運のいいおばあちゃん
今日は風が強かった。
パラパラと雨は降ったが、すぐに止んだ。
風は強く少し肌寒かったけれど、今日はちょっと春を探そうと思って、行きは電車だったが帰りは歩いて帰った。
強い風で花の枝がしなり、折れそう……でも枝はしなやかで強い。
それに、普通の用水路なのに、水がキラキラとして春が近いのだと思った。
写真を撮りながら帰っていた。
すると、今日はとても素敵なことがあった。
素敵な人に会った。
家に帰る道を今日は少し変えていた。
そうすると、
「こんにちは、可愛い格好しとるねぇ」
とニコニコと笑うおばあちゃんに声をかけられた。
「そのぶら下げとるのは何かしらん?」
と示され、首にかけていた鍵と病院の診察券を入れているカエルのがま口を示す。
「小物入れなんです。鍵を入れてます」
「可愛いなぁ。それに、お姉ちゃんも可愛いわぁ」
おばあちゃんは本当にニコニコと笑う。
普段はと言うよりも病気が悪化してから人見知りと言うか、そんなの話せないのに、つい笑顔になる。
「あ、ありがとうございます」
「本当にえぇ子やなぁ。笑顔もっと可愛いやんか。におうとるよ。礼儀正しいし、家族も自慢やろ」
「そ、そうでしょうか」
「嫌やなぁ。ばあちゃんには子供がおるけど、2人とも自慢の子や。それに、孫は〇〇高校におってなぁ……」
ゆっくりと私の左手を握り、撫でる。
両親に腕を掴まれた記憶はあるが、こんな風に撫でてくれることはなかった。
「あ、私もその高校の卒業生です」
「すごいやんか、賢いんやなぁ。それに、お姉ちゃん、手があったかいなぁ。今日は寒いけん気をつけないかんよ?」
手は冷たく感じたが、温かい言葉が胸に全身に、脳に染み込んでいく。
「ばあちゃんは82やけど、あんたみたいな可愛い子に会えて嬉しいわぁ。この近所に住んどるけん、また会いにきてな。ばあちゃんは『運のいいおばあちゃん』やけん、運をようけ分けてあげるわ」
「あ、ありがとうございます。えと、お名前をお伺いしても……」
「あぁ、えぇよ?」
名前を聞き、握手して別れた。
「本当に手があったかいなぁ。本当に握手してくれてありがとう」
と言われ、一回振り返ると、頭を下げて手を振った。
帰り道、唇を噛み、瞳が潤みそうになるのを我慢しながら歩いていった。
そして、マンションに着く道に折れると走り出し、階段を駆け上がり、鍵を開けて家に入った。鍵を閉めた瞬間ボロボロと涙が溢れ出た。
頑張れも言われず、ただえぇ子やなぁと笑う。
手を握ってくれる。
私も嬉しくて笑うと、可愛いなぁと言ってくれる
ただそれだけで私の心の氷を砕き、優しい春が芽吹くような気がした。
こんな幸せな日はないと思った。




