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2017年/短編まとめ

ミカンの美味しい食べ方

作者: 文崎 美生

白魚のように細い指先で、縦長に並んだガラスのような爪で、彼女はミカンの皮を剥く。

親指の爪を差し込んで、ぷつり、音を響かせる。

それから、ヒトデのような形に皮を剥いていく。


何かと手先の器用な子だと知っているので、もっと、こう、変な形に剥くと思っていた俺は割とここで拍子抜けする。

いつも綺麗に、皮を途切れさせることなく剥いて、そこで箱ティッシュから一枚だけティッシュを抜き取り、実の部分を丸々一枚広げたティッシュの上に置く。

皮はゴミ箱の中へと吸い込まれていった。


そうしてティッシュの上に置いたミカンを再度持ち上げ、ミカンの白い繊維の部分を剥がし出す。

因みに俺もあれは取る。

目立つ部分しか取らないが、栄養があると言われても、食べにくいので取る。


因みに彼女は「そもそも、栄養が有り無しに関わらず、栄養を摂る為に蜜柑食べてる訳じゃ無いから。美味しい蜜柑を自分が一番美味しいと思える食べ方で食べたい」と過去に言っていた。

つまり、白い部分に栄養がある、という人が嫌いらしい。

うるせぇ、ほっとけ、ということだ。


そしてミカンを丸々繋がった状態で、彼女はその白い繊維を取り外す。

こちらに関しても過去に「此方の方が綺麗に取れる」と言っていた。

柔らかな指の腹で擦るように、時折爪でカリカリと引っ掻くようにして、広げられたティッシュの上にはどんどん白い繊維が落ちていく。


確かに、それを続けていく彼女のミカンは、白い繊維が見えなくなる。

薄皮だけで守られている様子に、見事だと思ってしまう。

俺は既に三つ目のミカンへ手を伸ばしているのだが、彼女はその丁寧さ故にまだ一つ目だった。


綺麗に表面の白い繊維を取り除くと、ぺりぺりと音を立てて一つ一つ実を切り離していく。

新しいティッシュを取り出すと、今度は半分に折って、テーブルに置いた。

実の側面に繋がっていた繊維を爪で引っ掻き、取り外しては、取り外した順番に、置いたばかりのティッシュの上で並べていく。


横一列に並んだミカンは、なんというか、変だった。

不思議な食べ方をする、本当に。


綺麗にミカンを剥く代わりに、その綺麗に生え揃った爪の中には、白い繊維が入り込んでいた。

爪と爪で、爪の中の繊維を取り除いても、そのオレンジ掛かった色は落ちない。

爪の白い部分が薄らとオレンジに染まり、ほのかにミカンの香りがすることだろう。


俺は俺で、適当に剥いたミカンを口に放り込めば、思いの外酸っぱく、きゅう、と目を細めて彼女を見た。

繊維のない薄皮で包まれたミカンを見下ろす彼女は、彼女の指先は、とても「……美味しそう」ふと、彼女が俺を見る。

長い睫毛が揺れ、瞬きをして、持っていたミカンを自分ではない、俺の口へと放り込む。


硬い爪が唇にぶつかり、離れていく。

やはり、ミカンの香りがした。


「美味しい?」

「……うん。美味しい」


もぐもぐ、ごっくん、俺が咀嚼して飲み込むまで見届けた彼女は、それは良かった、と頷いて、今度こそ自分で剥いたミカンを自分で食べた。

俺が食べて甘く感じたそれだが、実は、酸っぱい方が好みの彼女は、片眉を歪めて、少々納得がいかなかったようだ。


ちなみに、俺が言った美味しそうは、そういう意味じゃなかったんだけどなぁ。

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