入学編 下(2/5)
【1】
目をカッと勢い良く開くと、よく見る自分の部屋の天井が目に入る。あゆみの死体を発見した拓斗であったが、そこまでの記憶しかなかった。慌てて携帯のカレンダーを確認する拓斗。
「・・・良かった。時間旅行が作動してくれたか・・それよりも何故だ!何故あゆみが・・くそ!」
寝起きの頭で考える拓斗。
時間旅行にあったということは、時間旅行を抜け出す為の鍵を探さなくてはならないということなのだが、今回もこの呪われた魔法に感謝していた。
「あゆみが殺されたのが、今日であればいいが・・」
彼の時間旅行は、その日をやり直すものである。
つまりあゆみが昨日殺され、今日拓斗が発見した場合、二度とあゆみは助からない。
そしてあゆみが助からなかった場合、拓斗にとっては長い時間旅行を過ごす事になるだろう。
今回の鍵は、十中八九あゆみで間違いない。
しかし、鍵が違った場合が問題である。
咲を生徒会に連れて行かない。
連れて行かないが、咲には生徒会に行ってもらう。
三人の男に絡まれる女子生徒を、拓斗が助ける。
または、女子生徒と遭遇しない。
勇樹が女子生徒を助け、勇樹にもその場に残ってもらうように指示を出すか・・そうか!?
拓斗は、あゆみが鍵ではなかった場合の事を考えていた。勇樹の事を思い出した時、急いで携帯のアドレスを開いたのだが、アドレス帳は空白であった。
「・・・そうか。あいつの連絡先を知るのは今日か」
勇樹と同じく、あゆみの連絡先も拓斗は知らなかった。連絡がとれれば一番いいのだが・・あずさか香菜にでも聞くか?と考えた拓斗であったが、こんな朝から何故知りたいの?と聞かれた場合、ごまかす理由が思いつかなかった。
どうする?と拓斗が考えていると、部屋をノックする音が聞こえてきた。
「・・・拓斗?朝ご飯です」
「あ、あぁ。直ぐに行くよ」
伊波に呼ばれ、拓斗は両頬を叩いて気合いを入れ直す。
「・・・大丈夫。いつもの事だろう?時間旅行にあった場合、いつも鍵を探してたじゃないか」
自分に対し、そういい聞かせるかのように呟く拓斗。彼にも、怖いという気持ちがある。時間旅行を抜け出す鍵を見つけられなかった場合、彼は永遠に今日という日を生き続ける事になるだろう。もしくは、時間旅行の限度が決められており、限度に到達した場合、彼は死んでしまうかもしれない。
怖いと思ってしまうのは、当然の事であった。
「考えるのは後だ。とにかく今は・・」
行動を起こすしかない。
拓斗はパジャマを脱がず、そのままリビングへと降りて行った。
「ど、どうしたんですか!?」
「・・あぁ。ちょっと体調が悪くて」
「だ、大丈夫なんですか!!」
体調が悪いと告げる拓斗を心配し、伊波が駆け寄ってきた。伊波の表情を見て、嘘をついてしまった罪悪感が生まれる。
「少し休んでから病院に行くよ。夕方に起きてから病院に行くかもしれないから、伊波が帰って来た時、入れ違いになるかもしれない」
「一緒に行きます」
「ありがとう。でももう俺も高校生だ。伊波にも都合があるだろうから、病院には一人で行ってくるよ・・。伊波!!」
「は、はい!!」
優しい笑顔から一変、険しい表情になる拓斗を見て、伊波はピンっと背筋を伸ばした。
「今日はあずさや香菜、咲達と一緒に帰るようにしてくれ」
「・・・それはいいですが、何故ですか?」
当然、理由をたずねる伊波。拓斗もそうなると予想していた為、迷わず理由を答えた。
「学校周辺で、ひったくりがあったらしい。俺の体調が悪くなければ、一緒に帰ろうと言いたい所なんだが・・すまない」
拓斗が話している事は、嘘ではない。しかし、あずさ達と一緒に帰ってほしいという理由は、嘘であった。
「解りました。きちんと皆んなで帰って来ますので、拓斗は体調を治して下さい」
理由は嘘だとしても、伊波の事を心配している気持ちは嘘ではない。その事が伝わったからか、伊波はどこか嬉しそうであった。
