方法を模索するべきだ。

 何んとしてでも、何を犠牲にしてでも、絶対に帰る。


 帰ってやる。


 もう一度会う。


 絶対に・・・・





 ― 王女の自室 ―



「上手くいった様ね、ガラメデオン侯爵。」


「はい、その通りですね。一人従順でない勇者もいるようですが。」


「上手く操って見せるわよ。でも、これでこの国はもう直ぐ私たちの者ね。邪魔ばかりする馬鹿な妹も殺した。次は姉上を排除し兄弟を排除すれば私が王位を継ぐことになる。王には早々に退位して頂かないと。」


「そろそろ前回の勇者も招集した方が良いのではないでしょうか。」


「まだ早いのではないかしら。まずは今回の勇者の洗脳と訓練でしょう。」



 兎に角、これでまた一歩近づいた、もう直ぐだ。もう直ぐこの国も・・・




 しかし、馬鹿な女は操り易い・・・

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