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2.「今度こそ、幸せになりたい……!」

◇◇◇


「骨に異常はありません。数日横になっていれば自然治癒するでしょう」

「ありがとうございました」


 痛む場所に薬を塗り、後は大人しくしているようにと言い聞かせた医者は両親と共に階下へ降りて行った。

 メイドのリリィも私を心配しつつも、父たちと一緒に出て行く。

 それを快く見送り一人になると、寝台の上でほっと息を吐いた。

 まだ混乱している。

 少し、一人で考えたいと思った。

 静かになった部屋の中、そっと自分の頬に触れてみる。


「つっ……」


 口の中を少し切ってしまったようでぴりっとした痛みが走った。

 サイドチェストに置かれていた銀細工の施された手鏡を手に取り、自分の顔をおそるおそる映す。


「うわ……」


 先ほど部屋に入る際に姿見に映った自分の姿をみて内心仰天していたのだが、やはり見間違いではなかったようだ。

 覗き込んだ手鏡の中、思い切り見覚えのある顔が驚きの表情を浮かべて私を見つめていた。

 思わずツッコミがでる。


「……前世の私の顔、そのままじゃん……」


 どうしてこうなった。

 私の記憶ではエレノアは、確かいかにも悪役が似合いそうな派手な顔をしたつんつんしたお嬢様だったはずだ。

 なのに今鏡に映る自分の顔は、どうみても子供の頃の昔の私そのままで。


「いや、別に自分の顔嫌いじゃなかったから良いんだけど……」


 どうせなら完璧に別人としてやり直したかったのに気を殺がれた気分だ。

 一瞬だけここがゲームの世界ではないのかなと考えたがすぐに振り払った。

 だってゲームで明かされていた舞台となる国の名前まで同じなのだ。

 どちらかというと私の顔の方がバクなのではないだろうか。


「まあ、これはいいや」


 手鏡を脇に置き、もう一度息を吐いた。

 ここは、『シンデレラ・マリッジ』の世界。

 私は悪役令嬢で王太子と婚約し、そしていつか現れるヒロインと王太子との仲を裂く役目。その後はお約束的に婚約を破棄され、没落していくのだ。


「……冗談じゃない」


 ぎゅっとリネンを握りしめた。

 そんな人生はいやだ。

 不幸な人生はもう前世だけで十分だ。お腹いっぱい。

 今度こそ、私は幸せな人生を生きてやる。

 ここがゲームの世界? ああ、そうかもしれない。

 それでも今、私にとってここが現実であることには変わらないのだ。

 王太子との婚約が既定路線なら、それならば。


「完璧な令嬢になって、逆に王太子をメロメロにしてやる」


 そうなればいずれ現れるヒロインとも対等以上に戦えるかもしれない。

 だいたいヒロインが王太子ルートを選択するとは限らない。

 彼女がルートを変えてくれればそれだけで済む話なのだ。


「今度こそ、幸せになりたい……!」


 もう、男に振り回されるだけの人生はこりごりだ。

 幸せは自分でつかみ取る。

 その為に出来る努力は惜しまない。

 そしてどうせ頑張るなら、最上級の誰もが羨む幸せを手にいれるのだ。


「絶対に王太子と結婚してやるんだから!」


 ゲーム画面で見ていた金髪碧眼の美形を思い出し、私は一人強く決意した。




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