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【2】
伊波を見送った後、拓斗はこれからについて考えていた。
時間旅行にあった場合、とるべき行動は二つある。
一つは、昨日あった事をきちんとなぞっていき、鍵だろうというポイントだけを、変えるといったパターンである。
例えば、咲を起こして生徒会に行き、外で女子生徒に出会う。勇樹が女子生徒を助ける前に、拓斗が女子生徒を助ける。その後、勇樹が現れるか現れないかといった選択肢が生まれるのだ。
もう一つは、全く違う行動をとるパターンである。そもそも、学校に行かないパターンをとった場合、拓斗は学校に行っていた時間が、フリーの時間となる。時間旅行にあう事になるかもしれないが、あゆみが今回の鍵だとするならば、まずはあゆみがいつ殺されたのかを知らなくてはならない。あゆみがお昼に殺されたと仮定した場合、学校に行っていたら、永遠に時間旅行を繰り返してしまう事になる。
拓斗はそう考え、二つ目のパターンを選んだ。
伊波達が授業を受けている時間に、私服に着替え、家を出る事にした。
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【3】
自宅から、学校近くの例の工場までは距離があるが、電車に乗って移動するのは避けた方がいいだろう。警察官や学校の先生に見られたら色々とまずい。そう考えた拓斗は、タクシーで移動する事にした。
廃墟になっている工場に着いた拓斗は、こっそり中の様子をうかがう。バイクは止まっておらず、人の気配も感じられない。携帯を開いて時間を確認すると、時計の針は10時をさしていた。
「・・まだあゆみは殺されていないのか?」
工場の入り口からでは、当然部屋の中など見えるはずもない。時空魔法を使うか?と考える拓斗。しかし、もし中に人がいた場合が問題だ。
住居不法侵入などで、捕まりたくはない。
とりあえず、中に人がいないかを確認する必要があると判断し、敷地に入ろうとした時であった。
「こらこら、君!そこで何してるの!」
女性に声をかけられてしまった。どうごまかすかを考えながら、声をかけられた方に顔を向ける拓斗。そこには婦人警官である、小嶋優子が立っていた。
「君、ずいぶん若く見えるけど学校は?」
「・・・・」
どうする?拓斗は必死に考える。今ここで、捕まるわけにはいかない。捕まったとしても、この場で怒られるだけならまだいい。しかし、あゆみが現れるのを待っていなくてはならないこの状況で、補導されるわけにはいかない。
当然無視する訳にもいかず、小嶋の質問に答える拓斗。
「・・・失礼ですが、小嶋優子先輩ではありませんか?」
「ん?そうだけど・・・もしかして君、魔法科学高等学校の生徒?」
「初めまして。生徒会書記の桐島拓斗と申します。小嶋先輩に会えて光栄です」
小嶋優子は、去年まで生徒会の書記を務めていたはずだ。小嶋との会話を思い出しながら、拓斗は会話を続けた。
「君が私の後任者かぁ。ねぇ?あさみやなぎさは元気にしてる?」
「はい。中村先輩も元気にしていますよ。小嶋先輩は何をなされているのですか?」
小嶋さんとは呼ばず、小嶋先輩と呼ぶ拓斗。小嶋に対し、警察官の小嶋としてではなく、高校のOGてして接する事にしたのだ。
「いやぁ懐かしいなぁ。卒業してからまだ2ヶ月しか経っていないんだよなぁ」
「・・・月日がたつのは早いですよね」
「そうなのよねぇ・・制服も着られなくなっちゃったしなぁ・・」
「・・・・」
卒業してから、制服を着る機会などあるのだろうか?何と返せばいいのかが分からなかった為、拓斗は何も言わず、聞こえていないフリをした。
「ああ!ごめんごめん。それじゃぁ拓斗君は任務制度中だったとか?」
「・・・えぇまぁ」
小嶋の誤解であるが、拓斗は特に訂正しなかった。
「そういえば、私もよく任務制度を利用してたなぁ。生徒会書記って何かと忙しいからさ」
「・・生徒会書記として任務制度を使っていたんですか?」
