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姉妹の愚痴〜心身障害者への理解を〜  作者: 七宝しゃこ
もう疲れた、もう眠りたい、もう諦めたい
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今日も運のいいおばあちゃんに会えた。

 今日は天気も悪い上に関節が痛い。

 そして、吐き気と下痢が酷かった。

 でも、いつものように一回家を出るものの、鍵をかけ忘れてはいないかと戻って行くことを繰り返し、歩いて行く。

 頭痛がする。

 微熱がある。


 でも、頭痛薬を飲むよりも先に行こうと思った。


 すると、あのおばあちゃんに会った。


「こんにちは」


と挨拶をすると、にっこり笑う。

 やっぱり、亡くなった父方の祖母に雰囲気が似ている。

 不意に涙が出そうになった。


「こんにちは、こんな天気やねぇ」

「そうですねぇ。桜雨ですね」

「またきてくれたんやねぇ?あぁ、そうや。三つ葉いるかね?苗がようけあるんよ」

「えぇぇ?良いんですか?」

「苗と、葉っぱも持っておかえりや」


とニコニコと袋を取りに戻ると、三つ葉の大きな葉をプチプチと両手山盛り摘んでくれ、そしてスコップで3杯分の土を掘り起こし、別の袋に入れてくれ、


「三つ葉はおひたしが一番よ。今日お食べや」

「ありがとうございます。こんなにようけかまんのですか?」

「かまんかまん。それじゃぁ、お姉ちゃん。ばあちゃんとおうたけん、今日からしばらくええことがあるけんな」

「もうすでに、これがあります。本当にだんだん」


お礼を言い、そして、ふとためらったものの、前回会った時に思ったことを、勇気を出して頼む。


「あの、おばあちゃん。お願いがあるんです」

「なんかいなぁ?」

「あの……引っ越しのどさくさで、私、父方の祖母の写真をなくしてしまって……おばあちゃんに雰囲気が似てるんです。他の人に見せたりしませんから、写真撮らせて貰えませんか?」


 ダメだと言われると解っていたけれど、何故かおばあちゃんの写真が欲しかった。

 すると、


「かまんよ?他の人にも見せてかまんわ。でも、こんなばあちゃんの写真でかまんのかなぁ?」

「か、構いません。すみません」


とスマホで撮らせてもらう。

 そして、穏やかに笑うおばあちゃんの写真をみせ、


「こんな感じです。ありがとうございます」

「しわしわのばあちゃんでごめんなぁ」

「おばあちゃんお若いですよ」

「じゃぁ、気をつけてなぁ」

「はい、行ってこうわい」


方言が混じる会話に、久しぶりに楽しく思いながら、駅に向かったのだった。


 体は辛いけれど、心は軽くなった。

 電車も我慢して乗れた。

 でも、冷えに関節が痛み出す。


 病院に行くと、先週の金曜日から3日で、体重が2キロ落ちていた。


 やった!痩せた。


と内心喜ぶと、先生が、


「嘔吐と下痢のせい。水も飲みすぎないようにね。それに急激なダイエットはダメだよ」


と言われてしまう。

 痩せたいけど食べたら吐くし。

 すると腹部を触診をしている先生の手が熱い。


「先生、手が熱くないですか?」

「何言っているの。君の体が冷えてるんだよ。身体を暖めなさい」


 どうやって……。

 白湯吐くし……コーヒーも紅茶も無理だし……。

考え込む。




 薬を貰い帰ると、三つ葉の苗を植え、ちぎって貰った三つ葉を沸かしたお湯にくぐらせ、大きめにザクザク切って水を切ると、濃口醤油を混ぜ、削り節がなかったのでだしの素を少し混ぜ、久しぶりに固形物を口にした。


「うん!美味〜美味しい〜最高〜癖もないし、美味しいよう!」


 一口しか無理かと思っていたのに、いつのまにか小鉢一つ分平らげていた。


「……食べれた。でも、あと大丈夫かな……」


 後でお腹が痛むかと思っていたが、それほどでもなく、満足感があった。


「今日はいい日、明日もいい日だといいなぁ……」




 運のいいおばあちゃんは本当に、幸せを招く。

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