表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉妹の愚痴〜心身障害者への理解を〜  作者: 七宝しゃこ
もう疲れた、もう眠りたい、もう諦めたい
66/134

ユエと生きる

 愚かだと思う。

 実は病気になり、治したいと思うのが普通と言われるのだが、私はまず、


「献血が出来ない」


ことにショックを受けた。

 友人が言っていた。


「私たちのような病気になったら、血液の提供はダメなんだよ。薬の成分が血に含まれるからね」


 献血に行き、何かを貰うのが嬉しかったのではなく、成分献血は時間がかかるから嫌だったが、400の提供をして、


「一人でも命が救えて、もし自分が手術などで必要なときに、誰かに貰えたらありがたい」


と素直に思ったからである。

 そして、骨髄バンクの登録も駄目と言われた。

 小さい頃に、白血病の女の子の日記を読んで、自分の骨髄が適合すればと思っていたため、本気で落ち込んだ。


 自分はまだ誰にも負担にしかならない。

 何のお礼もできない……。


 そう嘆いた。


 そう思う必要はないと、自分の偽善ぶりに腹を立てたこともある。

 偽善者とも面と向かって言われた。

 自分もそう思った。


 でも、ツイッターで哀しげな目でこちらを見ているような犬の写真に、涙が止まらなかった。

 もう諦めたと言わんばかりに、遠い目をしている保健所の犬の写真。


『4月3日まで飼い主か里親を探しています』


と書かれていた。

 毛の伸びきった茶色のプードル系……雑種かもしれない。

 でも体重は6キロ。

 小型犬だろうか?

 しかも自分の住んでいる地域……とっさに、電話をかけていた。


「まだいるのですか?家族は迎えにきていませんか?」


 土曜日である。

 空いているのは土日窓口のみ。

 すると警備を兼ねた保健所の職員さんが、


「月曜日に担当が来ますので、そのときに聞いてくださいますか?」

「で、ですが、日付が迫っていると……」

「土日は自分たちのような職員しか出勤していないので、大丈夫ですよ。3日と書いていますがその数日後までいる子もいるんです」


と安心させてくれるように言ってくれた。


「もしかして飼い主さんですか?」

「い、いえ……実はツイッターで見て……保健所のサイトにもいたので……」

「そうでしたか……飼い主さんが見つかったらその犬も嬉しいでしょう」

「そ、そうですよね……す、すみません。突然お電話しました」


と電話を切った。


 それから考えて、実家に電話をかけた。

 弟である。

 親の反対を完全に無視し、ジャックラッセルを飼い始めた猛者である。

 現在はほぼ両親がその犬の主人である。


「どしたん」

「えっと……プードル系のね……」

「……プードル系って、姉貴わけわからん」

「ツイッターで拡散されていたんだけど、こっちの保健所で3日までに主人が見つからないと処分されるのね?6キロなの。男の子で……」

「……つまり姉貴は、その犬を助けたいと思うわけ?」

「……うん、傲慢だよね……偽善だって解っても……」


黙り込む。


「えぇんやないん。親父に聞いとくわ、親父ー」


 電話の向こうで話す。


「時々散歩に連れて行くならかまんぞやって」

「家から歩いて通うわ」


と答え、月曜になった。


 電話をかけると保健所ではまだその犬がいると言う。

 引き取ると伝えると、迎えに行くことになった。

 ハーネスや首輪はどうだろうと思い、聞くと古い首輪のみだと言う。


 近くのホームセンターに行くと現在9時過ぎ、開店9時半……。

 駄目だと諦め、ふっと思い出す。

 この近くの停留所から電車に乗ると、途中の停留所そばにスーパーがあり、そのスーパーにはペットグッズは餌しかないが100円ショップが中にあり、一時的に使えるハーネスがあるはずだと。


「行くか……」


と途中で降り、必要そうなものを買うと、再び電車に乗り、保健所近くの停留所におり、急いで行った。



 あれ?

と思った。


 実家のジャックラッセルは、10キロ近くある筋肉質。

 太っているのではなく、家系的に通常のジャックラッセルより一回り大きい。

 そのジャックラッセルに負けないサイズの膨らんだ犬……しかし、目は目やにで目の周りが黄色くなり、両耳が赤いのでそっと耳を持ち上げると、中耳炎が悪化して膿で耳がふさがっていた。

 写真映りは可愛いのだが、想像以上に大きく、老けていた。


「この子が、あの写真の子ですか?」

「えぇ」


 一瞬ためらったが覚悟を決めた。

 一瞬だけこちらを見た目が、写真の眼差しと瓜二つだったのだ。


「すみません。この子を引き取ります」


と言い、簡単な手続きを済ませ、連れ帰ろうとしたが、その子は我慢しきれなかったのかおもらしをした。

 持っていた水のペットボトルでそれを流したが次は、下痢をした。

 拭き取り、後は流す。

 これは困った……。

と、思いつつ狂犬病予防の注射もするしと、動物病院に連れて行こうと思った。


 よちよち……爪が伸び切ったワンコは歩く。


「うーん。本当は孔明さんかあきらが良いんだけど……ちょっと似合わないか……」


 呟くと、問いかけるように、


「ねぇ、ユエでいいかな?ユエ。ユエ?駄目?」


皮膚病か、毛の半分のない尻尾をぱたぱた振った犬に、嬉しくなった。




 午後病院に連れて行くと、


「白内障、それに年齢的に言って10歳。中耳炎の耳のうみの塊……よっこいしょ」


手術用の鉗子でねじりとる。


「来週も連れてきてね。次、耳と目の治療と狂犬病予防の注射をするから。カルテを作るけど、この子の名前は?」

「ゆ、ユエです」

「それと、毛が伸びすぎてるからバリカンでカットと、ノミ取り用の薬を出しておくから」


と言われた。

 あっさりとしているが情に熱い先生である。

 通常初診料を取るはずが、保健所からもらってきたと言うと初診料を引いてくれた。

 目と耳の治療費と薬代で済んだ。


 帰りにバリカンと首輪を買った。


 これから寿命が伸びた分幸せになってほしい。

 新しい首輪に取り替え、古い首輪をゴミに捨てたのだった。




 ユエは、月……そして由縁ゆえんのユエ。




 ユエはマイペースだ。

 寝る時はとことん寝る。

 起きると寝ぼけて唸りながら尻尾をパタパタする。

 昼寝後が凄かったことは内緒にしたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