「ええそうよ。生徒会には任務制度を利用する権利があるじゃない?」
あるじゃない?と聞かれる拓斗であったが、任務制度があるのかどうか解らない。拓斗が無言でいると、その反応を見た小嶋は、先ほどの質問をイエスと受け取ったみたいだ。
「学校周辺で何かあったら、直ぐ任務制度を使って授業をサボっ・・じゃなくて、生徒会の書記として頑張っていたのよ」
やはりというべきか、小嶋は長々と色々喋りだした。女性は喋るのが好きというが"小嶋が"喋るのが好きなのかもしれない。
小嶋の話しをまとめると、生徒会の書記として学校周辺を色々調べていた時、今の上司からスカウトされて婦人警官になったらしい。学校周辺に詳しい事もあり、小嶋は地域課に配属となった。
正直に言うと、どうでもいいと拓斗は思っていた。小嶋が警察官になった経緯など、今の自分にとってどうでもいい。何故なら、あゆみの命がかかっているのだから。
生徒会に任務制度の利用ができるという、情報提供だけに感謝し、小嶋をどう追い返そうか考えていた拓斗であったが、小嶋から再度質問をされてしまう。
「それで?何の調査なのかな?」
当然とも言える、質問であった。
あゆみが現れるのを見張っているのだが、そんな事を言えるはずもない。
「・・・最近この周辺で、ひったくり事件があったはずです」
そこで拓斗は、男性警察官から聞いた話しを思い出しながら小嶋に説明する。
「犯人は二人組みでバイクに乗り、運転する者と犯行に及ぶ者、バイクの二人乗りで犯行におよんでいるという事までは解っています」
「・・・へぇ。私の後任者ってだけの事はあるわね。それで?」
「この工場からバイクが走っていったという目撃情報をもとに、調査に来たというわけですよ」
目撃者は拓斗本人である。拓斗が見たバイクに乗った二人組みが、ひったくり犯なのかは分からない。だからの調査というわけであり、決して噓ではない。その為か、小嶋が怪しんでいるようには見えない。
「なるほどね・・。なら、私も調査に加わる事にするわ!」
「・・・・お願いします」
いりません。と言いたい所なのだが、帰れなどと言えるはずもなく、拓斗はしぶしぶ了承するのであった。
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【4】
時刻はお昼過ぎである。あれから特に変わった事はない。
敷地の中に入って、色々と調べたいと考えていた拓斗であったが、小嶋から待つよう指示を受けていた。
「お待たせぇ~!!拓斗君どう?」
「・・・特に異常はありません」
「違う違う!この格好よ!」
「・・・可愛いいと思いますよ」
あの後、工場の入り口から敷地に入ろうと考えていたのだが、小嶋の服装が問題であった。
婦人警官の格好をした小嶋がいてしまっては、犯人は現れないかもしれない。
そこで小嶋に、一度着替えて来てもらう事にしたのだが、その際に待つよう指示を受けていた。
待つ事数十分。現れた小嶋は短いデニムパンツに白いTシャツ、靴はスニーカーと動きやすい服装で現れたのだが、拓斗の服装と被っていた。拓斗の私服はデニムパンツに白いTシャツ、夏物の上着にスニーカーと、こちらも動きやすい服装であり、小嶋は恐らく、拓斗を参考にしてきたのだろうが、はっきりいってペアルックみたいで勘弁してほしかった。
ペアルックで廃墟を覗いていたら、不審者に見えるからとか、恥ずかしいからとか、色々理由はあるのだが、流石にもう一度着替えて来いなどとは言えず、拓斗は小嶋に敷地に入る許可を求めた。
敷地に足を踏み入れ、プレハブ小屋に近づいて行く。小嶋に1階を任せ、拓斗は2階を調べる事にした。
しかし、2階は閉まっている。時空魔法で中に入ろうにも、部屋の中が解らない。解った所で、小嶋がいる状況ではそもそも使えないのだが・・。仕方なく1階に降りて小嶋と合流するも、鉄格子付きの小窓しか開いていなかった。
「小嶋先輩。この工場はいつ頃廃墟になったのですか?」
「半年ぐらい前かな。自動車の部品工場だったんだけど移転しちゃって」
「となると、このシャッターの奥は機械とかが置いてあるのでしょうか?」
「う~ん。流石に、移転先に持って行ってるんじゃないかな」
シャッターの前で雑談をかわす二人。あゆみの死体は、何かに切断された跡が残っていた。犯行現場はこの奥かと考えた拓斗だったが、小嶋の言う通り機械を残しておくはずもない。
「・・変ですね」
「え?持って行くのは普通だよ?」
この先輩大丈夫か?と頭痛を覚える拓斗であったが、顔には出さず小嶋に理由を説明する。
「廃墟になって半年。しかしここには電気が通っている」
「・・・確かに変ね」
「小嶋先輩。この廃墟について少し調べて来てもらえませんか?」
「解ったわ。これ私のTEL番だから、何かあったら電話して!いい!絶対無茶しないこと事。解った?」
「解っていますよ。一度ワン切りしときます」
小嶋から名刺を受け取り、小嶋の携帯を一度鳴らす拓斗。小嶋は警察署に戻って行く。
小嶋の姿が見えなくなった所で、拓斗は時空魔法を発動させた。
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【5】
念の為、台所の周りを確認する拓斗。やはり異常はない。右手を真っ直ぐ突き出しながら、ゆっくり部屋の奥へと近づいて行く。ここであゆみの死体を発見した場合、はっきり言ってあゆみは二度と助からない可能性が高くなる。
祈る思いと共に、部屋のドアを開ける拓斗。
「・・・・・フー。良かった」
シーツに血の跡は残っておらず、ベッドの下にもあゆみの死体はない。
ここであゆみが来るのを待つか?いや、この部屋は密室であり、時空魔法の使い手以外侵入は不可能だ。バイクに乗っていた二人がいつ帰って来るのかが解らない以上、外で見張る方がいいだろう。
拓斗はもう一度時空魔法を発動し外に出ると、今度はシャッターがある建物の屋上に立つ姿をイメージし、再度時空魔法を発動した。
「時刻はまだ13時。あゆみの死体を発見したのは、警察署から小嶋先輩に送ってもらって夜19時すぎぐらいだったか・・」
屋上から、プレハブ小屋入り口を監視する。あゆみの死体を運ぶにしろ、あゆみ本人が入るにしろ、必ずあそこを通らなくてはならない。残り6時間もあるが、拓斗にとっては決して苦ではない。
つい最近起きた時間旅行では、同じ日を5回繰り返し、6回目にして鍵を見つけられた。起きていた時間に換算した場合、約100時間以上も同じ日を繰り返していた事になる。それに比べたらたかが6時間ではないか。そんな事を考えながら、拓斗は入り口を見ていた。
拓斗が入り口を見張り始めて3時間。時刻は16時になった時であった。彼のポケットに入れてあった携帯が振動する。
「はい。桐島です」
「あっ拓斗君?遅くなってごめんなさい」
電話の相手は、小嶋優子であった。
「電気会社に問い合わせた所、電気を止める工事を忘れていたんですって。おかげで感謝されちゃった」
「・・・そうですか」
良かったですねと、言うべき場面なのだろうか?拓斗が迷っていると、電話の向こうで小嶋を怒鳴りつける声が聞こえる。
「げっ!?鬼瓦だわ・・拓斗君ごめん!ちょっとそっちに行けなくなっちゃって」
「解りました。ご連絡ありがとうございます」
「・・だから言ってるじゃないですか!この格好は捜査の為で、えっ?デート?こんな格好でデート何かしませんってば。あっ!拓斗君ごめん!また掛け直します」
あの声は確か・・女子生徒と一緒に、事件の報告をした時の男性警官の声だったはず。
何やらもめているみたいだが、拓斗にとっては好都合である。
「・・まだ何も起きていないよな」
入り口には誰も出入りしていないし、物音も声も聞こえてきてはいない。
拓斗は携帯をポケットにしまいながら、再び入り口の見張りに戻っていく。
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【6】
拓斗が入り口を見張っていると、若い男性が敷地内に入って来た。
あゆみの姿は見えないし、あゆみを隠しながら、持ち込んでいるようでもない。
時計を見ると、時刻は18時30分を過ぎていた。
若い男は、プレハブ小屋の1階のドアの鍵を開け、部屋の中に入って行く。
(・・どうする?捕まえるか?だがしかし・・)
捕まえる理由がない。
この後、あゆみが殺されるかもしれないからなどという理由は通用しない。そもそも今回は、違うパターンを選んでいる為、あゆみが殺されない可能性もある。無論、あゆみが死んだのが、昨日であれば話しは別だが、部屋にあゆみの死体は無かったことからして、まだ生きている可能性が高い。
色々と考えた拓斗は、とりあえず様子を見る事にした。
若い男は、15分ほどで部屋を後にした。
15分間何をしていたのか気になるが、ひったくり犯が帰ってくる可能性もある。
大丈夫。きっとまだ大丈夫。
拓斗は自分にそう言い聞かせた。
時刻が19時になる前に、バイクが敷地に入って来た。
拓斗はこの後、バイクに乗る二人を見かけ、あゆみの死体を発見している。
拓斗の頬を汗がゆっくり流れていく。
あゆみがあの部屋にいる可能性は、今の所ないといっていいだろう。
窓か割れる音もしなかったし、あゆみ本人も見ていない。あゆみを連れ込んだ様子もない。
心臓が大きな音を鳴らした気がする。
いゃ、気がするではなく、大きな音を鳴らしていた。一回ではなく、何回も、速く、大きく、音を鳴らしている。
身体中が熱くなるのに、頭だけは冷めている。
血の気が引くと言う言葉は、こういった時に使うべき言葉なのか。
拓斗が見つめる視線の先で、部屋に入つた二人組みが、慌てて部屋を飛び出して行く。
まさか・・。
拓斗は慌てながら、時空魔法を発動させた。
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【7】
台所に立つ拓斗。今度は辺りを見る事なく、例の部屋へと入って行く。万が一を考え、右手は真っ直ぐ伸ばした状態で部屋に入って行くと、シーツには血の跡が残っている。
急いでベッドの下を確認する拓斗。
そこには、山田あゆみの死体があった。
(何時だ!?いや、それよりもどうやってだ・・とにかくあゆみをベッドの下から出そう)
拓斗はあゆみを、ベッドの下から引っ張り出そうと考えたその時であった。
激しい音と共に、窓が割れる音。吹き飛ばされた拓斗は壁に激しくぶつかった。あまりにも強い衝撃を受け、意識がとびそうになる。
「・・・くっ!?な、何だ」
身体をゆっくり起き上がらせ、音がした方に顔を向けると、窓が、いや、壁に大きな穴が出来ていた。
「よぉ補欠。あゆみを殺ったのはお前か?」
大きな穴から部屋の中に入って来たのは、彼のクラスメイトでもあり、あゆみのパートナーでもある山本勇樹であった。
先ほどの衝撃で、ベッドは吹き飛ばされている。しかし、あゆみの死体だけはその場に留まっていた。
(あゆみだけを固定したのか?)
あゆみだけが動いていないという事は、あゆみを固定魔法で固定させていたからに違いがないのだが、そうなると、ベッドの下にあゆみがいた事を、勇樹は知っていたという事になる。
「あぁ、あぁ。答えなくていいぜ。何せこっからは八つ当たりみてぇなものだからよぉぉお!」
勇樹の右手があがる。
拓斗に襲いかかる重力魔法『加重』に、立っている事が出来ない。
踏ん張る足元だが、所詮はプレハブ小屋。
あまりの重さに耐えきれず、足元に穴があく。
「そのまま潰れろや!!!」
「く、くそ、くそ、くそ、ちくしょーー!!」
拓斗は思い出していた。
あの時もそうだった。
俺は、勇樹に出会い、そして・・。
山本勇樹というクラスメイトに、殺されたのだ。
何が起きている・・なぁ、伊波・・。
しかし、彼の記憶はここで終わってしまう。
彼は再び、時間旅行にあうのであった。